1・それは何やら夢のような話であったように思う
さて、今日もこの縛りゲーで遊ぶとしようか。
防護巡洋艦や航洋型駆逐艦が出現した時代のステージに12センチ単装砲3基しか装備しない掃討艦で参戦するのが今のマイブームだ。
時には掃討艦マッチとしか思えないような事も起きるが、そうなると戦艦や巡洋艦が難敵となって立ちはだかる。なにせ、こちとら魚雷を持たない掃討艦なので、豆鉄砲をペチペチやるしかない。
それが初心者ステージにもかかわらず、ベテラン勢ですら遊べるという醍醐味をもたらしてくれる訳だが、当然ながら、使えるスキルの少なさもあって、初心者狩りなど早々できない様に調整されているので、ネットで見た「初心者が掃討艦で参戦すると泣きを見る」ことになるのはもはや笑い話である。
「お、どうやら掃討艦祭りだな」
この状況に嘆きの声がメッセージ欄を満たすおなじみの光景が広がっているが、仕方が無かろう?それでもちゃんと初心者を導いてやるのがベテランの使命なのだよ。知らんけど
掃討艦には魚雷が無いので偵察は出来るが攻撃は苦手だ。駆逐艦であれば魚雷を流して敵を削って行けるのだが、それが出来ない。
さらに、このステージに出てくる大量の砲を備えた防護巡洋艦連中と比べても手数が少ないため、魚雷の代わりに主砲で焼き尽くすなどと言う芸当も苦手としている。
それでもより新しい時代の艦であるため、砲の性能や発射速度、射程には優れているため、長所を生かして戦う事は可能だ。初心者に対するハンディキャップだよ。
小柄で軽武装の沙弥型掃討艦は被発見距離が短く、とても発見されにくい。しかし、掃討艦という海賊対処や護衛を主任務としていた艦の特性上、このステージの駆逐艦以上の視認距離を有している。その点ではチートなのだが、当然ながら、その視認距離がいくらあろうと魚雷がないのだから自ら攻撃を仕掛けることはできない。味方を誘導して攻撃させる必要があるという、ベテラン向けの仕様となっている。
「敵艦を発見、掩護求む」
定型文を打って味方を呼び寄せる。そして、味方に対して視界を共有しながらさらに周囲の警戒に専念するのが、掃討艦に与えられた役割である。
相手が掃討艦という事は、相手も同じような行動を行っているので通常よりも双方ともに発見されるのが早く、巧みに動かなければ敵の掃討艦に位置バレしてしまうリスクまで伴う。
どうやら極度の縛りプレイや舐めプでもないかぎり、「勘違い初心者」であろう隙だらけの掃討艦を発見した。
そもそもHPの低い掃討艦がうまく動けないとなると味方へのダメージすらデカイ。
「あ~あ。そうなる罠」
さっそく未だ発見されたことに気付かずに停泊していた掃討艦に味方巡洋艦が攻撃を仕掛け、瞬殺している。
こうして相手を削った後、後半戦はこちらから戦艦をおちょくりに行くことになる。
ペチペチ嫌がらせの砲撃を加えて気を逸らしながら、巡洋艦と連携して戦艦を沈めるのが仕事だ。どれだけ自身がヘイトを受け持てるかで味方の勝利が決まると言っても良い。
ほぼ互角に戦っていたが、あの掃討艦が退場した事でこちらの視界が開けたのが良かったのだろう。味方掃討艦と阿吽の呼吸で敵の掃討艦を更に潰して何とか勝利をもぎ取る事に成功した。
1戦終えて、掃討艦ってなんだっけ?などと考えてしまった。
いや、分かるんだが、当然だが昨日までゲームには存在しなかったし、本来ならば現実世界にも存在している筈がない艦艇である。
それが何故、普通に存在しているのかはよく知っている。原因は自分自身なのだから。
あれは昨日の話だ。
いつものようにゲームを終え、変わり映えしない巡洋艦ツリーやオカシな艦が沸いてしまった駆逐艦ツリーに不満を抱いていたわけだが、ふと、シャットダウンしたはずの画面に老人が現れやがったんだ。
「日本の艦艇ツリーが不満かね?」
などと言い出す。何のバグなんだと思った。
「バグではないぞ?」
と、言う老人。それこそ意味が分からなかった。
「日本の艦艇が不満なら、思い通りに弄ってみてはどうだ?」
などと、不正アクセスを奨励してきやがる。だが、不正アクセス出来たところで、残念ながら艦艇データの書き換えなどと言う高度な技術など持ち合わせていないのだからどうしようもないではないか。
しかもだ、そんなことをすればさらに史実から乖離した歪な状態が出来上がるだけ。仮に不正アクセスしてデータ改ざんに成功しても、不満解消には程遠い。
「何、その史実という奴を弄れば良いのさ」
などと言う老人がより一層胡散臭く思えて来た。いや、ゲームのやりすぎで疲れてるらしいから早く寝た方が良いのかもしれない。
だいたい、史実を弄るってどうやるんだよ。平賀譲にでも転生や憑依でもするのかね?いや、藤本喜久雄だろうか?
ちょうど不満がある艦艇群の辺りは藤本喜久雄だろうか。
いやいや、誰であっても「ハイそうですか」で転移や憑依してどうにかできるわけじゃないだろうに。トンだ幻覚が見えてしまって自分の頭を疑いたくなる。
幻覚を見るなら可愛い女の子の方が良い。何で爺さんなんだろうね?
「そうか、藤本喜久雄だな。ではそうしよう。ふむ、報奨は可愛い少女とな?」
自動再生ではありえない幻覚がそういうのが聞こえて来たが、もはやそんなことに意識は向いていなかった。