5・特型とは特別なのか特殊なのか
藤本喜久雄を語る上で外せないものと言えば、この特型からの流れで日本の艦艇がトップヘビー化、強度低下して第四艦隊事件へと至るあの流れであろう。
史実の特型においては、何も考えずに積み増し、肉抜きしたなどというわけではなく、ちゃんと当時の持てる知見や実績から導き出した結果をしっかり反映したものを作り出していた。
アレがどうしたコレがそうであればというのは、友鶴事件や第四艦隊事件によって露呈したものである。
復元性問題一つとっても、第四艦隊事件以前であれば、全く問題ないものとされていた。初春はまあ・・・・・・
そして、それから時が流れて、戦後には日本軍否定の中で、復元性問題が語られる事もあったりするが、戦前の時点で大事故があった結果、戦時中の無茶苦茶な増設や魔改造が横行したにもかかわらず、結果として嵐や波に起因する喪失事故は起こしていない。
対して、戦前の段階で第四艦隊事件の様な事故を経験していない米軍は増設に次ぐ増設でトップヘビー化著しい駆逐艦が沈没する憂き目に遭い、太平洋の波が想定外であったために空母の甲板がめくれる事故を引き起こしている。
日本軍ガーという一面的な語りで否定や批判する意見、あるいは後知恵を当然とした批判というのは得てして落とし穴が存在する訳だ。
ま、今やっている事はそう言いながらも、後知恵である逆行転生チートを駆使して艦艇史を改変している訳なんだけどね?テヘ☆
そんな訳で、特型駆逐艦である。
要求仕様は12.7センチ砲6門、61センチ魚雷9射線というモノである。もちろん、史実通りであって、ここに改変は存在していない。
ただ、それをそのまま満たした設計を出来るのかと言われれば、重量オーバーの懸念があるのは機関部だけで、そこに重量が上乗せされたところで、溶接の全面採用によって船体も上部構造物も軽量化出来ているので何の問題も無い。
さて、更なる軽量化を意図して構造物へのアルミ材の使用などと言う提案もあったが、却下している。
確かにアルミ材を利用すれば軽くは出来る。耐食性の高い合金を示して開発してもらえば少なくとも後期建造艦、曙型には間に合うのかもしれない。
じゃあやるのかって?
やる訳がない。
アルミ、ないしはアルミ合金の艦橋適用は戦後も行われ、その時には耐腐食性が高い合金が用いられたことで各国で盛んに導入される動きを見せた。が、その結果はどうであったかというと、実戦での脆弱性が露呈してしまった事で鋼製回帰が起きたりしている。
艦艇での使用に限らず、装甲車両への盛んな利用も行われていたのだが、やはり耐弾性の問題や耐熱性の問題から鋼製回帰が起きているのは、その筋の人間なら承知の事だろう。
下手にチートを振りまいてアルミ合金の採用なんぞすれば、太平洋戦争で史実以上の惨劇を招きかねない。いくらダメコンの研究も始めているとはいえ、砲爆撃や火災に対する脆弱性はダメコンや消火設備だけでどうにかなる話ではないのだから。
もちろん、だからと言って頭から否定などはせず、アルミ船体の試験やアルミ製構造物の試験は行っている。結果は、耐腐食性の低さがしっかり示されることとなった。
そして、重要な点がもう一つ。史実よりかなり早く、船体電気溶接に関する指針がまとめられた。これは那珂の試行錯誤を基にしたマニュアル化である。これによって、溶接を用いて艦艇を建造する際には、指定された溶接器具や材料を用いることが定められ、溶接性鋼材の規格化も一応は達成している。St52鋼の導入なんて必要ないんやで?今の日本。それに相当する鋼材の開発を自前で出来るデータと知見の蓄積が出来ちゃったから。
さらに、大西健太郎氏の弟である満賢君が藤本氏の後輩として入って来た。ちなみに健太郎氏は溶接に関しては一通り満足が出来たから航空機について学び直すと言って、新たな道を歩むことにしたらしい。なんともバイタリティがあるというかなんというか・・・・・・
そして、平射砲として開発された50口径三年式12.7センチ砲を高角砲としても使える様に開発を改変している。
史実十年式12センチ高角砲も巻き込んで、垂直鎖栓式砲尾を開発、50口径十一年式12.7センチ砲と45口径十一年式12センチ高角砲という二つが完成し、対空射撃用の時限信管調定装置の開発も既に始まっている。ただ、そのあおりで史実八九式は開発から除外されることになったのは仕方が無いと思う。
これによって駆逐艦砲も両用砲としての価値が増すことになり、当然ながら自由装填式で最大仰角65度に設定してもらった。操砲関係については順次改善、改正を行っていき、最終的には高角砲としても支障が無いモノになる予定である。ってか、満賢君、そっちの知見もあるんかい?彼の貢献がかなり大きかった。
彼はさらに射撃指揮装置の重要性を熱く語り、最近入って来たばかりの大西家末弟である賢吾君に至っては、その筋を専門にしているらしい。
特型では史実通りの簡易な装置しか導入されないが、これから射撃指揮装置の飛躍的な展開があるのかもしれないね。
さて、魚雷に関しても少々弄る事にした。そう、炸薬に関してである。
トーペックスそのものが作れるなら良かったが、それは少々問題があり、まずは下瀬火薬の更新用にD爆薬(ピクリン酸アンモニウム)への置き換えを推進し、そこにアルミ粉末を添加した一式爆薬モドキの開発から始め、各種組み合わせの試行錯誤によって、特型建造頃には九七式爆薬よりも魚雷に適した爆薬の目途もたっている状態にまで仕上げられているという。
そして、肝心の魚雷発射菅だが、三連装3基の要求に対し、四連装開発を前提にした2基へと搭載数削減を行う事にした。もちろん、それに合わせる様に発射管開発をせっつかれてこちらに恨み節をこぼされているのだが、我慢してほしい。第四艦隊事件対策なんだから。
ちなみに、那珂で試作だった次発装填装置は四連装発射菅とセットでの搭載なので、無駄にスペースがある事への不満が吹き荒れているが、もうしばらくの我慢だよ。