20話 大地を揺らす巨大なる使者 相対する人々と観戦する化身達
体高約300m。横幅……見えている範囲で約60m。重量不明。
そのまま倒れたらこの街なんか余裕で半壊しそうな巨大が現れて、それを見た人々は混乱に包まれた。
中にいた冒険者達もこの騒ぎを知り、ほぼ全ての人間が建物から出てそれを見上げた。
冒険者達はあんなのに敵いっこないと言ってるけど、私から見れば魂だけが力強く歪に輝く弱々しい生命体。多分軽く小突くだけで倒れる。
「古代の文献で見たことがある……あれは、別界から現れし毒をもたらす破滅の使者……虚界毒竜。かつての神話の時代、神々によって火山の奥底に封印されたと言う伝説を持つ……魔獣!」
あの大きな生命体を見たシュシアがそう言った。
「そ、そんな怪物が、なんでここにいるんだ?!」
「分かるかそんなこと!私が知りたいわ!」
冒険者ギルドから出て来た1人の人間が飛ばしたその言葉に、シュシアは逆ギレの様相で言い返す。緊急事態でさっきまでの恥ずかしさが何処かに飛んでる。
ただただこの場の人間達が余りの事態に動けずにいると、大きな生命体がこの街に顔を向けて2本の足を動かして近付いて来た。
この場に更なる混乱が湧き上がる。
「落ち着け皆の者!!」
この場に電車が通ったくらいの声量が響く。
声の主は髭を短く伸ばした大柄な男。その横からリンがトコトコと早足で出て来た。
「見た所あの怪物の動きは鈍い!今の内に対策を立てることは容易だろう!」
「ですがギルド長、あんな怪物をどうすれば……」
ギルド長……言葉から察するに冒険者ギルドの長……だろうか?
「まぁ待て、今から緊急依頼をこの場にいる全冒険者に依頼する!まずあの怪物に知見を持つ者はギルド内の作戦会議室にて情報共有。今のシュシア君のように、何か分かることがあればそこに来てくれ!次に足に自信がある者はあの怪物の偵察と壁前に簡易拠点の設置!最後に、残った冒険者はシュッダ内を周り、市民を家の中に避難させろ!」
その言葉を言い切るのと同時に冒険者達が忙しなく動き始めた。
私と悪意の化身は何かをする訳でも無く、意味が分からず作戦会議室に連れられた。
あの大きな生命体について知ってる訳でも無いのに、デムランとシュシアに強制的に連れられて、今ここにいる。何でだろう……色は分かるのに、真意が分からない……
リンはギルド長に頼まれて、グレイ商会の物資を簡易拠点と呼んでいた場所に持って行く為に、1人商会に戻って行った。
何か色々と置いてかれてる気がする……
「えっと……その……さっき言った古代の文献の伝説以外……何も分かりません!」
数十人の人間の視線が集まる中、シュシアは言葉を詰まらせながら頭を抱えて縮こまりながらそう言った。
「だってたまたま出土してた古代の石板に書かれてただけだから……分からないよ!」
「そうか……」
取り敢えずやること無いから壁の端に立つ。悪意の化身も一緒。約2分が経過したけど、話が何も進まない。私が切り口を作った方が良さそう……かな。
「あれ、脆いよ。軽く小突けば倒せるくらいに」
この場の人間全部が口を紡いで数瞬の静寂が流れた。どうしてだろう……?事実を述べただけなのに。
「いや、そんな虫の良い話がある訳……」
「……あり得る」
静寂を断ち切った1人の人間がそう言うと、シュシアが遮り口を開いた。
「古代の文献に書かれた『神々によって火山の奥底に封印された』と言う部分。神々の部分は流石にただの脚色だとしても、今は死んだ火山だとしても、あれが火山から出て来たのは事実。この一節が真実なら、神と呼ばれるほどの人物がいたとして、その人が施した封印なら、封印しか選択の術が無かったとするなら、それこそ軽く数千年は身動きできないほど強固にするはず」
「それが……どうしたんだ?」
「……結論を先に述べると、今シュッダに迫る魔獣、虚界毒竜は凄く弱くなってる。今言った神話レベルの封印を恐らく長年の経過によって劣化したとしても、強引にでも解いたなら相応の代償が必要。それこそ、肉体強度が著しく低下するほどに」
「本当か?!」
ギルド長が希望を込めた声をシュシアに投げかけた。シュシアはそれに頷く。
「試してみる価値はある。虚界毒竜に関しての情報が凄く少ないから、可能性は全部試して行かないと」
街の人間の大多数が建築物内に閉じ籠った頃、残った人間……冒険者達は冒険者ギルドを経由し、門の横で壁に近い内側に造られた簡易なテントに集合した。
そして集まった冒険者達に、ギルド長があの生命体についてほとんど分からないと告げ、その言葉の上に可能性があることは全て試しこの街の為に全身全霊であの怪物を迎え撃つ。
そう言ってこの場の人間達を鼓舞した。
あと、リン含めグレイ商会含め様々な商会の人間達が包帯、液体の入った瓶、薬草、武器、防具、その他建材を中心に持って来て、門の横で壁に近いこの場所はさながら戦場に見える。
で、人間達が色々やってる間に、大きな生命体は壁から約100m地点にまで迫って……あっ、口から火を吐いた。それもかなりの量を。
「〈火炎属性付与・守護壁〉!」
いち早くあの火を察知したデムランが街を取り囲む壁の一部。つまり門周囲の壁を炎で包んで巨大な壁へと変化させ、大きな生命体の火を迎え撃とうとした。多分いける。
私の予想通りに大きな生命体が吐いた炎を受け止めた。ついでに吐かれた火を吸収して更に大きな壁になった。
「がはっ……!」
でも……流石にキャパオーバーな現象を生み出した反動か、デムランは血を全身から噴き出して倒れた。でも意識は失ってないし、生の残滓の影響で一命は取り留めてる。普通もう死ぬのに……
救護班らしき人間達がこんな状態になったデムランを見つけ、不明なエネルギーの力を使用し傷を治し始めた。
さっきから救護班らしき人間達の治療速度を見てたけど、どう足掻いても重症のデムランを治すほどの力は無いように見える。でも生の残滓がその力を増幅させてデムランの傷が一瞬で治った。
救護班らしき人間達は凄く驚いているけど、私の方が驚きたい。
シュシアは炎がどんどん小さくなる壁に付随したある塔に入って、壁の上に行った。私も一瞬に塔に登って着いてってみる。
私が壁の上に到着する頃には、デムランが発生させた炎は完全に無くなった。でも壁に使われてる石はまだ熱を帯びてる。
「〈火球〉」
シュシアが小さな火の玉を200m先の大きな生命体目掛けて射出した。
多分、あの火の玉が昨日の夜にシュシアが悪魔と同化時に放った未知のエネルギーの弾。速度と形と色が変わってたのは、悪魔の力が加わってたからかな。
そのまま小さな火の玉が飛んで、火の玉が大きな生命体に着弾すると、着弾箇所がボロボロと崩れた。けど、それに怯む様子は無い。
「やった!やっぱり、封印を強引に解除して代償を払ってる!遠距離魔法を使える人!あれに向けて一斉放射!」
数十人の人間が不随した塔を経由してシュシアのいる壁に上った。そして水、電気、炎、光、土、黒等々のエネルギー物体が未だ迫る大きな生命体に射出及び連射されて、呆気なく大きな生命体を貫いた。
「魂……使わないの?」
「昨日悪人の魂のストックを全部消費したから無理」
私がシュシアに聞いたらそう返答した。
そんな会話をしている間に、数百発に及ぶ様々なエネルギーの弾が射出され、大きな生命体はどんどん崩れて行って、片足が完全に壊れるとそのまま横に倒れて、草原の絨毯に激突して粉々に砕け去った。
街には全く被害は無い。
砕けた生命体のカケラは、吹き去る風と共に塵のようにその場から消滅……あっ、魂が逃げた。
シュッダの街から反対方向の森に向かって……あの魂の大きさから、逃したら大変なことになりそう。
魂を視認できそうな死霊術師のシュシアは視認できてないみたい。多分あの魂、隠れるのが上手い。
わざわざ脆い体のままこっちに来たってことは、わざと倒されて魂だけが逃げる為?倒したことで人間達は湧き上がって希望とかの感情が噴出してる。
倒されたことを周知させて、あの魂が新たな肉体の取得する為の時間稼ぎかな……
もしくは自身の意思で肉体を捨てれないから脆くなった肉体を捨てる為だけの可能性も……
取り敢えず念の為、取り敢えずあの魂を追い掛ける。でもあの速度だと普通に飛んでも追い付けない。だから一回世界の外に行って……
……外から目標地点に向かう。世界の外に行くのは何処からでもできる。そして世界の外からなら、行きたい場所には何処にでも行ける。
こうすれば過程は挟むけど瞬間移動と同義。これが化身が持つ力の1つ。いらないし、こんな力は不本意だけど……
周囲は森。シュッダの街からの距離は大体数kmくらいかな。目の前には進行中の魂。突然現れた私に驚いたのか、その場で静止してる。
「なんと……魂だけの存在になってしまった我を認知し追い付く者がいるとは。我を復活させようとしたあの悪魔とは別か。ここで魂すらも倒されては、脆く古くなった肉体を捨てた意味が無い!再び我が世界を支配する為、手加減はせん!全力で消し去ってくれる!!」
魂が形を成して私に攻撃しようとした瞬間、魂が静止した。どうしたんだろう……?
「ほほう?貴様、絶望の経験があるようだな?我が邪眼は見た者の記憶に沈み隠れた最たる絶望をその者の眼前の元に晒す力を持つ。肉体が滅びようとも我が力朽ちること無し!絶望の幻想に沈み安寧亡き世界で朽ち果てるがいい!!」
「あ……」




