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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第三章 波の音

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活動休止

「とにかく私、翔と別れてから、演技をしている時以外のあなたのことはあまり知らないの。ずっと淡路島に閉じ籠っていただけだし……」


 最後の方はもうほとんど皮肉だった。 

 東京に行くと言って広い世界へ飛び立っていった翔と、羽をもがれた雛のように淡路島(そのば)に押し留められた私。比べれば比べるほど、自分が惨めに思えてくる。


「そっか。まあ、仕方ないよな」


 過去のことを思い出しているのか、ぽりぽりと頭の後ろを掻いている翔。話し始めて一時間、そろそろお暇しようと思い立ったところで、翔の方が先に立ち上がった。


「今日は話せて良かった。ありがとうな」


「え? いや、うん」 


 さっぱりとした言葉だったので、内心焦った。てっきり「もっと話そう」とでも言われるのかと思っていたので拍子抜けだ。


「じゃあ俺はこれで」


「うん、また」


 果たして私の中で「また」があるのかどうか分からないけれど、社交辞令的に彼に手を振って別れた。

 頭上の星は、今日も静かに瞬いている。



 その日の夜、私は寝る前に自分のスマホに「天ヶ瀬翔」と打ち込んで検索をかけた。

 彼の名前をこうしてネットに打ち込んだのは初めてかもしれない。多分、菜々や隼人は何度も検索をしていると思うから、二人に話したら驚かれるだろう。

 検索結果は一目瞭然で、翔の顔写真から事務所の公式HP、雑誌掲載履歴や出演番組一覧などがずらりと並んでいた。画像検索すれば、ドラマや映画で役をこなしてきた彼の写真が画面いっぱいに表示される。改めて、見慣れた顔がネットの海に溢れていることに複雑な気分になり、違和感が拭えなかった。 

 記事の検索一覧の方に戻ると、気になる話題を見つけた。


『天ヶ瀬翔、活動一時休止』


「活動休止……?」


 予想外のワードが目に飛び込んできて、スクロールしていた手が止まった。

 活動休止なんて、翔は言ってなかったような……。

 今日、本人から聞いた話によると、確かマネージャーに休暇を勧められたという話だった。それは会社員で言うところの有給休暇のようなものだと思っていた。なんだろう。心臓が不自然なほど暴れ出す。私は、震える指を動かして記事の続きを読んだ。


『モデル・俳優を務める天ヶ瀬翔(二十八)は、不定期の活動休止期間に入ると発表した。事務所は、「理由については一切お伝えできかねますこと、ご了承ください。今後活動再会の目処が立ちましたら、公式にてお知らせいたします」とコメントしている。』


 たったそれだけのシンプルな記事だった。日付はちょうど今日、二〇二五年七月八日となっている。記事の下の方に読者のコメント欄があって、リアルタイムでコメントがどんどん書き込まれていた。


『えー、活動休止ってまじ?』

『今度の映画、楽しみにしてたのに残念』

『映画公開前になんで? 病気かな』

『病気だとしたら、早く良くなりますように』


 突然の翔の活動休止報告を目にして、嘆き悲しむファンの姿が容易に想像できた。

 コメントにもあるように、翔が主演を務める青春映画が一週間後に公開予定だ。それにも関わらず、今活動を休止するなんて、のっぴきらない事情があるのだと憶測する声が飛び交った。


「もしかして本当に病気……?」


 いや、そんな、まさか。

 昨日、今日と翔に会ったけれど、体調が悪そうな素ぶりは見せなかった。だが私が見た翔はほんの一部分で、体調が悪いことを私に悟られないようにしていただけなのかもしれない。


 それに、よくよく思い返してみれば、昔よりも線が細くなったような気がするし……。


 そこまで考えて、自分が思いの外動揺していることに気がついた。活動休止のことを、翔本人に尋ねようか迷う。でも、自分から翔にコンタクトを取る勇気もない。もやもやする気持ちを抱えたまま、今日は眠れそうにないな——とスマホの画面を眺めていた時だ。


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