男同士なんだから
「なに〜翔の話? それなら私も話したかったんだけど!」
お盆の上に夏野菜のカレーライスをのっけた菜々が、私たちの方へ近づいてきた。途端、漂ってくるスパイスの香りに絆されそうになる。ぐうと私の腹の虫が鳴った。
菜々が隼人の前にカレーを置くと、「さんきゅ」と言って、隼人はばくばくとカレーを食べ始めた。
「私もそれ、頼んでいいかな?」
「もちろん。朝香は割引してあげる」
「え、俺は? 俺も友達なんだけど?」
「あんたは定価に決まってるでしょ。朝香にはお香のこととか、色々とお世話になってるからだよ」
「うわーひでえ、俺だってお前の終わりのないどうでもいい話を散々聞かされてお世話してるし」
「屁理屈は聞きません」
「男女差別だー」
ぶうぶう文句を言う隼人がおかしくて、私はくくくと笑いを抑えきれなかった。いつもこんなふうに、菜々と隼人がじゃれあっているところを見るのが好きだった。菜々もなんだかんだ言いつつ笑顔を浮かべている。
「翔のこと、心配だよね。本当にただの休暇的な意味で活動休止してるだけならいいけど」
「そうであることを願うしかないよな。俺たちにできることが何かあるとも思えねえし」
柄にもなくしんみりとした口調で隼人が言った。
俺たちにできることは何もない。
そうだ、そうだよね。
何か事情があって翔が淡路島に帰ってきたとして。翔が自分から話をしてくれない限り、私たちにはなす術もないのだ。
私はもう、翔の恋人じゃないから。
「そんな寂しいこと言わないでさー、あんた男同士なんだからちょっと聞いてみてよ」
「は、俺? そんな無神経なことできるわけないだろ!」
「この中で一番無神経なのが似合うの、あんたでしょ」
二日前は自ら翔について色々と聞き出そうと意気込んでいた菜々だったが、隼人にその役割を押し付けているように見えるのは、菜々なりの冗談だ。
「何言ってんだよ。それなら菜々の方が似合ってるぞ」
「サイテー」
売り言葉に買い言葉、だけど愛のあるやりとりについ心がほっこりした。
「とまあ、冗談はさておき。私も翔のことそれとなく探ってみるけど。朝香、また翔と会うことがあったら教えてね。翔のこと」
今度は菜々が私に向かって静かに告げた。
この中で翔の心に一番近づける可能性を持っているのは、本当は朝香だよ。
そんなふうに思われている気がして、胸がちくりと痛かった。
「分かった。何かあったら教えるよ」
何か、なんて絶対にない。
翔の胸の奥に沈んでいるかもしれない澱を、綺麗に取り去ってあげられるのは、多分私じゃないだろうから。




