17・余りものの再利用でも良いじゃないか
とうとう1939年である。
戦前の時点で早くも松型駆逐艦相当が検討どころか実行段階に入るという恐ろしい事態となり、とうとう艦載可能なデンケンこと電波見張り装置が掃討艦以外にも搭載されることになった。
なんと、那珂が改装されて防空艦の試験艦として12.7センチ砲4基と九四式射撃指揮装置、さらには対空電波見張り装置が装備された。
艦橋に載せるには重量があったので、予備魚雷保管庫を潰してレーダーマストを設けている。
当然だが、魚雷発射菅も潰し、そこには仮名秋月型に採用した2基1群の九六式57ミリ自動速射砲を配置した。25ミリ機銃はそこいらにいくつか連装機銃を配置しているのでまあ、何とかなるだろう。
そして、試験の結果はデンケンがすでに実用域にある事が確認され、九四式射撃指揮装置による高射管制にも問題なし、なにより九六式57ミリ自動速射砲が高角砲としても有効だと初めて評価された。
そして、試験に参加していた砲熕部の人から驚きの話まで聞くことになる。
「どうやら陸さん、57ミリ砲を戦車に積むみたいですよ」
というのである。自動装填機構を改造して使用するための諸々について話があり、戦車の砲塔に搭載するための改造に携わったんだとか。マジで?
何でも、陸軍の戦車砲には37ミリと57ミリが存在するが、既存の57ミリ砲は短砲身なので、新たに開発するより、新採用した自動速射砲が流用出来ないかという話になったとの事である。
この時期だと47ミリ速射砲が開発されていたはずだが、何やってんだ?陸軍は・・・・・・
物はついでに、例の10センチ高角砲の話も聞いてみたら、陸軍船舶の高角砲としても興味を持たれたため、陸軍の10センチ砲と口径を合わせて、10.5センチ砲として開発しているらしい。
「陸軍の口径?まさか野砲と同一口径とか?」
と聞くと、
「野砲ではなく、加濃砲と同じ口径の艦載用両用砲ですね。海軍としては標準的な45口径ですが、陸軍にとっては長砲身らしいです。もちろん、十一年式砲尾を採用して加濃砲よりも初速も向上させてありますし、加濃砲を意識して可能な限り軽量な砲身に挑んでみました」
との事だった。無茶はしていない事を祈ろう。
それからしばらくして、久々に健太郎氏に会う事も出来た。
「大活躍している様でなによりですね」
という彼に、転職して何をやっているのか聞いてみたところ
「最近ようやく一人前として設計を任されるようになりました。今は海軍の局地戦闘機という奴の担当になりましたよ」
というので、時期的に雷電だろうな。
そうか、あのいわくつきの機体かぁ~
という事でFw190について教えておく。推力排気で紡錘形を吹き飛ばしてほしいものだ。さらに、水中の話という事で境界層流についても話し、もし空気も同じならば吸気ダクトを機体から少し離した方が効果的じゃないのかと伝えておいた。もちろんNACAダクトも忘れずに。
しばらく雑談したのち別れたが、雷電がいわくつきにならずに活躍してくれることを願ってやまない。
そんな事をしていると、今度は賢吾君がレーダーの小型化に成功したという。
よく知るあのラッパ型である。
「マイクロ波を使うデンケンですが、これなら巨大なアンテナを用いずに済むようになります」
という、確かにそうだ。しかし、あのラッパはどうなんだ?
という話をして、パラボラ型とブレード型の方が搭載しやすい事を伝えた。
「なるほど、確かに艦艇への搭載を考えるとそうかもしれませんね。小型化にばかり目が向いていて、そこまで気が回ってませんでした。しかし、この形式であれば、射撃盤に組み込むには向いていますよ?」
と言って、レーダー射撃指揮装置の説明をしてもらった。なるほど、対水上用としては問題なさそうだ。あとは、対空用に使える精度を持った機器が安定して生産出来れば良いのだがね。
「その辺りも努力はしています。成果が出るにはいましばらくかかりそうですが」
との事だったが、まあ、一応、まだ2、3年はあるんだから焦る事はない。21世紀の2、3年ならあまり動きはないが、この時代の2、3年の技術革新は凄いからな。
そんな事をやりながら、とうとう正式に建造が決まった超巡洋艦の本格的な設計に、そのレーダー射撃盤を組み込むことにした。
この超巡洋艦、基本的に金剛型の装甲厚と同等の物を備えた船として設計している。もし大和型と並ぶような新型戦艦と対峙すると分が悪い艦なのは目を瞑るしかなく、対抗相手は重巡洋艦や装甲艦として要目が定められ、一応、自身の搭載する36センチ砲にも対応可能というレベルである。そうしないと間違いなく大和に迫る巨艦になってしまうので、かなり妥協の産物と化している。
ただ、そんな艦ではあるが、巡洋艦なら魚雷だろという無茶な要求を出してくる輩が居た。さすがにそんなものは拒否している。
規模の面から副砲が欲しかったが、それも、重量の観点から諦めるほかなかった。
それでも一応、最高速力は33ノットを目指しているのでかなりの細身であり、削れるものは削っていく他ない。そうした事から12.7センチ砲も最低限とし、九六式57ミリ自動速射砲で火力を穴埋めする形になっているのは仕方がない。
さらに言うと、大和型の船底まで伸びる防御装甲というモノも採用していない。軽量化の為に水線下防御は水中弾に対する耐弾ではなく、水雷防御のみとして後はダメコン対応である。
そんな設計に対して色々煩い連中には20センチ三連装砲塔4基と三連装魚雷発射管4基を搭載する特大型重巡洋艦案を見せて興味を逸らしている。そうでもしないと話がまとまらないほど要求が拡大していってたからな。
「何?米艦に対抗できる新型31センチ砲?これから開発していたら完成がいつになるか分からん。すでにある36センチ連装砲塔で取り急ぎ2隻建造し、様子を見ながら開発に移行しても遅くはあるまい?」
と、騒ぐ連中を丸め込んでいる大西提督の姿も見た気がする。
そんな折、満賢君が喜々として訪ねて来た。そうか、空母の設計任されてるんだっけ。
「ようやく理想とする空母の設計が出来ましたので、ぜひご覧ください」
と、紙束を示しながら言われた。




