隠し事
「毎日忙しそうだな。あんま無理しちゃダメだぞー。俺の親父も、この間無理が祟ってぎっくり腰になったばっかだからな」
「それはお父さん、大変だね。お気遣いありがとう」
隼人は普段適当なことばかり言っているが、他人のことを気遣える優しさはある。私は実は、菜々がそんな隼人の性格を気に入っていることを知ってる。
二人、相性いいと思うんだけどな。
高校時代からずっと思っていたことだ。本人の前では絶対聞けないけど。
「隼人、あんた何食べるの?」
「いつのものでお願い!」
「はーい。夏野菜カレーね。承知承知」
パタパタと厨房へと去っていく菜々の後ろ姿が、夫に食事を作る妻みたいだなとよからぬことを想像した。
「朝香、お前翔には会った?」
ぴくり。私の肩が震える。いきなり翔のことを聞かれるとは思っておらず、心の準備ができていなかった。
「……うん、一応ね。たまたま、道端でばったりと。付き合った頃と変わらない感じで話しかけてきてちょっと拍子抜けした」
あの月夜の海での再会が「ばったり」ではないことは間違いないが、隼人はやっぱり私の言葉の裏を勘繰ることはしなかった。
「そうなんだ。俺もこの間再会した時、あいつ、相変わらず男前だなって、最初は思ったんだけど。東京での仕事のこととか、昔話とかみんなで明るく語って。翔もケタケタ笑ってて。でもなんか、ちょっと変わらなすぎてびっくりしたわ」
「変わらなすぎて?」
私も少し違和感を抱いていたところだ。隼人も同じように思っていたのは意外だった。
隼人は「うーんそうだなあ」と腕組みをして唸っている。ない頭を使って必死に考えている様子が窺えた。
「いや俺さ、最初はあいつがふらりと遊びに帰ってきてくれたんだって純粋に思ったんだけどさ、昨日のネットニュース見た? 天ヶ瀬翔、活動休止っていうやつ。あれ見てから、翔は何か隠してるのかもしれねえって思っちゃって」
「隠してる、か……。そうなのかな。翔は私たちに、何を隠してるんだろう」
ほとんど自分に問いかけるように呟いた。
翔が昔恋人だった頃と変わらずに私に明るく話しかけてくるのには、本当に何か裏があるんだろうか。でも逆に、裏がないとすればやっぱり不自然ではないか。単に旧友として思われているだけだとしても、あれだけの別れ方をしたのだ。
私たちの関係は修復不可能なんだって、思い知らされるぐらいの別れだった。
「病気とか色々考えたんだけどさー、まあ本人に聞かないと埒あかねえよな。気軽に聞ける話でもないから、朝香が知ってんなら教えてもらおうって思ったけど、知らねえならしょうがない」
「ごめん、私も翔のことは全然分からなくて。もう昔とは違うんだ。翔は私にとって、遠くで瞬いてる星みたいな存在だよ」
苦笑いを浮かべて、友達を心配する隼人の純粋な瞳に訴えかけた。
隼人は「そんなこと言うなよ」とあえて明るくつっこんでくれた。その優しさがつんと胸に沁みる。




