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男前の結城さんと乙女な成瀬君  作者: 佳岡花音
11話福井君と結城さん
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ep1 世界遺産巡り

「きょぉとだぁ!!」


浜内は貸し切りバスを降りて、空に向かって背伸びをしながら叫んだ。

その後ろから、成瀬と福井が出てくる。

今回の修学旅行のメンバーはあっさり決まった。

グループを決めると担任から合図があった瞬間、怒涛の女子の群れが成瀬を襲ってきたのだが、雨宮が草津と結城を無理矢理引き連れて、強引に成瀬たちとグループを組んだのだ。

結城は後ろでぎゃあぎゃあ騒いでいたが、雨宮は一切聞き入れなかった。


「最初はどこだっけ?」


修学旅行のしおりを持っていたリーダーの成瀬に福井が聞く。

成瀬はしおりを開きながら答えた。


「最初は西本願寺で、そこから二条城、龍安寺、金閣寺、下賀茂神社、銀閣寺、清水寺みたいだよ。なかなかのハードスケジュールだねぇ」

「まぁどこも世界遺産に登録されている貴重な歴史建造物だからな。一度は拝んでおいた方がいいんじゃないのか?」


福井も成瀬のしおりを覗き込みながら言った。

彼らの後ろでは大あくびをする結城とバスに出てまでスナック菓子を手放さない草津がいた。


「って、今日は自由行動ないのかよぉ。俺的には、早く祇園に行きたぁい‼」


世界遺産など全く興味のない浜内がぶうぶう言っていた。

その横で雨宮がきつい突っ込みを入れる。


「あんたは舞妓さん見たいだけでしょ? 花見小路通りに言ったからって必ず舞妓さんが見られるわけじゃないのよ?」

「うそっ‼ なら京都に来た意味ないじゃん。それなら沖縄とかの方が良かったぁ」


浜内は雨宮に迫りながら訴えた。

しらないわよと雨宮も浜内を鬱陶しそうに払いのけていた。

成瀬たちは教師たちの合図で整列し、西本願寺に向かう。

西本願寺は京都駅のすぐ近くにある大きなお寺さんである。

目の前には住職さんが現れて建物や歴史の事を説明する。


「ここから東側にここと同じぐらい大きい東本願寺がすぐ近くにある。なんでそんな近くに同じような寺が2つあるのかって疑問になる奴が多いけど、仏教の13宗の中で信者の多い宗派がそもそもこの浄土真宗なんだ。実はその中でも細かく分かれていて10つあると言われている。だからそれらの本山が分かれていて西本願寺が本願寺派、東本願寺が真宗大谷派となっているため、同じような寺でも異なると言えるんだ」


福井は住職が懸命に説明している横で成瀬たちに蘊蓄話を披露している。

雨宮はそれを聞きながら、住職の話を聞いてやれよと福井に突っ込みたかった。


「そう言えば西本願寺は世界遺産なのに、なんで東本願寺は世界遺産じゃないの?」


今度は成瀬が福井に質問してみる。


「東本願寺とは通称名で、正式名所は真宗本廟しんしゅうほんびょうと言うんだ。東本願寺も立派で迫力のある巨大な建造物だけど、実際は明治時代に再建されたもので、この西本願寺は江戸時代前の建造物と言われているからその建物の時代の違いかな?」


なるほどぉと成瀬は納得して頷いた。

そんななんやかんや話していたら列が進み始めて次の場所に向かうと言う。

この修学旅行はなかなか忙しないようだ。

結城は完全に寝ながら立っている。

修学旅行の時ぐらい起きていたらいいのにと困った顔で成瀬は笑った。


二条城は完全に日本のお城だ。

特に有名なのが二の丸御殿の正面にある装飾の美しい『唐門』、そして大広間の一の間、二ノ間だ。

ここはあの有名な1867年に大政奉還を行った場所。

よく大河ドラマなどでも見たことがあった。

そして、襖絵はかの有名な狩野探幽で、どの襖絵も金箔が貼られて綺麗だった。


龍安寺はとても庭の綺麗な場所だった。

しかし、そこは広い畳部屋だったので庭も見ずに畳で寝ていた結城と庭を見ながらこっそりお菓子を食べていた草津の2人が教師にこっぴどく叱られていた。


そして、修学旅行で定番の金閣寺。

正式名称は鹿苑寺ろくおんじ

実際に池の上でピカピカと光っていたので成瀬たちも驚いていた。

必ずと言っていいほどここで生徒たちが記念撮影をする。


「いつも思ってたけどさ、金閣寺って中まで金ぴかなの?」


浜内が珍しく福井に質問した。

確かにと成瀬も金閣寺の中は見たことがないので知らなかった。


「全面ってわけじゃないけど、中も金ぴかみたいだぜ。1階は公家風の寝殿造で阿弥陀堂、2階は武家造りの住居、3階は仏舎利が安置されているんだって。最初は西園寺という寺だったけど足利義満が譲り受けるとほぼ別荘状態だったらしい。特に3階の究竟頂くっきょうちょうは床が反射して見えるほどで、俺も写真見てびっくりした。とは言っても、金閣寺は実際2回も火事にあってるし、何度か再建されたものなんだけどね」


それを聞きながら、雨宮は大きくため息をついた。


「あんた修学旅行に来てまで何してんのよ。せっかくガイドの人が説明しているのに、そっち聞かずにここでマニアックな話を披露してないでよ」


雨宮の言葉に福井はむっとして彼女を睨むと、成瀬がまあまあと宥めた。

そして次は下賀茂神社に向かう。

下賀茂神社ではつい目の前のYの字に別れた川の飛び石で遊んでしまう生徒が続出していた。

そして、草津はそこでも名物のみたらし団子を食べることを忘れなかった。


次に、銀閣寺に向かった。

銀閣寺に向かうまでの道はなかなか賑やかで店も並び、入り口の横には哲学の道もあった。

銀閣寺は通称、正式名称は東山慈照禅寺とうざんじしょうぜんじだ。

そんな銀閣寺を見ながら、浜内はありがちな疑問を口にした。


「銀閣寺ってさぁ、なんで銀色じゃねぇの?」


そう、金閣寺はわかりやすく金箔が貼られキラキラと輝いていたのに、銀閣寺はそれと比べるとかなり地味だ。


「別に銀色だから銀閣寺って呼ばれたわけじゃねぇよ。実際そう呼ばれ出したのは江戸時代からって言われているしな。実は銀泊を貼る程の資金はなかったとか、金閣寺に対して作った山荘だからとも言われてるみたいだが」


その浜内の質問に対して欠かさず福井が答えた。

そんな2人に成瀬は銀閣寺を眺めながら言った。


「俺は好きだけどね、銀閣寺。ここは義政が「月待山」と名づけた山を望むことが出来る場所なんだよ。当時は月を見る場所として建設されたとも言われていて、実際に月明かりに照らされるとキラキラ光って銀色に見えたんじゃないかっとも言われているんだ。月を見るために建てたとかロマンチックじゃない? それに銀閣寺こそ、日本の良さであるわびさびの象徴のような場所だと思うからさ」


成瀬のその発言も銀閣寺を眺めるその表情も既に乙女のようであったと言う。

後ろでは全く興味なくただついて来る草津と結城という乙女と呼び難い女子がいたけれど。


そして最後が清水寺。

修学旅行の醍醐味のような場所だ。

寺に行くまでにはいくつものお土産屋さんがあり、そこには漬物などの試食などもたくさんできたので、それをかかさず草津が食べ歩いていた。

そして、浜内は定番のように木刀を買う。


「お前は中学生のガキか!」


福井が突っ込むが、浜内は嬉しそうに木刀を振り回し、教師に怒られていた。

ついでにここの生徒で木刀を買ったのは浜内1人だ。

本堂に行く前にあるのが随求堂。

ここには胎内めぐりを体験するような寺の下の暗闇をめぐるコースがあって、願い、求めに随って、叶えてくれるという大功徳をもつ大随求菩薩だいずいぐぼさつを本尊が祀ってあり、縁結び、安産、子育ての神仏としても知られている。

雨宮は入りたいと目をキラキラさせていうので、仕方がなく福井がついて行った。

そして、成瀬たちは清水寺の舞台に向かった。

ここからの景色はなかなか壮大で、思ったよりも高かった。

成瀬はその舞台から下を眺めて呟いた。


「ここから傘で降りようとした奴、ほんとバカだよな」


その行為は一種の度胸試しのようなものであって、実際亡くなった人もいたが助かった人も数名いたらしい。

この高さじゃほとんど自殺に近いので今では固く禁じられている。

しかし、成瀬たちのメンバーは成瀬と雨宮以外、ロマンに欠けているような気がする。


そして、雨宮が一番気になっていた場所。

縁結びで有名な地主神社だ。

ここでは石を使った恋の占いが出来る。

雨宮は早速目を閉じて願い事をしながら向こう側の石まで向かった。

しかし、目を開けると雨宮は全く方向違いの場所にいてショックを受けている。

それを見ていた福井が顔を隠して笑っていた。

他のメンバーもやってみようという話になり、結城以外が挑戦すると辿り着いたのは福井と成瀬の2人だけだった。


「俺は好きなやつとかいないから意味ないけど、お前は良かったな、成瀬」


福井は成瀬と結城の方を見てニヤニヤ笑う。

自分だってと心の中で呟きながら、成瀬は福井から離れて他の仲間の方へ行った。

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