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第三・五話 ざわめく想い

 ショッピングモールと言われる場所の三階。


 私――黒戸部 理亜が彼に連れられてやってきたのはフードコートと呼ばれるいくつもの飲食店のブースが集まる広場のような場所だった。


 丁度昼時ということもあってか、それなりに多くの人々で賑わうその場所の片隅で、二人掛けのテーブル席を確保しておくように言われた私は、その席に腰掛けて彼を待つ。


 彼というのはもちろん黒戸部 路惟という青年のことであるが、私のような人間が気安く人の名を口にしてはいけないことくらい知っているので、彼と称するだけにとどめておく。


――なんだろう……。心がざわざわする。


 ふとそんなことを思う。

 上手くは言えないけれど、心の中に手を入れ込まれてぐちゃぐちゃにかき混ぜられているような気分だった。


――なんだか、嫌な感じ……。


 嘆息にも似た息を吐いて、目を眇める。

 多分、というか絶対に彼のせいだ。彼が妙な行動ばかりするからこんな気分になっているに違いない。


 ふと耳を突くのは周囲の喧騒。特に耳を傾けているわけでもないし、普段は気にもならないのだけど、今はそれが酷く気になった。


 幼児の鳴き声も、それをあやす母親の声も、食事中の恋人たちの談笑も、孫らしき子供と老夫婦の会話も、何故だか五月蠅くて仕方がない。


――居心地が悪い……。


――早く、帰りたい。


――帰る……?


 ふ、と思わず自嘲する。

 正直、そんな考えが頭を過ぎったこと自体が驚きで、そしてこの上なく憐れだった。


――自分の家もないくせに、一体どこへ帰るっていうんだろう。


 帰る家なんてない。

 今は彼の家にお世話になっているけれど、あくまで彼の家であって、邪魔者である私が望んで帰っていい場所ではない。


 別に今更どうでもいい。

 いつだってそうだった。私は預り手の気まぐれで家に置いてもらっているだけの居候。


 出ていけと言われれば文句は言えないし、そうなれば、また次の場所へ行くだけのこと。

 どうせ今回も彼が飽きればすぐに切り捨てられるに決まっている。


「こんなことなら、いっそ……」


 そんなことを言いかけて、けれど少し離れたところに彼の姿を認めて口を噤む。

 ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる彼は食事を載せたトレーを手にしている。


「待たせてごめん。昼時だからかお店込んでてさ……どうかした?」

「……。」


 わざわざ言いかけていた言葉を切ってまで、そんなことを言ってきたのは、私の不機嫌を察してか、それとも単なる気まぐれか。


 前者でなければいいなと思いつつ、目を逸らす。

 理由は自分でもよく分からないけれど、彼のこういうところが本当に苦手だ。


――放っておいてくれれば、いいのに……。


 けれど結局、それを口にすることは出来ずに、「なんでもない」なんて思ってもないことを口にしてしまうのだった。

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