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32話 トートの最終目的地点 目指す先、あれ

トートが走り出した。


悪意の化身が追い掛ける。でも怨念の目が覚めた。安易に動けば上にいるであろうデムランとシュシアが消し飛ぶ。だから動けない。


確か悪意が無いと悪意の化身の攻撃手段が限られたはず。一応、応急処置程度に怨念の目を閉ざさせ、私もトートを追い掛ける。


足音の反響音で大体の位置は……分からない。通常の人間の身体能力では説明がつかないほどの速さで音が鳴り動いている。悪意の化身の足音は聞こえない。多分飛んでトートを追い掛けてる。


私も飛んでトートを追いかける。多分向かう先は、あれ。グチャグチャだった色があれを見た瞬間に一色に染まった。赤と赫と黒の混じり色。命を投げ捨てるほどに渇望するほどの何かを見つけた時の、感情の色。




悪意の化身合流して、トートが恐らく来るであろう地点に先回りする。


あれの身体をよく見ると、夥しいほどの幾何学模様が淡く光り、その真下にあれが包まれている幾何学模様と繋がった台座がそこにあった。


恐らくあれを見てからのトートの行動から推察するに、トートの目的はあれに関連した物。そして一番怪しいのは幾何学模様と繋がっている台座。念の為、牽制の為に台座に近い目立つ位置でトートを待つ。


…………よくよく見るとあれが全く動かない。しかも時空が少々捻じれている。時間停止……?


「……デムラン殿が言う通り、Dランクながらかなりの実力者。しかも私の最終目的地点をいち早く察知し待つ……ですか。頭脳も流石と言った所ですね」


台座の……私と悪意の化身の前方に石のような杖を持ったトートが現れた。


「〈加速アクセラ〉」

「……あっ」


……油断した。先手必勝でトートを鎮圧しようとしたらいつの間にか持ってた槍で首を切り飛ばされた。


「〈地裂槍グランドスピア〉」


悪意の化身も反応する前に心臓付近と2つある肺の大部分を抉るほどの大きな丸い風穴を作られてた。能ある鷹は爪を隠す……だったかな。油断した。死んで無いし死ねないけど。


私と悪意の化身に攻撃を放ち間髪入れずにトートが石のような杖を振りかざした…………動けない。悪意の化身も攻撃された瞬間で私のように動けなくなってる。多分、石のような杖の効果なのか……時間が止まった。


……肉体的に動けない。しかし意識はある。


「どうですか?この杖はこの滅びた王国の魔法を参考に造り上げた私の最高傑作です。ただし停止時間はランダム性が高く、最低4、5分から1時間程度の振れ幅があります。まぁ、劣化品ですよ」


そう言いながら停止した私と悪意の化身の間を通り、台座に到着した。


「しかし、この杖を造ったのはこれが目的ではありません。これはただの付属品。本来の使用用途は……」


そう言った瞬間、トートが手に持っていた石のような杖を台座に突き刺した。するとあれを包む幾何学模様の光が少し弱くなった。


「この際ですし、杖の力で無意味な延命が続く間に、1つ昔話をしましょう。数々の遺跡を調査して辿り着いた過去を。かつてこの世を荒らし尽くし、神々の加護を得た英雄によって火山の奥深くに封印されたドラゴンがいました」


…………


「神話として語られるほど遠き昔の話です。そして少しの時が経ち、そのドラゴンの力に目を付けた古代の王国……この滅びた王国が目を着けました。強大な魔獣として語られしこの世を荒らし尽くしたドラゴン……虚界毒竜ヒュードゥを、禁忌の魔法を使い支配下に置くことにしたそうです」


……動けないけど、強引に動けそう。


「既に封印された虚界毒竜ヒュードゥ。その封印を解くのは容易ではありません。だからこそ、古代の王国が使った禁忌の魔法が必要でした」


……発声はできない。咒言は無理そう。


「禁忌の魔法とは、時を渡り過去の存在を現代に持って来る魔法。時間や空間を捻じ曲げ世界を歪ます禁忌。神々すらも使用を禁ずるほどと言われています。時渡りの魔法を使い、古代の王国は虚界毒竜ヒュードゥを連れ呼びました。そして支配下に置く魔法を使いました」


……不味い。怨念が目を覚ましそう。応急処置で済ませたのがいけなかったかも。


「ですが、この人っ子一人いない寂れた光景を見れば結果は察しているでしょう。虚界毒竜ヒュードゥを支配下に置くことは不可能だった。それを知った古代の王国の者達は、当時の王都であったこの古代遺跡の地に、もう1つの禁忌の魔法を使い封印を施しました」


……もう少しで動けそう。でも上のあれを包んでる幾何学模様がかなり薄くなってる。


「英雄の封印とは違う封印。それはこの杖と同じ……いや上位互換となる永遠に時を止める時間停止の魔法。シュシア殿に聞いた話では、恐らく英雄に封印された方の虚界毒竜ヒュードゥは、強引に解いた結果かなりの弱体化してしまったようですが……禁忌の魔法である時間停止は、封印を破ろうとする意識すら止めます。全ての時を」


……肉体的な時間は止まってるけど精神的な時間は止まってない。だから……目が覚めた。


「当然、虚界毒竜ヒュードゥの体と魔力は最盛期!……地面が崩れて落下したのは予想外でしたが、結果的に私の計画が早まった……」


トートが口を緩ませた。


「ふふふ……ははははは!!こここそが、この地こそが私の歴史研究の集大成!過去こそが素晴らしい!今や未来なんぞ惹かれない物に興味は無い!ただ古びた遺物こそ私が求める物!故に、私は全てを過去にする。過去は不動で裏切らない。だからこそ、全てを。世界を滅ぼせば全てが過去になる!」


そう言った瞬間、あれを包んでいた幾何学模様が完全に光を失い……動き始めた。


『ドッ!』


心音が聞こえる……


あれはその巨体で周囲を一通り見渡してから、目の前の人間であるトートに視線を移した。


「…………成程。貴様が我が封印を解いたか」


『ボトッ……』

……時間停止が解かれた。私の頭が地に落下した。転がる。


取り敢えず首と胴体を繋げよう。繋げた。立ち上がって……また、ああ成ったら大変だから、確実に、魂を消し去るほどの死を放つ。


「…………?!ぐっ……!」

「……ユウ……殿?!アクイ殿も……確実に殺したはず!」


あっ……私の死を、尻尾で叩いた。弾いた。耐えた。すごい、生きてる。これは、本気でやった方が良いかも。


悪意の化身はいつの間にか風穴を再生してた。トートの相手はまかせるとして、今はあれに集中しないと。


人間の姿は一旦辞めて、化身としての、本来の姿に……


「……き、貴様……?!人間では無いな?神とも違う……何者だ!」


目の前の存在が驚いてる……その感情は今も、辛うじて分かる……覚えてる感情……


トートの言うことが本当なら、あれと私は初めまして。そして全盛期。その驚きの解を言ってどんな反応をするかで、対処が変わる。


「私は、生と死の概念が集まった存在。神よりも上の、生と死の化身と呼ばれる存在。世界を……命を……踏み潰し蹂躙せざるを得ない、存在」

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