39話 御労しきダンジョン、その名はビッカ大空洞 蹂躙の災禍が襲う日
「ここがダンジョン。ビッカ大空洞か。しかし何で地下なのに日光が降り注いでいるんだ……?この光量は物理的に不可能だろ……」
悪意の化身が遥か頭上に生い茂りかなりの光を発する苔を覗き歩きながら、そう呟いた。
確かに洞窟の天井から地上と相違ない明るさを発し、人間であれば活動に支障の無い程度に周囲が見える。化身にはあまり関係が無いけれど。
カダッカの街の街での大会が控えている影響か、このダンジョン内では人間が1人もいない。リン曰く、下手に危険な依頼を受けたことによる依頼中の怪我での弱体化を避けているとのことらしい。やはり身体を自由に再生可能な化身には関係が無い。
それで、ここに来た理由である『黄金の林檎』は、ビッカ大空洞の地下4階の何処かにあるらしい。それ以外の情報が無いことから、私には4階に到達したとしてどうすれば良いか分からない。だから詳細な探索指示等は全部悪意の化身に任せることにする。
私と悪意の化身と暴力の化身がいるビッカ大空洞の地下1階の入り口。そこから地下4階まで行かなければならない。暴力の化身が足元に穴を開けて近道しようと言い出したが、悪意の化身にすぐに却下された。
「さて、まずはこの地図にある地下2階に続く階段に向かう。異論は無いな?」
「無いに決まってる」
「……無い」
暴力の化身は少し不貞腐れたように言葉を吐き捨てながらそう言った。却下されたことがお気に召さなかったのだろうか。
ビッカ大空洞の地下1階。ここは地上のように光が降り注ぎ、その影響か地上とそう変わらない森が形成されている。地底の地上と呼べるここは、地上にいる生命体が普通にいる。スライムやゴブリンなどの生命体を中心に生息し、悪意の化身が冒険者ギルドで聞いた話によると、地下に進むほどより強力な生命体が行く手を阻むそうだ。
だからどうした。なのだけれど……
「とうちゃーく。いやぁ脆かったなぁー、魔物とやらは」
階段に到着した時、暴力の化身が肩を回し欠伸をしながら落胆の声を漏らした。
暴力の化身の後ろには、無謀にも暴力の化身に攻撃を仕掛けた生命体の残骸で道が形成され、絶対に敵わないことを悟ったのか、私達の周囲にいた生命体が現在進行形でこの階の壁端にまで離れて行っている。
「お前が力のセーブをしてないからだ。この惨状を見られたら騒ぎでは済まないぞ」
「大丈夫大丈夫。ユウ、入り口からこの階層に接近する生命体の数は?」
「ゼロ」
「ほらな?」
……良いように使われた気がする。
暴力の化身が先早に階段を駆け下り、私と悪意の化身もそれに続く。2階に到着した。案外短い階段だった。
ビッカ大空洞の地下2階。そこは1階のように森が広がってだろうと推測できる火煙漂う焼け野原。未だに燃え落ちる枝葉に熱を帯びた草花の灰。そして2階の中央付近に鎮座し先程敗れたのであろうかつての冒険者。敗者の焼死体を喰らう紅い竜。
そして敗者の焼死体を嚥下した紅い竜が、こちらを向いた。
「おお!これは中々面白くなりそうだ!ユウ、アクイ。ここは我に任せて、お前達は手を出さ無いでくれ!」
興奮気味な暴力の化身はこちらの返答を聞かずにあの竜に突撃を始めた。
「……Dランクの依頼のはず。なのにあの竜が存在する以上、依頼のランクが跳ね上がるはず。どういうことだ……?」
あの竜の存在と場所について疑問を持った悪意の化身が黙りその場で考え始めた。
取り敢えず私はあの紅い竜と暴力の化身の闘争を観察することにする。一度耳を澄まして……
「ふはは!中々の存在感と中々の威圧感。合格だ!我が暴力を解放する相手としては!」
暴力の化身が高揚と殺気を混ぜ混ぜにした感情を身に宿し、数百m先の地点にいる紅い竜目掛けて拳を構える。
対する紅い竜は目の前の存在が決して弱者では無いことを察し、体の奥底から膨大な熱と炎を沸き上がらせる。
両者先手の一撃が放たれる。
紅い竜はその口から爆発的で膨大な火炎の塊と呼べる吐息を放ち、暴力の化身は構えた拳を前方に放ち、放たれたその火炎の吐息を貫いて暴力の化身の拳が紅い竜を殴り飛ばした。
生と死の化身は生命の終始。悪意の化身は感情への干渉。そして暴力の化身は暴力と呼ぶに足りうる存在の変化。
例えるなら、今の暴力の化身の攻撃は、腕を加速させつつ伸ばし紅い竜に命中させた。私と悪意の化身に比べ、一風変わった力を持つ化身。




