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男前の結城さんと乙女な成瀬君  作者: 佳岡花音
6話浜内君と結城さん
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ep2 ダブルデートの誘い

期末試験は無事に終わり、夏休みは目の前だった。

夏休みに入れば、インターハイまで部活一色になる。

今年こそはと部員たちも息巻いている中、成瀬も精一杯の力を振り絞って試合に臨まなくてはいけない。

ひとまず、成瀬の頭の中は部活の事でいっぱいだった。

それもあってか期末の結果などは二の次になっていて、そこに大きな変化があったことに気が付かなかった。

廊下を通り過ぎ、部活に向かおうとした頃、廊下の壁に期末の結果発表が張り出されていた。

成瀬はいつものように自分の順位を確認した。

学年7位。

いつも通りの結果だ。

そして、その成瀬の斜め前には福井が立っていた。

福井は驚いた顔をしていたが、すぐに口元は緩みガッツポーズを見せた。

何事かと成瀬も最上位の名簿に目をやる。

そこには1位福井、2位野木、3位結城となっていた。

いつもならば断トツ1位の結城が二つも順位を下げている。

しかも、もう一つ気になったのは、いつもなら上位に入っている雨宮の名前がなかったことだ。

名簿をずっと降ろして見てみると15位に雨宮の名前が並んでいる。

雨宮は結城以上に順位を落としているのだ。

成瀬はこの二人に何があったのか気になったが、直接聞くわけにもいかなかった。

そして、珍しい事はもう一つ。

浜内の期末の結果だ。

全ての教科において平均以上の成績が取れているのだ。

これでひとまずスパルタ塾に行かなくてもよくなった。

ただし、夏期講習で予備校に通うことは決まっていたらしい。


「いやぁ、これも愛の力かなぁ」


浜内は緩み切った顔で答えた。

いつもなら睨んでくるのはクラスメイトの女子なのだが、今日に限っては男子からの目線が痛い。

しかし、浜内は全く気にしていない様子だった。


「萌咲ちゃん、超可愛いんだよぉ。わからないところとかさぁ、『せんぱぁい、これどう解くんですかぁ?』とか猫なで声で聞いて来て、身体をね、こう、ぴったりくっつけて聞いて来るんだよぉ。マジ、ヤバくない?」


確かにヤバいと思いながら、何も言えない。

浜内が幸せであるなら、悪い事は何もないのだけれど、どうも彼女の行動にはひっかかるところが多かった。


「それはいいけど、サッカー部は今年インターハイに行けそうなの?」


成瀬はだらけ切った浜内に聞く。

去年は浜内もインターハイには力を入れていたようで、補欠要員であっても全国に行くのだと騒いでいた。

しかし、今年の浜内からはそんな雰囲気など漂っていない。


「インターハイ? ああ、どうだろね。今年は皆あんましやる気ないし、去年みたいに強い選手も少ないから微妙……」


成瀬に言われて、やっと思い出したという態度だった。

もし、去年より強い選手が少ないなら、浜内にもレギュラーになるチャンスがあるはずだ。

しかし、浜内にベンチ以外のポジションに着く気力は感じられなかった。

それよりも今は目の前の可愛い後輩の事でいっぱいのようだ。


「そうだ。成瀬は今年の花火大会どうするの?」


浜内は話を変えて聞いて来る。

なぜ、突然花火大会の話が出てきたのかわからなかったが、とりあえず考えてみた。

確か、去年は妹の葵と二人で行った。

その頃の杏子はホストクラブで入り浸りだったし、父親も家に帰って来なかったからだ。

しかし、今年はどうするのかまだ考えていない。

それに年頃になった葵は、もう兄と出かけたいと言ってくれないかもしれない。


「まだ、決めてないけど……」

「ならさ、ダブルデートしない?」


浜内の口からそんな言葉が出てくるとは思わず、驚いた。


「萌咲ちゃんに花火大会誘ったんだけどさ、二人きりは恥ずかしいから誰か誘おうって話になってさぁ。こんなこと頼めるの成瀬しかいないじゃん」

「え、でも……」


突然ダブルデートと言われても困る。

誰と行くかも決めていないのだ。


「なんだよ。成瀬ぐらいのモテ男なら、誘える女の子なんて五万といるだろう? 誰か適当に誘ってさ、ダブルデートしようぜ?」


成瀬にはそんなにひょいひょい女子を誘えるほど、自分がモテているという自覚はない。

しかし、誘いたい相手がいないわけでもなかった。

成瀬の頭の中に結城の顔が浮かんで、自分でも驚いた。

と同時に、顔を真っ赤にする。


「なになに? もしかして、成瀬君も誘いたい女の子がいるのかなぁ? あれなら俺からも頼んでやるぞぉ?」


余裕があるのか、浜内はにたにた笑いながら成瀬の肩に手を置いた。

それを成瀬は払い落す。

今の浜内に協力して欲しいことなどなかった。


「わかった。俺も誰か誘うよ。それで、いいんだろう?」


それを聞いた浜内が大喜びして、跳ね上がっていた。

これ以上浜内に自分の考えていることを悟られたくなかった。

それに、誘うと言っても、成瀬が声をかけられるのは他には雨宮ぐらいである。

しかし、最近の雨宮は話しかけられる雰囲気はないし、あちらも部活で忙しいだろう。

後は妹の葵ぐらいだが、これはダブルデートと言えるのか。

それに、断られるとわかってはいるものの、結城を誘うという選択をパスしてもいいものか悩んだ。

成瀬が一緒に行きたい相手は、結城なのだから。

ただ、女友達の中で一番信頼がある相手として見ているのか、はたまた本気で好いているのか成瀬にも今はわからない。

けれど、結城と行く花火大会はどの年とも違う充実感があると思った。


無事に1学期も終了して、成瀬は部活とバイトで忙しくしていた。

午前中は学校で夏期講習があり、それは自由参加だったが、予備校など特別な理由がなければ基本参加となっていた。

だから、予備校通いの福井や雨宮は夏期講習には来ていない。

家の仕事を理由に結城も夏休み中は休んでいた。

そして、浜内の夏期講習は夜のみなので、学校の夏期講習にも部活にも参加している。

いつもの浜内なら、この勉強三昧の夏休みに文句を言っていそうなところだが、恋愛に充実しているのか特に文句は言ってこなかった。

こんな前向きな浜内と一緒にいるのは、なんだか調子が狂う。


バイト先に行けば、当然、結城とも会える。

結城は朝から晩まで店の仕事をしていた。

この夏休みのタイミングで客寄せの販促などを考えたいらしい。

それともう一つ、夏には行事があって忙しいようなのだ。

勝は店内に真新しいポスターを貼る。

それは例の花火大会のポスターだった。


「うちも町内会に頼まれて、花火大会で露店を出すことになったんだよ。成瀬君、花火大会の日は空いてる?」

「すいません。友達と遊ぶ約束をしてしまって」


この店が花火大会に露店で参加することをこの時、初めて知った。

ということは結城も露店に手伝うのだろう。


「そりゃぁ、残念だな。なぁ、馨」


勝は勘定を計算している結城に話しかける。

結城は勘定を計算している時が、一番機嫌が悪い。

金額が合わないと露骨に舌打ちした。


「ああ?」


すごい顔で結城は顔を上げた。


「花火大会? あんなのボランティアみたいなもんだろ?」


正直、結城も出店には快く思っていなかった。

出店は準備も多く、忙しい割に儲からないかららしい。


「成瀬君は誰と行くの? 彼女?」


彼女?と聞かれて、成瀬はびくっとする。

いるはずもないが、つい結城の反応を窺ってしまう。

しかし、結城は相変わらず勘定に気を取られていて聞いてはいなかった。

ほっとするような、残念なような気持ちだ。


「いや、彼女いないですから。友達の浜内と彼の友達と、たぶん葵ぐらいを誘っていきますかね」

「そうなんだ。成瀬君、イイ男だから彼女の一人や二人いるのかと思ったよ」


勝はそう言いながら笑った。

いや、さすがに二人もいたらヤバいだろうと成瀬は思っていた。

そして、とりあえず確認しておこうと勝に尋ねておいた。


「あの、出店はどこで何を出すんですか?」


もしかしたら、花火大会で結城に会えるかもしれないと思ったからだ。


「割と社殿寄りかなぁ。焼きそばを販売するよ。500円。友達も誘って遊びに来てヨ」


勝はにこにこ笑いながら答えた。

ひとまず、成瀬も笑って頷いた。

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