19話 始まる日常 危機迫る街
「おはようございます!ユウ様アクイ様!昨日はよく眠れましたか?」
「……化身に睡眠は必要無い」
「あ、そうでしたか……すいません気を配れず……」
「……大丈夫だ。部屋を用意してくれてありがとうな」
悪意の化身のその言葉のお陰で、しょんぼりしたリンの機嫌を取り戻した。
日の出が燦々と輝き窓から差し込む中、リンが私と悪意の化身がいる部屋に突撃して挨拶してしょんぼりして機嫌を取り戻して……リン……昨日に比べてかなり元気。
「朝食の準備ができていますので、私が案内しますね」
昨日のように身体構造を変え、何とか……朝食を食べ切れた……精神が摩耗した気がする……摩耗し切ったはずなのに……
「さて、行くか」
「分かった」
「あ、冒険者ギルドですね?丁度私も冒険者ギルドに用があるので、ユウ様とアクイ様に同行します」
「分かった」
陽がシュッダの街を取り囲む壁から完全に現れた頃、私と悪意の化身とリンで冒険者ギルドに向かっていたら、道中デムランとシュシアに会った。
シュシアは私と悪意の化身が理外の存在だと言うことを勘付いているせいか、おどおどしながら長い杖を抱えデムランの背後に隠れた。恐れるのも無理もない……だってシュシア目線では何をするのか分からない存在だから。
「……えっとな……今朝起きてから昨日のことを恥ずかしがってるみたいで、視線を外して顔を合わせようとしないんだ。特に、恩人であるアンタらには視線を逸らすどころか俺様の背後に隠れた」
違った……
「恩人……?」
リンから昨日何をしたんだ?と言う懐疑的な目で見られた。そんな目で見られても……
「気にしないでくれ、あんなことがあったんだ。一夜が過ぎても、気持ちの整理にはまだ時間がいる」
シュシアの色はぐちゃぐちゃの混沌色……デムランの言う通りかな……?
「て言うか……アンタら……リンちゃん……もしかして冒険者ギルドに?だとしたら俺様もついて行く。臨時パーティーを組んだままだし、報酬の分け前をどうするかも相談しなきゃな…………活躍度的にどうせ俺様は無給だろうがな……」
……最後の方……かなり小声でそう呟いたけど、私の聴覚の前には丸聞こえ。
そう言って勝手に一緒に冒険者ギルドへ行くことになった…………それにしてもいつまで生の残滓が残っているんだろう……流石にちょっと薄くなっているけど。
冒険者ギルドに到着した。入った。シュシアは完全にデムランの背後に隠れて下を向いた。
中にいた人間達はその様子を、久しい組み合わせだな。っと呟き遠巻きに見つめる。
リンは1人で受付に行って、そのまま受付の人間に2階の部屋に案内された。聞く限りだと、依頼した品物を受け取りに来たみたい。
昨日受注した依頼が完了したことをもう1人いる受付に伝えようと悪意の化身と一緒に行こうとしたら、デムランがシュシアを引き剥がそうとして失敗して諦めて、結局側から見れば不審者に見えるシュシアをデムランの背後にくっ付いたまま受付に向かうことに。
デムランは困りつつも困ってるだけ。他の怒りとか軽蔑とかは全く無い。恥ずかしがり屋のシュシアも聖人過ぎるデムランもどっちもどっち。ある意味良い2人組。
「も、もう終わらせたんですか?!Cランク冒険者パーティーが数日間粘って根を上げたのをたった一晩で……流石Bランクと言ったところでしょうか……」
「お世辞はいらん。早く依頼達成の確認をしてくれ」
「わ、分かりました!確認係!神官を連れてこの場所までひとっ走りお願い!」
デムランの圧に屈し、受付の人間が忙しなく動き別の人間が走って冒険者ギルドから出て行った。
「さて、これで少し経てば報酬を受け取れるはずだ。その間は……ここで時間でも潰そうか」
そう言うとデムランは酒場らしき場所に向かって行った。未だに背後に隠れるシュシアを連れて。
流石に椅子に座ったデムランの背後にいるのは恥ずかしかったようで、着けていたつばの大きい帽子を深く被って小さく縮こまった。
デムランに手招きされて、私と悪意の化身も同じテーブルの椅子に座る。
それから特に何か会話が発生すること無く、微妙に気まずい雰囲気が漂って――――
『ズンッ!!』
地鳴り共に一瞬大きな震動を感じた。かなり短い……地震でも起きたのだろうか……?
「みんな大変だ!あの死んだ火山から、ドラゴンが!それもかなり巨大の!」
さっき冒険者ギルドから出て行った人間が息を切らしながら冒険者ギルドの中に入り大声でそう伝えた。
今人間が言ったのは死火山のことだろうか……それにしても、ドラゴン?
取り敢えず外に出てみる。悪意の化身も一緒に外に。
『ドッ……!……ドッ……!……ドッ……!』
この音……早い、そして良く聞こえる……もしかして、あれが……!
高い石壁に囲われたこの街から見えるほどに、大きく……大きく……小さな山のように。
あれが、昨日から聞こえてた心音の発生地点……




