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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第三章 波の音

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『海のいろどり』

 菜々が切り盛りしている店、お香カフェ『海のいろどり』を訪れたのは、それから二日が経った木曜日のことだ。その日、ちょうど仕事が休みで他に何もすることがなく、純粋に菜々と話したいと思ったのだ。もっとも、仕事をしていても彼女と商談と称して頻繁に会っているので、特別なことではない。


『海のいろどり』はまさに、福良港のすぐそばに店を構えていた。ちょうど昨日翔が私にアイスを買ってくれた『Awaji Gelato』と同じ並びにある。店内の窓際の港を臨むことができる、最高のロケーションだった。


「いらっしゃいませ〜って、朝香じゃん。おはよう」


 午前十一時前、開店三十分前にお店の戸を開けた私に、菜々が慣れたテンションで挨拶してくれた。

 店内に、ほんのりと爽やかなラベンダーの香りが漂う。先日、菜々が買ってくれた今年新作のお香だ。自分のところの商品とはいえ、空間に溶け合っていてばっちりだ。


「おはよう。忙しい時にごめんね」


「全然。木曜日はお客さんが少ないし、大体十二時回らないと誰も来ないんだ」


 レジ回りで仕事をしていた菜々は、まんざらでもないというふうに手をひらひらさせた。


「それじゃあ、遠慮なく……。あ、でも忙しくなったら出ていくから」


「んにゃ、気にしないでー。何か飲む?」


「ありがとう。アイスコーヒーを一杯」


「あいよ」


 ついでにご飯も頼んじゃおうかな、と思ったところで、再びお店の扉が開く。この時間に人がやって来るのが珍しいのだろう。菜々が驚いた様子で「はあーい」と扉の方を見た。


「よう、元気にやってるかー」


「隼人?」


 聞き慣れた男の声がして振り返る。

 そこに立っていたのは、私たちの高校時代からの友人、南部隼人だ。よく日焼けした肌が特徴的な男である。


「あんたまた来たの? 何も用ないくせに」


「うわー、なんだその物言いは! 休憩時間にわざわざ来てやったんじゃないかよ」


「はいはい、ありがとうございます。お席へどうぞ」


「つれないやつめ」


 菜々のドライな接し方は今に始まったことじゃない。隼人は高校生の時から馬鹿っぽい発言を繰り返し、友達からいじられるようなムードメーカーだった。隼人がいれば、その場が明るくなる。翔とは違った意味で愛されキャラの隼人が、こうして他人から軽くあしらわれるはいつのものことだ。


 隼人は私の斜め前の席に座った。彼と会うのはいつぶりだろう。多分、菜々よりは顔を合わせる回数も少ない。漁師の仕事をしている彼が、香風堂にやって来ることもほとんどなかった。会うとすれば、菜々と共に遊ぶ約束をしている時ぐらいだが、お互いに社会人として熟してきた今、みんなで集まる機会もめっきり減っていた。


 この間、翔との集まりの時も、私は誘いを断ってしまったし。


「朝香ー久しぶりだな。この間は来てくれなくて寂しかったぞ」


「久しぶり。ごめん、ちょっと仕事が立て込んでて……」


 後ろめたい気持ちを隠しながら嘘を吐く。隼人はあまり物事を深く考えるタイプではないので、言外に含まれる言葉の意味を考えることもなく、「そっか」と頷いた。


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