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男前の結城さんと乙女な成瀬君  作者: 佳岡花音
6話浜内君と結城さん
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ep3 花火大会

結局、花火大会には葵を誘うことにした。

最初は浜内が一緒だと知ると嫌がったが、出店で結城が働いていると教えると渋々ついて来てくれることになった。

なぜだか、それを聞きつけた杏子と一臣も花火大会に行くことになった。

そうなると、浴衣を家族全員分用意しないといけない。

前日にはタンスから出して、吊るしておく。

必要なものも出さなければならない。

着付け自体は一臣が一人で出来たが、杏子と葵は無理だ。

なぜだか、二人の着付けもヘアアレンジも成瀬が行った。

そして、成瀬は母親に夏用の足袋を渡す。


「えぇ、素足の方がいいよぉ。足袋なんて暑いだけじゃない」

「だぁめ。どうせお酒飲んで酔っ払うのが関の山でしょ。なら、靴連れしないように足袋を履いて行って。連れて帰るお父さんも大変なんだから」


そして、今度は葵にも忠告する。


「葵は下駄じゃなくてサンダルね。去年も足が痛いからって、俺が負ぶって帰ったんだよ」


せっかくの浴衣なのだから、下駄を履きたかった葵だが、今回は浜内だけでなくもう一人付添の人がいる。

仕方なく、成瀬の言うことを聞いた。

こうして家族で祭りに行くのはいいけれど、結局準備や支度をするのは成瀬自身なのである。

自分がいなくなったら、この家族はどうなるのだろうと本気で心配になった。



杏子たちとは神社の手前で別れて、葵と一緒に待ち合わせの鳥居の前に向かった。

すでにそこには浜内と百崎が待っていた。

浜内はいつも通り、白Tシャツに半パン姿。

隣の百崎さんは予想通り、祭りに合わせて浴衣を着ていた。

制服姿も十分に可愛いが、浴衣姿もなかなか様になっている。

白地にストライプの入った椿の絵柄の着物だった。

髪はいつものツインテールではなく、後ろに束ねて可愛らしい和風の髪飾りを付けている。

それは彼女が動くたびに揺れていた。

微かに化粧もしているらしく、頬が赤みをさして、唇は潤んでいた。

そしてその姿で成瀬に上目遣いで見つめてくる。

さすがの成瀬もどきっとしてしまった。

それに気が付いたのか、成瀬と百崎の間に割って入るようにして葵は百崎の顔を覗き込んできた。

そして、彼女を睨みつけて呟く。


「誰?」

「葵、失礼だろう? やめなさい」


成瀬は慌てて、百崎から葵を離した。

百崎が驚いた顔を見せたが、成瀬と葵を見比べてすぐに血がつながっていることを悟る。


「もしかして、妹さんですか? かわいいぃ!」


彼女はそう言って葵に笑いかけたが、葵の方は相変わらず警戒心をむき出しにしている。


「結局、葵ちゃんを連れてきたの? 雨宮ぐらい誘えば良かったのに」


浜内は呆れた表情で言った。

簡単には言うが、実際、雨宮と遊んだこともない成瀬が気軽に誘える相手でもない。

葵も私の何が悪いのかと今度は浜内に突っかかっていた。

それを必死で浜内が謝っていた。

その間に、百崎は成瀬に近付いて来る。


「成瀬先輩も浴衣なんですね。すごいお似合いです」


彼女はそう言って、微笑んだ。

成瀬も照れくさくなって笑う。

すると、二人の前方から浜内が境内に入ろうと声を掛けた。

それに続くように、成瀬たちも出店の並ぶ境内に入っていった。

いろんな露店が出ていた。

定番のかき氷や綿あめ、バナナチョコにりんごあめ、肉巻きや焼きとおもろこし、お好み焼きとなんでも揃っていた。

中には金魚すくいや射的なんかもあった。

百崎は射的を見ると、成瀬の袖を掴んで指を指した。


「あれ、面白そうじゃないですか? 私、やってみたいです」


彼女はそう言って、成瀬の腕を引っ張った。

葵も慌てて二人について行く。

なぜ、浜内の相手の百崎が成瀬を引っ張っていくのかわからなかったが、浜内はそれに関してなんの反応も見せなかった。

百崎がお金を払って、銃を構える。

しかし、なかなか思ったところにあたらない。

すると今度は成瀬の目をじっと見つめて、おねだりを始めた。


「成瀬先輩、代わりにやってくれません? 私、不器用だから、うまくできなくてぇ……」


でもと成瀬は躊躇する。

本来なら自分でなく、こういうことは浜内に頼むべきだ。

しかし、彼女の眼の中には浜内は入っていなかった。

そこに浜内が店員にお金を渡して、自分も銃を構えた。

そして、困惑している成瀬に声をかけた。


「成瀬。俺と勝負しようぜ」


成瀬も頷いて、百崎から銃を受け取り構えた。

そして、それぞれ狙った獲物を打ち始める。

成瀬は小さなクマのぬいぐるみを狙っていた。

不安定で落とせそうだったからだ。

浜内は箱型のお菓子を狙う。

そして、ほぼ同時に景品を落とせた。

成瀬がぬいぐるみを受け取ると物欲しそうな目で見つめてくる百崎を差し置いて、葵がぬいぐるみを奪い取った。


「お兄ちゃん。これ、私がもらうね」

「おいおい。葵はそういうものからは卒業したんじゃないのか?」


成瀬はつい聞いてしまったが、葵は答えなかった。

その横で悲しそうな顔をした百崎が立っていた。

そこに、浜内がお菓子を百崎に渡した。


「ごめんね。俺ので良かったらあげるよ」


浜内はそう言って、再び違う露店に向かった。

浜内の行動が明らかにおかしい。

いつもの浜内なら、百崎と成瀬の間に無理矢理でも入ってこようとするだろう。

そもそも百崎は浜内が誘った相手だ。

エスコートをするのは浜内のはずなのに、彼は必要以上に彼女と関わり合おうとしなかった。


「葵ちゃん、何か食べたいものある?」


浜内は葵に駆け寄って声をかける。


「浜内のおごりならある」

「ありゃぁ、お小遣い足りるかな?」


浜内は心配そうに財布を除いた。

そうして、葵の要望の店を回る間も、ずっと成瀬の横には百崎がいた。

どっちがどっちの連れかわからなくなる。

そんな時、目の前にクラスメイトの4人組がいた。

その中には紺色の浴衣を着た雨宮もいた。

雨宮は百崎と一緒にいる成瀬を見て唖然とする。

成瀬もどう説明すればいいのかわからず、困惑した。


「ちょっと、成瀬君、どうして1年の百崎さんと一緒なの?」

「もしかして、デート?」


雨宮の後ろにいた女子2人が尋ねる。

その間にも草津は両手いっぱいのお菓子を堪能していた。

成瀬が困っていると、慌てて浜内がやってきた。

それを見た瞬間、他の二人もほっとした表情になった。


「ごめん、ごめん。俺も一緒なの。雨宮達も来てたんだ?」


浜内は気を利かせて、雨宮達に話しかける。

雨宮はそれを見て、小さく息を吐いて見せた。


「そういうこと。まさか、成瀬がそんなに早く女の子に手を出すとは思わなかったから、びっくりした」


雨宮はそう言って、他の三人を連れて奥へと去って行く。

成瀬の中で少し気まずい雰囲気になった。

浜内も少し、申し訳ない顔をする。


「そうだ! 姉貴の店の出店もあるんでしょ? そこに行こうよ」


突然、そう言いだしたのは葵だった。

成瀬も思い出し、顔を上げる。


「そうだね。確か社殿に近い方にある焼きそば屋さんみたいだよ」


成瀬は葵に引っ張られるままに社殿の方へ向かった。

浜内も百崎も複雑な表情になる。


「同じクラスメイトの結城が、この祭りで露店を出しているみたいなんだ。成瀬のバイト先でもあるし、俺たちも行かない?」


浜内はそう言って、百崎を連れて行こうとする。

しかし、百崎は動こうとしなかった。


「結城さんってあの人ですよね? 体育祭の時、成瀬先輩を保健室に連れて行った」


浜内はびくりと身体を揺らした。

百崎は結城の事を知っていた。

そして、二人の関係も多少把握しているようだった。


「まあ、でも、あの二人は付き合ってるわけじゃないし……」


浜内は気まずそうに答えると、百崎は気持ちを切り替えて顔を上げ、笑顔を見せた。


「そうですよね。せっかく、浜内先輩に誘って来てもらったんだし、楽しまなきゃですよね」


彼女はそう言って、浜内の隣を通り過ぎて成瀬たちを追いかけた。

すると、前方に百崎のクラスメイト達に出くわしてしまった。

そして、浜内と二人でいるところを見て、怪訝な顔を見せる。


「誘っても来ないと思ったら、萌咲その人と来てたの?」

「まさか、付き合ってたりしないよね?」


彼女たちはじっと浜内を見ていた。

浜内も気まずくなって顔を背ける。

すると、百崎は真顔でクラスメイト達に答えた。


「なわけないじゃん。成瀬先輩も一緒だよ」


浜内は目線を床に落とした。

そうなんだと納得したように彼女たちは頷いていた。

そして、萌咲なら行けるよとか頑張ってなどと励ましていた。

彼女はそれを笑顔で受け止めている。

そして、萌咲たちはクラスメイトと離れると無言で成瀬たちを追った。

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