5話 災厄達の珍道中 復讐に燃える少女発見!
「まず、大前提として服だ。衣服を調達する」
「あるけど。あと私達には必要ないと思うけど」
あのダンジョンに飛ばされてからそのままだった寝間着から、化身の力を使って化身として活動する時のいつもの服に着替える。
「……お前なぁ…………目的無いんだろ?それなら当面の目的はこの世界の現地の服を手に入れること。これでいいか?」
「分かった」
鬱蒼と茂る森を歩いて進む。飛んで行った方が早いけど、悪意の化身に止められた。それと悪意の化身はダンジョンについての情報を知っているだけで、それ以外は知らないと言った。
故に私達はこの世界について殆ど知らない。国王から聞いた情報は少ないし、私達化身に取ってステータスなどの基準は意味を成していない。
だからどうした、と言う感じではあるけれど。
「……落ち着いてきた」
「おー、漏れ出る生はもう無いに等しいな。これで歩く度に足元から植物が生えることは無いだろう」
悪意の化身は楽しそうだ。でも、どうしてそんなに楽しいのか、私にはよく分からない。
「そう言えばだけど、どうしてそこまで私に気を掛ける?」
「そ、それはだな……同類だからに決まっているだろ!」
珍しい。声を張り上げるなんて。
……?声?
「声が聞こえた」
「方向は?」
「あっち」
私が方向を指したら、悪意の化身が耳を澄ました。
「……遠いな、飛んで行くぞ」
少し焦ってる?どうしたんだろう……
その場から上に飛んで木々を抜ける。ある一定の高さを抜けると、凄く見晴らしが良くなった。そして声の聞こえた方向に最短直線に飛ぶ。
飛びながら声の方に近付くと、森に亀裂。道があった。特に舗装されていない簡素な道。それがずっと続いていて、その途中には馬車が1つと人間が1人。それを武器を構えた人間数人が1人の人間を囲んでいる。
その他には小綺麗な武器防具を携えた3人の人間が地に伏していた。全部死んでる。
悪意の化身は囲まれている人間を見ていた。
「ほう……?内に秘めるは中々の激情……復讐か?なあ生と死の化身。これを気に憎悪の化身でも新たに創るか?」
「要らないし、もう似たのがいる」
「あー……あいつか、確かに視点を変えれば憎悪に染まっているな。凄く面倒臭くてとある一体の神を敬愛している奴が」
「今はそれよりも」
「ああ、そうだな」
「い、嫌!来ないで!」
「兄貴!馬車にあるもん全部高値で売れそうですぜ!」
「なら持てるもん全て奪え!良いもん見つけた奴はボスから報酬が支払われるぞ!」
「この女どうします?兄貴」
「持って行け。奴隷にすれば高値で売れる」
「〈悪逆波動〉」
「〈蝕怨〉」
襲っていた盗賊と思われる人間達を化身の力で跡形残さず消し飛ばして、空中から地面に降り立つ。
襲われていた1人の人間以外を、近くを私が。少し離れた場所にいた人間達を悪意の化身で分担した。消し飛ばした場所に残るは微かな塵のみ。
残った人間……性別年齢的には少女と思う。それはただ私と悪意の化身を見つめてた。
「も、もしかして…………神さま……?」
かー……神?……確かにさっき寝間着から着替えたいつもの化身の服は、目の前の人間の服とはかなり様相が違う。言うなれば神々しい……だろうか?悪意の化身も私とは形は違うけど同じような服。
かなり、かなり前に神と言われたのも、この服が原因だろうか……?
「神様!このような下賤な平民1人を助けて頂きありがとうござ――――」
「神じゃ無い」
「へ?」
「そうだな。神では無い。俺等はそれぞれの概念の集合体。悠久の時の中、感情を持った概念そのもの。化身である!」
悪意の化身が説明してくれた。
「改めまして。私は、商人見習いのリンと申します。先程は助けて頂き、ありがとうございます」
人間の少女はそう名乗った。緊張している……
馬はおらず馬車は横転。護衛だと言う冒険者3名は死亡。生き残ったのは少女ただ1人。
「内に秘めている復讐の感情。かなり歪んでいる。俺等はただそれを知る為に、リン。君を助けた。さぁ、その原因を教えてくれないか?」
悪意の化身が率直に質問をした。
リンはその質問に息を呑み、心拍数が上がった。
「…………今から、数年前……私の生まれ故郷である村を、山賊達が焼き払い、そこにあった金目の物を奪い去っていきました。他の人達は山賊に殺されて……何とか逃げれた私は、知り合いの商人に私を弟子にして貰い、ました。よく村に商売しに行っていたから、村が焼かれたことを知って怒ってくれた。事情を話したら、その人は私を家族のように……」
リンの目元から涙が溢れた。感情を見るに、悲しみでは無く感謝……なぜ悲しみでは無くて感謝で泣くのか、分からない。
「私が恨む相手は、その時村を焼き払った山賊。そしてそれを指揮したボス、ヤガザ。ヤガザは今や、大山賊を名乗ってこの近くの山を縄張りにしています。今の盗賊も、多分あいつの手下。あれから何年も経って、指名手配も付きました。でもいつまで経っても討伐され無くて、調べに調べたら、あいつは貴族と繋がっていた。だから何年もあの山でのうのうと生き延びている!」
地面を拳で叩いた。感情は怒りと憎悪に染まっている。嘘は言ってない。
あと、私の隣で悪意の化身がブツブツと考え込んでいる。どうしたんだろ……?
「……そうだ、目的だ!目的が無ければ積極的に面倒ごとに頭を突っ込ませれば良い!そうと決まれば、生と死の化身。今は衣服の調達を後回しにして、その山賊の討伐を目的としよう!」
「……分かった」