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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第二章 潮の香

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待ち合わせ

 翔が宣言した通り、彼は昼休みや放課後、積極的に私に声をかけてくれた。人気者の翔は男子からもよく声をかけられる。運動場で一緒にサッカーしようだとか、放課後に新しく発売したゲームを買いに行こう、だとか。そういう誘いにも、彼は程よく応えていく。だから、私が翔と過ごすことが多くでも、私に対してやっかみを言ってくる人はいなかった。彼の処世術はそばで見ていて目を瞠るものがあった。


 そして、翔はいつだって底抜けに明るい。

 爽やかな顔に似合う、さっぱりとした明るさを持ち合わせている。さらにムードメーカー的な天真爛漫さもあって、男子にも女子にも人気だ。一年四組の中で、翔は特別な存在になった。翔がいるとパッと周囲が明るくなる。自由人らしく、授業中にお喋りに興じて先生から怒られてもあっけらかんとしている。翔ならまあいいか、と許されてしまう不思議な力があった。とにかく彼は、クラスの中で、いや教室という枠を超えて、学年一の人気者だった。大げさだけど、その時は本当にそう感じていた。


 セミの声が響き始めた七月、期末テストが終わると、翔が「今度、遊びに行かない?」と誘ってくれた。いつになく真剣な表情で、翔らしくなくて心臓が高鳴った。


「遊びに? うん、いいけどどこに?」


「西海岸の方。俺、あんまり行ったことないんだよね」


「いいね。私も、家族と時々行くぐらいだから楽しそう」


 西海岸というのは、その名の通り、淡路島の西側に位置する海岸沿いの通りのことだ。東海岸と違ってサンセットを臨むことができる西海岸には、近年オシャレなカフェが増えている。観光地としても、デートスポットとしても人気のエリアだ。


「お、良かった。じゃあ、土曜日の十時に、校門前集合でいい?」


「うん!」


 初めて翔が遊びに誘ってくれたことが嬉しくて、思わず頬が綻ぶ。

 これって、歴とした“デート”だよね……?

 人生で一度も男の子と二人きりで遊びに出かけたことのない私は、一気に心臓が暴れ始めるのを感じた。念の為親友の菜々に、「翔とデートをすることになった」と報告する。菜々は、「えー! 一大イベントじゃん! うわーいいなあ。楽しんできてね」と驚きつつも素直に喜んで送り出してくれた。菜々に選んでもらった白地に花柄のワンピースを着ると、自分が可愛い女の子になれたような気がして胸が高鳴った。


 来るデート当日の土曜日は七月七日、七夕の日だった。待ち合わせ場所にした学校の校門前で翔を見つけた私は大きく手を振る。


「おはよう」


 翔はグレーの短パンに黒いシャツを着ていた。なんということもない服装であるはずなのに、翔はオシャレでモデルみたいだった。私服姿を初めて見たのでドキドキする。


「おはよう朝香。いいじゃん、私服」


 花柄のワンピースを着た私を見て淡く微笑んだ彼は嬉しいことを口にしてくれた。


「そうかな? 変じゃないかな」


「全然。めちゃくちゃ似合ってる。可愛いと思うよ」


「か、可愛いって……ありがとう」


 私だったら恥ずかしいと思う台詞もこんなふうにさらりと言ってのけるなんて。

 あ、でもよく見ると翔の耳が赤くなっている。

 本当は照れてるのか——そう思うとなんだか可愛らしくて、私はふふ、と思わず笑みをこぼした。


「時間もったいないし、早速行こう!」


 話題を逸らしたかったのか、頭の後ろを掻きながら、彼は出発の合図を口にした。学校前から西海岸まで、バスを乗り継いで行かなくちゃいけない。結構な長旅になる。お昼までには目的地に到着したいという目標があるのだろう。私は「うん」と頷くと、翔と共に最寄りのバス停へと向かった。


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