7話 死と言う名の概念 濁りし人間達が見た、その一端
咒言によって具現化した死が、子供の形と成って湧き上がる。
私を中心として影が広がり、周囲の人間と山賊ヤガザの足元が影に染まる。
悪意の化身はリンを抱えて空に、遠くに飛んだ。
「な、なんだこれ?!お頭!助けっ――――」
影から湧き上がる死が人間を包み、そして無に帰して行く。
「貴様ぁ……!喰らぇ〈地裂槍〉!!」
山賊ヤガザが私に向けて槍を突いた。
でも届かない。足元から死に沈んで、壊れて、消えて……咒言に包まれて、具現化した死に溺れてく。
周囲を見渡してみる。山賊ヤガザを含め全部死んだ。
けど、洞窟にはまだ濁った人間が多数いる。この咒言の力が無くなる前に、まだ残っている人間に向けて、死を放つ。
粗方片付いた。具現化した死を全部消し去る。影は収縮して普通の影に戻って、死は完全に霧散した。
悪意の化身がリンを抱え空から降りた。
「空に行く必要なんて無かったのに……」
「はぁ、そうらしいな。俺が前に見た時よりも精度が上昇している」
初めて咒言をやってみた時のことよりは、流石に上達はしてると信じて欲しいところ……
「アクイ様。ありがとうございます」
……悪意の化身から降りたリンは、唖然として私を見つめてた。
「もしかして、自分の手で復讐したかった?」
「い、いえ!私にそんな力はありません。誰かが倒してくれることを願い今日の今まで過ごしてきました……でも、貴族と繋がっている事実。いつまでも見つからない本拠地。とうに諦めていました。ですが……」
リンが洞窟を進んで、かろうじて残ったヤガザの死体を眺めた。
「……ですが、化身様が、ユウ様とアクイ様が、私の悲願を、復讐を果たしてくれました。村のみんなの無念も、これで果たされるはずです」
そう言って、ただ呆然と空を眺めた。
「俺達は離れて、リンを1人にしてあげよう。今はその方が良い」
……悪意の化身の言う通りにしよう。
「この度は、ありがとうございました。そして、私は一つ決心しました。私を、ユウ様の目的探しに協力、同行させて下さい!」
リンが突然そんなことを言い出した。どうしよう……
「そうか……リン。この旅路は厳しいものになるだろう。それでも俺達に同行するのか?」
「はい!同行させて下さい!」
「良く言った。さぁ!まずは街だ!リン。君が知っている街にまで案内してくれ」
「お安い御用です!ですが、まずは馬車のとこまで戻りましょう。色々な物をあそこに放置したままですので…………」
私を省いた会話がやっと終わった。
山賊ヤガザとその一味である濁った人間全て。全て死に沈めたから、もう洞窟には、山には用は無い。
リンが言った通り横転した馬車に向かう。今度は飛んだからすぐに到着した。
「まず!ユウ様とアクイ様は服が神々し過ぎます!そんな服装で街に出れば、どんな事態を引き起こすか……」
そんなことを言いながら、横転した馬車の中に入って何かを取り出した。
「本来なら私が所属している商会に卸す服ですが、致し方ありません。これを着て下さい」
リンが着ている服に近い、私達化身の服とは違う上下一式の服を渡された。
……もしかして迷惑をかけてる?それなら、この服の構造は……結構簡単。これなら……
「え…………えぇ?!」
化身の服の色や形を、リンから渡された服そっくりに変える。結構上手く行った。隣にいた悪意の化身も、リンに渡された服に着替えずに化身の服を変えた。同じ思考だったみたい。
「そ、そんなことができたんですね…………」
リンが口を開けて唖然としてた。様子はかなり滑稽。
「はい。返す」
「済まないな……この服は化身としての分身のようなものだ。固定の姿を持たない俺達は服も固定の姿を持たない。このように変えることも可能なんだ」
私と悪意の化身で渡された服を返す。目的…………達成はしてないのか、街にまだ行ってないから。
「さて、あの馬車はどうするつもりなんだ?」
悪意の化身がリンに聞いた。
「放置……するしかありませんね。馬車は横転した上に、馬は逃げて馬車はもう動かせませんから」
「馬が何処に逃げたか分かるか?」
「いえ……流石にそこまでは意識が回らず……」
「…………いた」
四足歩行で、横長で、尻尾があって、熱を持った大きな生命。分かりやすい。
「何処だ?」
「あっち」
私が方向を指し示したら、悪意の化身がその方向に飛んで行った。
少し経ったら、悪意の化身が馬に跨って私とリンの前に現れた。
「これです!この馬です!すごいですよ、まさか逃げた馬を探し出せるとは!」
リンが歓喜した。
待っている間に私が横転した馬車を元に戻して、あと横転した時に破損してたのが一つ。木製の車輪。木だったから生の力で木を成長させて、破損を直せた。
これで……どうするのだろう?
「リン。馬車は扱えるか?」
「当然です!そうで無ければ街の外になんて出ていません!」
リンは自信満々に胸を張った。
横転した時にぐちゃぐちゃになった馬車内を片付け、私と悪意の化身を乗せた馬車が動き出す。
「さぁ、行きますよ!目指すはシュッダ!この辺で1番大きな街です!」
リンが手綱を握って、多分街に向かい始めた。