智恵理ちゃん【WEB】
智恵理ちゃん
今……わたしは葛藤している。
今日はわたしの大好きな海月水族館で夜間ライトアップコスプレイベントなのである。
海月水族館の名物の、海月クリームソーダに因んでの企画なんです。
みんな其々の思うクリームソーダに扮して、訪れると無料でライトアップされた海月水族館鑑賞出来るという大盤振る舞いなんです。
コスプレイヤーの大先輩、林檎ちゃんに誘われて、海月水族館で待ち合わせなのである。
林檎ちゃん曰く、今回はそんなに大きな規模のイベントじゃないので着替えるところが無いなだそうだ。
ある程度着こんで行って、現地でちゃちゃっと着替えるような感じで衣装を作ればいいよと、アドバイスをもらったものの……わたしの美的プライドが許さず、ガッツリやっちまってしまったのだった。
会場まで小壱時間の事だし、まっ、いっかと高を括ったのだった。
わたしの葛藤はと云うと、それは実母とばったり出会わずにガッツリ着こんだわたしが玄関をさらっと出られるかについて、実母の動きと位置と気まぐれの予測と家庭音でタイミングについて今、葛藤中なのだ。
よし! このタイミングなら行ける筈。
日頃のわたしの観察眼と実母の気まぐれの不思議行動のパターンでいえば、行けとわたしは踏んだのである。
そろりそろりそろり……よしよし。
「いっていきま~す」
わたしがドアノブを掴むか掴まないかの間に、忍び寄る黒い影があったことに、わたしは気がついていませんでした。
「ちょっと待ちなさいよ?」
むんずと、実母に肩を掴まれるわたし。
「痛いんだけど?」
「肩の痛さより痛いのは、あんたの格好でしょ? それで玄関出るなんて言わないでよ?」
どうやら実母、頭の堅い旧人類のようであるとわたしは実感してしまった。
出ると言わないでよと云う事は、言わなければ素通りさせてもらえるとゆうのだうか?
実行あるのみなのである。
わたしむんずと掴む実母の手を振り払い、玄関のドアノブをクルリンコと廻し開けると同時に左方向へと駆け出し弐階の階段をカンカンカン! カンカンカン! カンカンカン! カンカンカン! カンカンカンと掛け降り、大学へと通学している最寄りの駅へと向かい、パスでピッとして改札をくぐっていた。
後ろを振り返ったが実母の姿はなかった。
どうやら諦めてくれたらしい。
海月水族館方面へと行く電車は直ぐにあった。
壱時間程電車で揺られていれば信天翁だって辿り着ける道程だ。
休みになる度に通っているので、もうわたしの軆に馴染んでしまっているだが。
家でたよ。電車で向かってるよ。と、林檎ちゃんにメールを飛ばす。
秒に返信来た。
えっ! もう出ちゃったんだ! 只今、親爺どのともめもめ中なり。流石智恵理ちゃんは良い子ちゃんだから簡単に送り出してくれるんだね。強行突破するなり! 暫し待たれよ!
すかさずわたしも返信。
わたしも突破したんだってばさ! 先行ってるよ! 海月の大きい水槽の前で待ってるね。
すかさず帰ってきた!
了解なり!
ワクワクどきどきどきと、何か目線感じるなと、帰ったら壱時間程説教だろうなと、入り雑りながら、わたしは今日の終着駅、海月水族館へ着きました。
「レイヤーの皆様! お着替え場所がございますので、そちらでお着替えして頂いてから受付して下さいませ!」
えっ? 着替える所あるじゃんか。
事前確認しとけば良かったな? 今さら、遅かりし馬之助だけど……。
「すみませんわたし着て来たんですけど?」
「そのまま受付にお進み下さいませ。」
「この格好無料で入れるんですよね? 何かチケットとかお印とかあるんですか?」
「受付の係の者が確認してますんで、そのまま受付して下さいね」
「有り難う御座います! 分かりました!」
なんか受け付けんとこ係の人多いな? 心持ちかそわそわしてる気がするけど? 大丈夫かな? でもこの格好でいいって、さっきの人言ってたし大丈夫か!
係の人カウントしてるんだ? 今日は特別なイベントだからか? 手押しって……アナログだよね。ちょっとクスッて笑っちゃうな。
次わたしだ。ふう……緊張するな。
パンパン! パンパン! パンパン!
クラッカーの嵐。
「御目出当御座います! 当館10万名目のお客様で御座います」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……。
えっ? TVカメラ廻ってるけど?
その後、女性のアナウンサーの方にインタビューされたり海月水族館のグッズ盛り合わせに大きな海月の縫いぐるみもらったり、記念撮影があったりでてんやわんやでありました。
イベントが終わるまで、取り敢えず事務所で預かってもらいました。
帰り持って帰るのか……あの縫いぐるみ。
人が少ない事だけ祈ろう。
大きな大水槽の前で林檎ちゃんを待ってると電話が掛かってきました。
御免! 行けなくなった……。
「泣いてるの? 大丈夫? 許してくれなかったんだ」
御免ね。わたしも楽しみにしてたんだよ。今日までのあの努力が無駄になっちゃったな。
「林檎ちゃんの職人芸見てみたかったな……」
着ていっちゃ駄目だって壱点張りでさ! あの頑固親爺!
「林檎ちゃん! 着替えるとこあったよ!」
えっ? マジで? わたし聞いたんだよ? 事務局にさ?
「言ってたよね! でもわたしは会場でこの耳で聞いてるからね! この眼でしっかと見てますよ!」
電話切るね! 親爺殿と話して見るから!
「うん! 待ってるよ相棒!」
合点承知でえ!
プチッ……。
暫くしてから林檎ちゃんからメール来た。
今、向かってるから。
了解なり!
デザインワークス:なないろかめれおん