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18話 どうでもいい緊急事態 味覚と嗅覚の重要性

「それじゃあ、ギルドへの報告は明日にして、今日はそれぞれ休もう。今日1日で色々なことがあり過ぎて俺様はもう寝たい」


2つの月が淡く光り輝く街の中、あの屋敷の前でデムランがそう言った。


シュシアは悪魔の力を短時間ながら使ったことによる疲労で寝てしまい、デムランが背負って宿に連れて行くそうだ。


確かに色々あった1日だった。深夜頃に王によってダンジョンに飛ばされてから始まって、それから今に至るまで大体24時間。


『……ドッ……』


……そうだった。まだこの心音についてはまだ不明なままだった。でも特に何かある訳でもないし、現状は放置で静観しても良さそうかな。


「さて、依頼は完了したから、取り敢えずリンがいるはずのグレイ商会に行こう」

「分かった」




「遅いです」

グレイ商会に到着した途端に、リンから開口一番そう言われた。


「もう深夜過ぎですよ?初心者向けの依頼がこの時間にまで長引いた……という訳では無いは知ってますよ。よくグレイ商会に通う冒険者の知人から聞きました。リンと一緒だった2人組がデムランさんと一緒にCランクの依頼を受けたと」


リンって結構顔が広いのか……


「まぁユウ様アクイ様の行動原理は私には分かりませんから、これ以上言うつもりはありません。話は変わりますが、料理って食べれますか?」


……人間の体としての胃や大腸等の消化器官は存在するが、化身には食事なんて必要無い行為だし、何より私は味を感じない。悪意の化身はちゃんと感じるらしいけど……


でもここで断ってもな……リンは料理を食べれるかを聞いているから、断らなくても大丈夫かな。味を感じなくとも料理を必要なくとも、食べることは可能だから。


「食べられる」

「必要は無いが、食べるという行為は可能だ」




リンに案内されるままグレイ商会に入って、商品が並ぶ販売所では無くグレン商会の裏手から2階に上がって、数ある部屋の中の1室に入るとそこには複数の料理があった。


「お口合うかどうかは分かりませんが、どうぞ召し上がって下さい」


促されるまま椅子に座られて、目の前の料理を見てみる。口内に放り込んで咀嚼してみる。


味は感じない。匂いは感じない。もうとうの昔に分からなくなった感覚だから、今更不自由は無い。


でも緊急事態。今はどんな表情をリンに見せれば良いのか、美味しいという表情を映すには重要な器官が悉く機能していない。


嘘でも表情が無くとも美味しいと言うべきか、今更味や匂いを感じないことを開き直るべきか……どうしよう……


あと、何回咀嚼すれば良いのか……口に入れた料理を84回噛み砕いているけれど、流石に飲み込んだ方が良いのだろうか……?


召喚される前の世界での便宜上両親は、私の肉体年齢が4歳頃の時から放置気味で見向きもしなかった。だから食事せずとも時間は季節は年代は経過した。


「中々上手いな。誰がこれを?」

「住み込みの料理人と一緒に私が作りました……冷めちゃいましたけど」

「……それはすまない」


確かに冷たい。


……今こそこの聴覚に全神経を注ぎ、今現在このシュッダの街で食事する人間の平均咀嚼回数を算出。その上で身体構造を変え、咀嚼時に分泌される唾液を強酸に。これで平均咀嚼回数の前後で料理は完全に溶ける。更に口内が溶け落ちないように酸への耐性を持つ物質で細胞をコーティング。


今まで何度か液体を飲んだ経験は覚えてる。だからその要領で溶けた料理を飲む。これでいつまで咀嚼すれば良いのか?の問題は解決。


あとは味覚嗅覚無しにどうやって料理の感想を伝えるか……どうしよう……




結局ずっと無言で黙々と食べていたら、リンが気に入って下さいましたか?の質問を悪意の化身に向けた。


悪意の化身はそれに応えて長い長い感想を口から津波のように放って、終わる頃には出された料理を全て私の口内に放り込んで強酸で溶かし終わった。


「ユウ様はどうでしたか?」

「……あー……気に入ったみたいだぞ?」


悪意の化身が私の中で何が起きているのかを察してか、困惑しつつも私の代わりにリンにそう言った。全部の料理を一応食べ切ったから、身体構造を標準的な人間の構造に戻す。


「ありがとうございます!満足して頂けて光栄です!それでは、エルグさんに用意してもらった客室に案内しますね!」





リンに案内されて到着したのは、かなり豪華に作られ寝室としては中々に広く2つのベットが目を引く部屋。


……王が用意した部屋より豪華。


「元々上流階級がいらした時の為に造ったらしいですが、今は誰も使っていませんので、ユウ様とアクイ様がお使い下さい。あと、何かあればテーブルの上に置かれたベルを鳴らして下さい。私かエルグさんが急いで向かいます」


そう言い残すと、リンは大きな欠伸をし目に涙を浮かべ少しふらっとした足取りで別の部屋に消えて行った。


化身には睡眠は必要無いけど、取り敢えず扉は閉める。


すると、悪意の化身が私を見つめた。どうしたんだろう……?


「なぁ生と死の化身。料理を食べる時、身体内部で何をやってたんだ?……身体構造の著しい変化を感じたが……」


「私はリンの料理を食べる為に――――」


私が行ったことを話すと、悪意の化身は酷く呆れた様子で私を見つめた。


「――――だから、味覚と嗅覚の重要性を知った。感覚の復活は多分無理だけど」


「いや……どうでもいいだろ。そんなこと」

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