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1話 勇者の召喚(生徒24名担任教師1名)何処であろうと影は刺す

「おお!成功した!成功したぞ!ついに勇者が!」

「素晴らしい!良くやった!これで父上もお喜びになるだろう!」


眩しい。何処だろうか。まさかこの世界が終焉を……


「どうなってんだこれ?!」

「し、城……?!」

「おいどこだここ!」

「うわ、ここWi-Fi繋がんないじゃん」

「まじー?サイアク」

「もしかして、もしかしてこれは……魔法!」

「皆さん!落ち着いて!」


……いや、どうやら違うらしい。


私の足元、床には円を基盤につくられた幾何学模様。その上には便宜上クラスメイト全員と担当教師1人。計25人。


周囲には古臭いローブを着た人間達と偉そうで豪華な服を着た青年の誰か。


大理石のような造りの床と直径約20mの幾何学模様から約2mほど空けて石の壁が丸く円を描くように。扉は大きいのが1つ。天井は無駄なほど高い。


「優ちゃん!大丈夫?どこも変なところは無い?」

便宜上親友が私に声を掛けた。


尾理おりゆうそれが現時点の、私の名前。


女性。年齢15歳。身長155cm。可もなく不可も無い身体能力。第三者視点の評価があるとすれば、私の評価は普通だろう。だって普通になるように調節したから。


「父上を呼べ!」

豪華な服を着た青年が甲冑を着た兵士らしき人間に命令口調でそう言い、兵士は扉から外に出て行った。


「よく分からないけど、大変なことになったね……」

便宜上親友が私に質問めいた物を投げかけた。


「うん」

取り敢えず、相槌だけでも返す。


兵士が外に出て行ってから数十秒。急に扉が開かれて、扉から豪華な服とローブと王冠を被った男が入って来た。顔の皺からして、年齢は40代前後。


「よくぞ来た!勇者達よ!どうか世界を救って欲しい!」


この場の全員を見渡すと、男が長々と話を始めた。


要約すると国教の総本山にいる聖女が、近い内に世界に厄災が降り掛かると予言した。その予言を聞いた国王は過去の書物を漁り、勇者を別世界から召喚したという文献に縋って召喚し今に至る。とここまでは良いのだけれど、どうも国王の言葉と心理が噛み合わない。


演説口調に言っていたのもあるのだろうか……


クラスメイト達は突飛なことが起こり過ぎて反論する気は起きない様子。


「それよりも!みんなを元の世界に返して上げて下さい!突然そんなことを言われても無理です!」


担任教師が国王に直談判。


突然別の世界に召喚されて世界に厄災が来るらしいから何とかしてお願いと言われれば、そんな声が出るのは当然。大多数のクラスメイトはそうしたいと思う。


「そうよ!家に返しなさい!」

「そうだそうだ!」


クラスメイト数名が担任教師の直談判に便乗。


「すまないが、この魔術はこの世界に一方通行でしか呼ぶことができないのだ。まだ混乱しているのだろう。国王フリードデリオの名において勇者達の衣食住は保証する。お前達、今すぐ全員分の部屋とベットを用意しろ。もう既に夕暮れを過ぎた。詳しい話は明日にして、今は一度頭を冷やし冷静になって欲しい」




クラスメイト達と担任教師は嫌々ながらも従い。同性数人に1部屋、ベットは人数分用意されて、ご丁寧に寝間着も一緒に。


既に外は暗闇に包まれ星々の光と地球ではあり得なかった2つの月が輝いていた。


ここは大きな城下町を携えた大きな城だった。城下では家々の光がまだ輝いている。


今いるこの部屋では同室に割り当てられた数人が現状についての会議を始めていた。他の部屋でも会話の声が聞こえた。


部屋の外、廊下では兵士が巡回する度に鳴る甲冑の音。さらに遠くでは国王と誰かが話す声。


「さて、数十年の歳月を経て成功した勇者召喚はどんな感じだ?文献では類稀なるスキルと凄まじき力を持つとされているが……」

「現時点ではまだ分かりかねますが、これで他の国より優位に立てるのは確実でしょう。この国が頂点になる時も近いと私共は確信致します」

「そうか、素晴らしい。しかしまだ研究は続けよ。また勇者召喚を行えれば、勇者を使い潰しても代わりを補充することもできよう」

「王の命、しかと承りました」


国王と誰かが欲望を隠さずそう言っている。やはり勇者とは建前で、私達は都合の良い政治の駒らしい。


当然だが私の聴力が逸脱しているだけで、通常は隣の部屋の声も聞こえない。


そして国王が会話している部屋は何やら細工がある。あの部屋から外に漏れる空気振動がゼロ。でも今は……


「……ちょっと外の空気を吸って来る」


「いってらー」

「な、何かあれば助けを呼んで下さいね!」


同室になったクラスメイトがそう言ってくれた。便宜上間接的友達。友達の友達、知り合い程度の間柄である。




部屋を出て廊下に出て目的の地点に向かう。


先程から人外の気配がする。放置してもいいけど、念の為。念の為その人外に会ってみる。


巡回する兵士から隠れつつ、目的の場所に向かう。国王の発言を聞く限り、兵士に見つかってしまえば面倒なことになる。


月明りが照らす中。ようやく到着。


そこには甲冑を着た兵士が1人。気だるげで生気が感じられない。けど、大衆が見れば気付かない。私だからこそこの感想が出る。


「勇者様ですね。こんな夜更けにどうかしましたか?」

こちらに気付いた兵士が私にそう聞いた。どう返答しよう……直球で良いか。


「暗躍する人外に会いに」

「……?!」


この兵士。やはり人間では無かった。見るからに動揺して邪気が零れてる。人間が邪気をその身に秘めれば普通は即死する。だから人間で無いのは確定。


「……流石は勇者と言った所。ですが丁度いい。勘の良い厄介な勇者をこの場で消せるのですから!」

兵士の姿から一変。翼と角の生えた悪魔らしい姿になった。


「置き見上げとして教えましょう。我が名はカースと申します。それでは、油断はしません。確実に葬り去ってあげましょう!」

「あっ……」


悪魔が私の体に指を突き立てて、その中の、魂に触れてしまった。


「グアァァァ…………!!からだが……!我が至高の身体が…………!」

悪魔の体が燃えて崩れいく。


この悪魔……想像以上に存在が曖昧。これではいつか消滅してしまう。この世界の悪魔をよく知らないからかもしれないけど。


「な、何なのだ……!上位悪魔カースである我の体が、魂が、消えかけている?!何故だ!なぜだ!我が種族である悪魔に死の概念など……あるはずが……!」


身体、精神共に風前の灯。私の魂に近付いたのだから当然そうなる。私でもそうなった。


「何者だ、何者なのだ貴様は……!これが人間……勇者の力とでも言うのか!」


誰もいない。言っても構わないか……どうせ何も変わらない。


「人間と言うには間違い。その枠に私はいない。私は、生命が持つ概念そのもの…………生と死の化身……である」

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