16話 死霊術の本質 解き放つその願い
デムランが幾何学模様に向けて一歩を踏み出した瞬間、踏み出した足の力が途切れて倒れた。
「流石に……魔力が殆ど、底を尽いた状態で属性付与をしたのは……無理があったか……」
……生命力を回復させないと今すぐ死ぬくらいの体力とエネルギー消費。見た限りかなり衰弱している。
白に対する悪意の化身の悪逆波動の回復量はたかが知れてるし、私がやった方が良いか。
過剰回復で死んだりしないように……怨念が顔を出さないように……調整……
「〈抑怨聖命〉」
「……っ!!」
……やり過ぎた。死なずに回復できたけど、完全回復以上に回復させてしまった。
デムランの白に呼応したのか、顔を出さないように気張り過ぎたせいか、デムランの体力生命力共に完全回復。そして少しパワーアップしている。私の知らないエネルギーが視認できるほどに溢れ出ている。
悪意の化身が静かに私の肩を叩いた。形容するとドンマイ……だろうか。もしやこんなにも白いとこんな副作用が……?
「ど、どうなってるんだ……あれほど満身創痍だったのに、今は力が溢れている。これなら、シュシアを止められる!」
困惑しつつデムランが拳を強く握った。私も困惑してる。
「ここまで来て貰って、本来ならアンタらは関係無いことだ。だが……強欲な頼みだが、アンタ達に協力を頼みたい!」
デムランが私と悪意の化身に向かって頭を下げた。
「原理は分からないが、アンタ達はスゲェ力を持ってる」
……やり過ぎた。
「だからこそ、その力があれば、シュシアを止められる!」
目的ができた……突き放す理由は、無い。
「分かった」
「ユウがそう言うなら、協力しよう」
「……!ありがとう」
完全回復及びパワーアップしたデムランが、未だ光が残存する幾何学模様の内側に入って、そこから私と悪意の化身に向けて手招きをした。来い、と言うことだろうか……?
悪意の化身が内側に入ったから、私も入る。
デムランと悪意の化身と私が幾何学模様の内側に入ると、デムランが幾何学模様に手を乗せて同時にシュシアと呼ばれた何かが消えた時のように輝き始めた。
輝きで掻き消されているけど、幾何学模様の外側の空間が歪んで……私達がいる幾何学模様の内側の空間が別の場所に転送。
さっきの空間と同じような壁や床。先には一本の穴、もしくは通路があった。
幾何学模様は輝きを急速に失って、同時に幾何学模様から手を離したデムランは、決意を込めた目をその通路の先に向けた。
「シュシア!」
細長い通路の先。何故か強引に破壊されていた扉の先に、デムランがシュシアと呼んだ、それはいた。
天井には高く光り輝く幾何学模様と宝石の融合体のような物体が吊り下げられていて、その真下には目立つ台に乗せられ幾重もの鎖に繋がれ幾何学模様に包まれた大きな球体がそこにあった。
……怨念が一瞬反応した。あの中に、何かいる。
「……なっ?!で、デムラン!何だ、その溢れ出る魔力は!満身創痍だったばすだろう?!」
シュシアの目線が、デムランから隣の私と悪意の化身に移し、納得したような表情を見せ歯を食いしばった。
「そうか……そうか!やはり災厄。その力も常軌を逸していると言うことか!」
災厄……否定はしない。
「さ、さいやく?」
デムランがピンと来ていない表情で私と悪意の化身の顔を見た。多分純粋に疑問を浮かべる。そして分かってない。
「行け死霊共、時間を稼げ!〈魂喰らう死霊軍〉!!」
杖からさっきとは比にならない量の黒い魂が放たれた。道連れを欲する亡者のように、1つ1つの魂が肥大化して襲って来た。
「〈火炎属性付与〉」
でも、私でも予想外のパワーアップを遂げたデムランが、炎を纏った手刀で黒い魂を全部残さず切り刻んだ。すごい……
「その程度でやられるな!もう少し時間を稼げ!」
何かしていたシュシアが焦り気味に杖を振り翳して、切り刻まれた黒い魂の塊を、デムランを眼前に生み出した。
……何か……今までの黒い魂とは毛色が違いそうに感じる。
見た目は下半身の無い人間の骸骨。でも浮遊していて、汚れた大きな黒い布を上から被った意思無き意思の塊。
私に憑いてる怨念に近い。私のとは比にならないくらい弱く小さいけど……
この骸骨の出現にはシュシアも予想外だったみたい。口を半開きにして驚いた顔を骸骨に向けていた。
「カハーー……」
骸骨が息を吐くと……呼吸する器官はもう無いと思うけど……私の死に似た弱々しい死を含んだ息をデムランに浴びせた。
感じる限り生物を死に至らしめるには充分。
でも効かない。死に反するは生。さっき回復した時の生がまだデムランの中に残留していたから、あの骸骨が吐いた死は無情にも掻き消え、デムランの炎を纏った拳に殴り飛ばされた。
私は生と死の化身。たった数十程度の魂で生み出された死なんて塵も同然。
……でもさっきの回復から今この瞬間までの時間が経過すれば、人間の中に残留する生なんて、すぐに霧散するはずなんだけど……
デムランが次々と実体化した黒い魂を全部殴り倒しているから、私と悪意の化身の出番は無さそう。パワーアップ……さっきは少しだと思ってたけど……少しの幅を超えてそう……
あちらから見れば鬼気迫るデムランの顔が迫っていることだろう。
「よし、あとは贄……でも時間が無い!はっ!」
シュシアが杖を振り翳して殴り飛ばされた骸骨を引き寄せた。そして大量の魂がシュシアの周囲に現れて……幾何学模様に包まれた球体に全て吸い込まれた。
「今まで戦力として収集していた全ての魂を贄にして!……復活せよ!上位悪魔アンノウン!」
幾何学模様が割れて、球体が破裂して、一気に何かがこの空間の壁を壊すほどのエネルギー波を解き放った。
このエネルギー波には、パワーアップしたデムランも立ち止まらざるおえなかったみたい。怨念は……完全に顔を引っ込めた。興味があったのは幾何学模様の球体の方かな……?
「おお……!素晴らしい!良くぞ我が封印を解いてくれた。封印を解いてくれた褒美として、何か1つ願いを叶えてやろう。ただ酔狂に我が封印を解いた訳では無いだろう?」
あの時私の魂に触れて崩壊した悪魔と、似た姿をした悪魔がそこにいた。その悪魔は台から降りてシュシアの顔をまじまじと見ながらそう言った。
デムランは今の光景に唖然としてた。でもすぐに拳を握り直した。
「私の願い……それは…………上位悪魔の魂、それを私に!」
「貴様何を?!」
悪魔が反応するよりも先に、シュシアが手の平を悪魔に突き立て、魂を、存在そのものを、吸い取った。
数瞬の内にシュシアの身体は変異と呼べるほどの人間から少し離れた異形の姿に変わり、歪んだ生命力と邪気が溢れ出す。
「死霊術とは、骸となった肉体の使役。そして、死した魂の支配。だが洗練された死霊術は、悪魔の魂すらも支配し、我が物にできる……あぁ、長かった。しかし、ようやくだぁ……ようやく、私の目的が果たされる時が来た!」
デムランは今の光景に唖然としてた。あまりに予想外の光景なのか、未だに開いた口を塞がずその場で固まってた。
『……ドッ……』
……方向は、ここから離れた場所の更に下。心音とあれは別らしい。




