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33話 厄災たる竜が見た、厄災すら塗り潰す者

◆◇◆◇



封印が解かれた直後から薄々感じていたあの違和感は、あの人間……いや人間と呼べるのか?


感じる圧も、姿形も、人間から逸脱している……我と対峙した神すらも凌ぐ、何かを感じる。


何故だ。何故こんな小っぽけな存在に、この我が臆している……?認める他無い。それが我を凌駕するかも知れん存在だと言うことに。


「私は、生と死の概念が集まった存在。神よりも上の、生と死の化身と呼ばれる存在。世界を……命を……踏み潰し蹂躙せざるを得ない、存在」


我の疑問を、奴は応えた。その言葉は嘘では無いだろう。現に先程この我に放ったあの死の塊から、生や死、そのものと戦っていると考えて良いだろう。


だが、我は本気の力を使い、圧倒的な勝利を得て、そして驕る……その果てにある快感、快楽こそが我の原動力。故に、全力で相手をしてやろう!


「信じよう。生と死の存在そのものだと。神よりも上位の存在だと言うことを。そして、我が全力で貴様を相手してやろう!」


「本気でやった方が良さそう……」


小さく呟いたつもりだろうが、我の耳に届いたぞ。しかし、成程。その状態ではまだ本気では無いと言うことか。良かろう。あの時、我にしてみれば一瞬の、先程の出来事だったが、封印された屈辱は忘れん!あの時は不覚を取ったが、今度こそ勝利を得てみせる……!


……!!


奴の姿が変わった?そうか、恐らくそれこそが本気の姿。


化身とやらが着ていた服は神々が模していた服に近い。だが不気味。人間には2つまでの目が、奴の左目の上下に2つ見開き、周囲を無造作に見つめている。


反対側の右目は消え去ったかのように暗く消滅していた。だが人間の確か目頭と言う所から、虹色に、不気味に光りたなびく2本の線。そしてその間には縦に2本の線が目頭から伸びる線の繋いでいる。不気味にも、我にはそれが人間の目のように――――


「ぬ?!」


奴めが……早い!この我が認識し避けるのすら全力を注がねばならないとは……!


しかも、奴は武器を持たずにその手で我に触れようとした。先程のような死の瘴気に近い気配を感じる。先程放ったあれ程度なら、威力や殺傷力は神々の攻撃と然程変わらない。だがあの手から感じたのは、世界その物の怨念の塊のような物。


奴の影から一瞬現れた何かと何か関係があるだろう。


「〈牙怨〉」


「……!」


突然現れた影から、刃のようなものが伸びた……だと?!何なんだあれは?!分からない。だが一つ分かることがある。あれは危険だ!


感じる限りでは、途方も無い呪いと呪詛の結晶体に近い。


……恐らく我があれに触れればただでは済まないだろう。それほどの危険と殺意が秘められていると言っても過言では無い。


隙を見て奴の攻撃の手札を減らさねば……既に分かっていたことだが、我は負ける。負けてしまう!



◆◇◆◇



あれは生と死の化身に任せて良いだろう。俺は臨戦態勢のトートを相手にし、尚且つ殺害では無く鎮圧を主目的に。殺せば色々と面倒になりそうだからな。


生と死の化身の力を傍目に冷や汗が垂れているが、致命傷レベルの攻撃による風穴を再生したのを見て、流石に警戒しているか……


「〈加速アクセラ〉」


その加速……感じる波長的に魔力……魔法か。物理法則から逸脱しかけているから些か厄介なものだ。


「〈地裂槍グランドスピア〉!」


……!やはり厄介。今の俺の肉体強度を貫通して風穴を開けるか。しかし危機と呼ぶほどでは無い。


「〈悪逆波動あくぎゃくはどう〉」


「……!……?」


やはり悪意は無し。厄介だ。


微塵でも罪悪感があれば一撃で戦闘不能にはできるが、やはり罪悪感すら無いか。


まずは今開けられた風穴を片手間に再生……ん?成程。槍の刃先に劇毒を仕込んだか。感じるところかなり強力な腐食。再生と腐食でせめぎ合うのは面倒だな。切除して一瞬だけ再生に特化。


生物としての土俵に拘る必要は無いが、そうしなければ加減をミスる可能性がある。俺は生と死の化身のような再生、魂の干渉は不得手だからな。リスクを減らすのに越したことは無い。


「チッ、〈超加速スパーアクセラ〉!」


さっきよりも更に……周囲の建築物の壁から壁に、縦横無尽に駆け回るか。


「〈地裂の舞(グランド・ダンス)〉!」


そのまま攻撃に転じ、あらゆる死角から無数の連撃……その強さと戦い方。かなりの実力者と見て良いな。勝利を得るには厳しいだろう。


「ぐはっ……?!」


だが、それは俺がただの人間であったなら。悪意が無くとも攻撃の幅が限られても、悪意の化身たる俺には常識は通用しない。


今のトートの技も、トートの感情の軌道を読めば丸分かり。


「さぁ、あっちはどんな結末となるか。怨念はやめて欲しいが、流石に無理だろうな……また俺が何とかしない、と……」


……あっ、そうか。あの手があった。たまにはあいつも呼んで怨念を抑えるのを手伝って貰おう。どうせ今は暇だろうし。



◆◇◆◇



「〈蝕怨ショク〉」


呪いと呪詛の結晶体の刃の次は絡みつく無数の触手か!触れれば我の生命は一瞬で吸い尽くされるだろう。だが、我がいつまでも防御と回避に専念していると思わん方が良い。


「はあっ!!〈虚界の毒注ぎし(ヒュードゥ・)咆哮吐息ロアブレス〉!」


どうだ?!我が吐息は……神々に通用するこの我の吐息が、そう簡単に奴に通じるとは思えない。だが何処かの部位が欠損でもしてくれれば勝てる可能性が上がる。我の吐息は直撃した箇所をその姿で固定する呪いが込められている。だからこそ身体の再生は呪いが切れない限りは不可能に……さあどうだ?


「……」


……!


やったぞ!我が吐息を直撃させて両手を消し飛ばせた。これなら戦いようがある。念の為、奴が接近する前にもう一度我が吐息を浴びせ……な?!


消し飛ばした両手の断面から、片刃の剣が、2本?!


しかもあれは危険だ。地獄の業火よりも、神々の攻撃よりも、この我の本能が危険だと言っている!


「ぐ……っ」


あまりにも一瞬の移動で、我の尾に剣が……不味い、早く切り落とさねば剣に秘められた何かが我を死に至らしめる!


「……ぐ、ぎ、ギギ……はあ!」


自らの尾を切り落とすのは余り良い気分では無いな。痛みは一時忘れよう。死と比べれば軽い。我の魔法でいつでも尾は再生できる。


しかし、小さい上に速く強く一手一手が致命の一撃。これでは敗北が濃厚か……


『〈怨怨怨怨怨(◆◆◆◆◆◆)〉』


……?どうしたことだ。急に奴の身体に無数の抉り傷が……奴の背後に先程から見え隠れしていた何かが、奴を、攻撃……?分からん。だが奴は何かに全ての身を任せているように見える。


何が起きた……?


『〈・〉』


……っ?!何だこの激痛は。この世のものとは思えない……はっ!まさか何かが奴を攻撃する度に、そのダメージが我に反用されていると?可能性は高い。呪詛の中に自らへのダメージを相手に反射させるものがあると聞く。ダメージはそう簡単には消えない。故に呪詛を使用した本人が自滅する弱者の欠陥技だった。だが……


だがこの目に写るのは、延々と酷く惨い攻撃に再生する無限地獄。それがこの我にも反射の呪詛によって味合わられている。そしてダメージも同時に。


不気味に笑った……?いや、あんな表情すら分からぬ何かに、何故この我がそう感じ取った……しかし、このままでは我は痛みで狂い死ぬ!何かによる反射の呪詛で顎は砕けた。喉は潰れた。右目は抉れた。腕は落ちた。足は折れた。翼は剥がれた。


しかし左目は何とか残っている!


「こうなれば……最終手段。喰らえ!神々すらも陥れた、この邪眼を……!」


真に真の最終手段。この邪眼は神の血肉が沁み込み生まれた物。我の魂に強制的に刻まれた罪状。これを使えば魂が更に刻まれ我の精神が変異する。記憶に残るかつての我と今の我は違う。故に使いたくは無かった。しかしもうそうと言える状況では無い。


まずは奴を包む何か。奴の不気味な力の源泉はそれだろう。だから真っ先に潰させて貰う。


よし、何かが一瞬にして何処かに消えた。次は……貴様だっ!!

「…………〈終末忘備録バットエンド〉」


……何が起き、何が何が。くず、崩れ?崩れる…………はっ!!


まさか、死ぬのか……?この我が。この我が!死ぬと言うのか?!


「有り得ぬ…………有り……得ぬ」


……我は何故…………?何を望んでいたのだ。邪眼を使う度に我は我から離れる。もう分らぬ……何も何も何も、かつての我が何を考えあの目的を目指したか。


神の先……その先の先に進んだその場所。全てを支配し最上の階段の上で……世界の全てを、神を見下ろすその地で、全てを見下ろしたいと言う目的を――



◆◇◆◇

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