14話 燃える正義と死する力の主 それを観戦する化身達
融解直前まで熱され投げられたナイフは、死肉の胸に突き刺さり、黄色い炎を纏って塵になった。
同時にデムランが息を切らして膝を落とした。
同時に死肉が守るように立っていたあの幾何学模様に光が帯びた。
一際光が放たれると、そこには人型の有機生命体……あ、確か、冒険者ギルドで私と悪意の化身を見つめていた人間。
「全く……立て、立って私の役に立て」
面倒だと言わんばかりのその声に、塵になった死肉が形を成して先程死肉と瓜二つの姿になった。
「シュ……シュシア……?!何故……こんな……」
デムランがそう呟いた。今のがあの者の名前らしい。
シュシアと呼ばれた何かは膝を落としたデムランに指を差し、同時に再形成した死肉が冷気を放つ拳を握り、デムラン目掛けて振り下ろした。
「……っ!」
石床を粉砕し、先程よりも強力な冷気で粉砕された石床が粉砕された瞬間に凍り付いた。間一髪でデムランは今の攻撃を回避したものの、万策尽きたのか苦いは顔で両手を握りしめた。
その様子から、剣やナイフ等の得物はもう無いらしい。
「〈火炎属性付与〉」
拳から炎が噴き出し、一帯に焼け付く空気が広がる。
デムランの矛先は死肉からシュシアと呼ばれた何かに変わり、炎の拳がその体……では無く石床に落とした。やはり白い。
拳が石床に放たれると、その衝撃にシュシアと呼ばれた何かがたじろぐ。だが死肉はお構いなしにデムランに襲い掛かった。
しかしデムランは襲い掛かる死肉に、それも手を包む冷気と手首の間に手刀を放って遠くに飛ばして凍えるその力をほぼ無力化し、そのまま死肉の体を手刀で切り刻んだ。
「シュシア……」
全身から湧き出る汗とかなり早い息切れを強引に落ち着かせて、シュシアと呼ばれた何かに近付いた。
「シュシア……なぜ君がここに……しかも、どうしてあの、殺人鬼を……」
「……私の死霊術で、魔力がある限り私の傀儡として復活できるから。この屋敷で死んだ中で1番強かったから。これ以上は答える義理は無い」
シュシアと呼ばれた何かが近付いたデムランの首に触れた。同時にデムランが倒れ、シュシアと呼ばれた何かが立ち上がる。
デムランの生命力に類似したエネルギーが減少。シュシアと呼ばれた何かの生命力に類似したエネルギーが上昇。吸い取った、と言った感じだろうか……?
「これで当分は動けない。デムラン……君に邪魔されたら困るんだよ。さて。さあ、集まれ彷徨える魂ども!封印解除の最終段階。数年の放置によって穢れた無数の魂を贄にすれば……」
「な、何を……」
シュシアと呼ばれた何かは持っていた杖を高く掲げ、高らかにそう言った。
結果として魂は一つも集まらなかった。
「……ど、どうなっている?何故魂が……はっ!まさかデムラン、お前があの大量の穢れた魂を全て処理したと言うのか!」
多分、既に悪意の化身が全て黒から白にしているからだと思う。白は穢れから程遠いから。多分……
全く集まらず無意味と化した魂収集に怒りが生じたのか、怒りの矛先をデムランに向けて杖を高く振り上げた。
「潮時か……そろそろ介入しよう」
「……分かった」
杖を高く振り上げ、目の前の倒れた人間に痛みを負わせるという斜め上の殺意を込めて、杖が振り下ろされた。
「…………?!」
でも寸での所でそれは止まった。
カツカツカツと、空間内に広がった悪意の化身が数歩だけ石床を歩いた足音。突然出現したと形容できる気配の現れ方。内包する異質な気配。
止めた原因はこんな所だろうか……?
それらから、何かを察したのかシュシアと呼ばれた何かは冷や汗を流し、沸き上がる緊張と恐怖と息を呑み込み、デムランを無視して私と悪意の化身を見た。
「……〈死霊の行進〉!」
見た瞬間に驚愕と恐怖の感情に染まって、反射的に杖から大量の黒い魂が実体化して襲って来た。どうしよう……全部黒いし大丈夫か。
「〈蝕怨〉」
私が出現した全部対処すると、その隙にシュシアと呼ばれた何かは幾何学模様に踏み入り、光を帯びてこの空間内から消えた。完全に。
「シュ……シア…………」
デムランがうわ言に近い声と共に私と悪意の化身に虚な目を向けた。
…………どうしよう……
「……はぁ、〈悪逆波動〉」
デムランを見つめるだけで何もしなかった私に痺れを切らしたのか、悪意の化身が悪逆波動を放ってデムランをほんの少しだけ回復させた。
こんなに白くてもこれが限界……仕方ないか、本来の用途では無いし、当然と言えば当然のことだから。
「シュシアと俺様は元々パーティーを組んでいたんだ。もう10年以上前になるか……」
喋れる程度に回復したデムランが、頼んでもいないのに何故か語り出した。取り敢えず聞いてみる。
「死霊術が不気味とかで孤立していたシュシアを俺様がパーティーに誘った。その後順調に依頼をこなしてランクを上げていた……」
……死霊術?何だろう……?
「死霊術って、何?」
「……知らないのか?魔法の一種だ」
知らない。当然のことだけど。
「……だが、この屋敷の件を境に、突然パーティーから抜けた。それからはより一層誰も寄り付かなくなり、誰もあいつを気に掛けることは無くなった。一体何がシュシアを変えたのか……俺様は、俺は知らなければ」
極度の疲労で震える足を強引に動かして立ち上がり、シュシアと呼ばれた何かが消えた幾何学模様に決意の目を向けた。




