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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第一章 月の海

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天の川

「あ、やっぱり見える、天の川! 暗くなってきたからさっきよりずっとはっきり見えるよ」


 翔の一声に、私は天を仰ぐ。

 淡路島のいいところ。それは、星空が綺麗に見えるところだ。

 見上げた先に散りばめられた星の川をまじまじと見つめる。昨日も、一昨日も見えていたはずなのに、今日になって初めて気づくなんて。


「本当だ。久しぶりに見たかも」


「え、そうなの。毎日見えるのに?」


「うん。星空なんて、ふとした時しか見ようと思わないんだよ」


「そんなもんか。東京では見えないから、こっち帰ってきたら星を見るぞって意気込んで来たんだけど」


「都会の人からすればそうかもね。田舎では普通だよ」


 普通じゃない。昔は私だって、星空を眺めるのが好きで、よく星空観察に出かけていた。でも最近はどうだ。目の前の仕事に追われるばかりで、星を見る気力や時間がない。島での暮らしは、都会のそれに比べたらずっと穏やかなはずなのに、私だけがキリキリと何かに急かされているような心地がしていた。


「そうかー。俺は超久しぶりに綺麗な星空が見られて嬉しいわ。あーあ、東京なんて行かなきゃ良かったかなー」


 自重気味に笑う翔に、私はなんと返せばいいか分からない。


『親の都合で、東京に戻らなくちゃいけなくなった。だから東京の大学に進学する』


 高校三年生の夏、翔の口から聞いた事実に、動揺を隠せなかったことがフラッシュバックする。元々淡路島の出身であった翔は小学校に進学すると同時に東京へと引っ越していった。その後、中学生の時に再度淡路島に戻ってきたと聞いていたが、大学でまた東京に戻っていくなんて。素直に寂しいと思った。でも、菜々のようにまともな大学に進学したいと思っている人はみんな淡路島を出ていった。ずっと淡路島にいるのは家業を継いだ私と、これまた父親が漁師をしている隼人ぐらいだった。


「東京、楽しくなかったの」


 純粋な疑問が口から漏れた。

 私がイメージする東京の街は、どこもかしこもキラキラと輝いている。もちろん何度か行ったこともある。東京の街は眠らないというのは本当だった。夜になり、ネオンライトの光る看板がそこかしこに掲げられていて、街を歩けば飲食店がそこらじゅうで遅くまで営業をしていた。すれ違う人の多さに圧倒されて、疲れたけれど、楽しいと思ったことを思い出す。


 そんな場所で、翔は人気俳優として活躍していた。

 映画やドラマで翔の顔を見るようになって久しい。画面の中に知り合いが、しかも元恋人が出ているのを見て複雑な気持ちになるのにも、もう慣れてしまった。ちょっと前に放送されていた連続ドラマにも、彼は主役として登場していた。ラブストーリーのヒーロー。翔に似合う役はいつだって主人公で、綺麗な女優さんとキスをしているシーンだって何度も目にした。

 そんな翔が、東京に行かなければ良かったなんて、思うはずがない。

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