第6話 剣技対戦 Ⅰ
つたないこの作品を見に来ていただき、ありがとうございます。
何とか長くなりすぎないように頑張りますので、よかったら読んでください。
騎士魔導士学校は、のちの国に仕える騎士や魔導士を育成する学校である。
その為、施設は充実していた。
騎士専科の剣技場も5つあり、その中の一つ純粋剣技場は、特殊な空間固定法を施すことにより、魔導力の使えない空間を作り出している。
純粋に剣技だけで戦えるという特殊な闘技場である。
プロミネンス教官がわざわざこの闘技場を二人の決闘に用意したのは、ディッセンドルフの魔導力がこの国の最高の魔導士に匹敵、もしくはその上を行っていることによる。
なんと言っても計測計の計測限界を超えてしまっており、そんな力をもし使われた場合、アマガを殺してしまうかもしれないという懸念があったからだ。
騎士特性もかなり高いが、魔導力ほどではない。
また剣技のみの条件となった場合、経験者と、非経験者では圧倒的に経験者が有利である。
この事から、アマガに対してかなりのアドバンテージをプロミネンスは与えたことになる。
単純にプロミネンスはディッセンドルフの実力を知りたかったための設定であった。
純粋剣技場は人で溢れていた。
普段、かなりの大きな大会で使用されない限り、この闘技場が人であふれることは稀である。
剣技のみを競う競技が少ないというのがこの世界での常識だった。
円形に作られた競技場に、通常では考えられないくらいの高いフェンスが設置されている。
これは魔導力を無効化する空間を作る装置が内蔵されているためである。
そのフェンスの所から後方に向けて階段状に観客席が設けられている。
ちょうど競技を見るために最高の位置には貴賓席が設置されている。
この観客席が満員になることは少ないが、学校内の剣技を争う事はたびたびあり、校内大会は全校での勝ち抜き戦としても使われ、政府や、王室、他国からの見学者もいるための貴賓席である。
国王と最高裁長官は執務のため、既に帰路についているが、王女と首相はそのまま、この入学生同士の剣技を観覧することになった。
迷惑なのは、警備する担当の者であろう。
急遽、警備員を再編し、貴賓席、並びにこの純粋剣技場の内と外の警戒に当たっている。
聖女アンドリュー・ビューテリウムはその貴賓席にはいない。
剣技場で頭部と胴にプロテクターを装着したディッセンドルフの横に、その麗しい姿があった。
聖女には当然ながら従者と警備の者がついているが、さも当たり前のように聖女が剣技場の競技場に行かれた時は、皆心の中で泣いていた。
聖女の「神の子」への執着は並々ならぬものがあった。
ディッセンドルフの顔が何とも言えない表情をしていたのを、従者の修道女も警備者もしっかりと見ており、心の中で「同志よ」と思われておることに「神の子」は苦笑した。
「君たちは新入生だ。まだこの学校の施設は充分に説明はしていないが、この「純粋剣技場」は特別の造りになっている。ここは剣技だけでの技術を高めるために、放出される魔導力を無効化する空間を形成している。早い話が魔導力は使えず、君たちの持つ木刀での決闘となることを覚えておいて欲しい。君たちがどれほどの剣技を持っているかは我々にはわからんが、この学校の学生であることに恥じないよう、戦って欲しい。いわゆる本式の決闘は、それぞれの持つすべてをかけ、命すらも賭けることが多いが、君たちは学生だ。そこで私が審判となり、本校の学生会議会長のイザナギ・バーニング君を見届け人として行う試合形式とする。基本的に防具以外の打撃は無効もしくは反則とし、防具への打撃を1ポイントとする。先に3ポイント先取したものが勝ちとする。よろしいな。」
プロミネンス教官が両者に今回の決闘のルールを説明し、確認をした。
アマガが薄く笑いながらプロミネンス教官に頷く。
横にいる聖女を鬱陶しく思いながらも、ディッセンドルフも頷いた。
赤と白の旗を持つプロミネンスが中央に立つ。
アマガはお付きの従者と取り巻きの3人組が見送る。
それに反してディッセンドルフには聖女と聖女の従者という、ディッセンドルフ自身が頭の痛い集団に見送られて闘技場の中央に向かった。
ディッセンドルフ自身に、剣技を習った記憶はないが、ディッセンドルフに付き従う騎士の一人、ブラウンの髪が美しい女性騎士、アルテミス・ダナウェイと剣は合わせていた。
筋はいいらしい。
アルテミスの話だ。
が、正式なものではなかった。
そのため、こんな防具を付けたのは全く初めてで、感覚が分からない。
「では、始め‼」
号令がかかった。
片刃の刀を模した木刀がすぐさまディッセンドルフの目の前に見えた。
かなりの速さであった。
ディッセンドルフはその動きを完全に捉えていた。
最小の動きでその木刀をよけた。
パシッ!
微かだが、確かな打撃音が鳴った。
「えっ?」
ディッセンドルフはその音が信じられなかった。
「1本、バーミリオン!」
アマガの勝ちを示す赤旗を上げたプロミネンス教官のはっきりと力強い声が響いた。
一瞬の静寂。
そして、歓声。
中央で礼をした後、一旦自陣に戻る。
ディッセンドルフは自分の頭部を守るフルフェイスのプロテクタを外し、その木刀を受けた箇所を見た。
打撃音自身は大きくなかったがひびが入っていることが分かった。
なるほど。
あれだけのことを言うだけの実力はあるらしい。
だが、ディッセンドルフは不服であった。
確実に避けたはずだった。それが何故ポイントを取られる結果になったのか?
「ディッセンドルフ様、大丈夫ですか?」
聖女様が本気で心配しているようだ。
美しいその瞳が少し潤んでいる。
別に恋心も何もこの聖女、アンドリューには全く持っていなかったが、こう心配されると少し情も湧くというものだ。
ディッセンドルフは12歳とは思えない大人っぽい仕草で20代後半の聖女の美しく光る銀髪を掌でやさしく撫でた。
その行為に聖女はハッとして、顔をあげディッセンドルフを見る。
その潤んだ瞳で…。
「心配をするな、アンドリュー・ビューテリウム様。君のその心を落ち着かせるために、もう剣は受けないよ。」
その言葉に、とうとう聖女は泣いてしまった。
「ありがたいお言葉。アンドリューはディッセンドルフ様の勝利を疑っておりません。ですが私のようなものの心まで慈しんで頂き、光栄に存じます。」
ふっッと軽い笑みを聖女に向け、胴を守るプロテクタを外した。
その姿を見ていたプロミネンスが素早くディッセンドルフに駆け寄った。
「プロテクタを外してどうした、ディッセンドルフ学生。棄権か?」
「いえ、この防具があると感覚がつかめません。外させてもらいます。家での剣の修練はこのような防具は使いませんでした。」
「剣を習ったことがあるんだね。」
「大層なものではありません。家付きの騎士に遊びがてら習っただけです。」
「ほう、家付きの騎士とか。ちなみにだが、その騎士の名を教えてもらえるかな。」
「アルテミス・ダナウェイという女性騎士です。」
「そうか、アルテミスが爵位の家にやとわれたとは聞いていたが、ルードヴィッヒ家であったか。」
「教官はアルテミスをご存じのようですね。」
「うむ。この学校の卒業生の中でも優秀な学生だったからな。そうか、彼女に教わったという事なら、確かに実戦的な教え方だったろうな。よろしい。防具を外すことを認めよう。ただし、危険と見たら直ちに試合を止める。いいね。」
「はい。承知しました。」
「うむ。」
プロミネンス教官がそのままアマガの陣営に向かい、こちらが防具を取ることの説明をしている。
アマガの顔がみるみる赤くなっていく。
きっとバカにされたと思ったのだろう。
ディッセンドルフにはどうでもよかったが、自尊心を踏みにじられたと思っていることは容易に想像できた。
また、何故貴族学院に進学せず、この騎士魔導士学校に入学したのかも、想像ができた。
貴族学院のカーストがお気に召さなかったのだろう。
そして剣技に関してはかなりの自信があった。
平民の多いこの学校で侯爵位を前面に出せばさぞやその優越感を満足させられたのだろう。
だが、自分が首席でないことに痛く自尊心を傷つけられた。
その腹いせがこの決闘となるわけだ。
非常にばからしい。
自分が同世代に負けるわけがないと思って、剣技での決闘を申し込んできたという事も不快だ。
そう、気に喰わない。
ディッセンドルフは、初めて湧いたこの感情に、最初は戸惑ったが、今はこんな感情でも自分にあることを喜ばしく思っている。
とはいえ、気に喰わないという感情も事実だ。
聖女様の涙も、自分にはないと思っていた闘争心と庇護欲に火をつけたようだ。
先程のミスは、自分の身体につけられたプロテクタが、今までの自分の身体より大きく出ていることにあった。
プロテクタがなければギリギリで躱せた太刀筋がプロテクタの厚みで躱せ切れなかったという事にすぐに気付いた。
だが、練習であれば、そのプロテクタ分の厚みを意識することもできるとは思うが、既に1ポイント取られている。
そしてもう負けないと聖女様に誓ってしまった。
であれば、その厚みのもとを取り外せばいい。
それだけのことだ。
プロミネンス教官が中央に来るように手で合図してきた。
ディッセンドルフが中央に来ると、燃えるような熱を孕んだ瞳をプロテクタ越しにぶつけてくるアマガがいた。
かなり自尊心を傷つけられて、お冠のご様子だった。
となれば、さらに相手にするのは容易い。
「2本目、始め‼」
またも馬鹿の一つ覚えの様に剣を顔面目掛けてついてきた。
しかし、頭に血が上っているのだろう、ついてくる剣に先程の圧はなかった。
今度は自分の考えている通りにギリギリで避けることが出来た。
が、それはフェイントのようで、ディッセンドルフの顔の左を空振った剣がその位置から手首のスナップだけで顔の側面に打ち付けてきた。
これは戦争ではない。
試合である。
軽くだろうが、プロテクタのある位置に木刀が当たればポイントが取れることを知っているやり方である。
殺傷力の欠片ないただの手打ちでも、当たればいいのだ。
だが、その動きもディッセンドルフには見えていた。
ディッセンドルフの右手に握られた木刀が、アマガの木刀に下から突き入れられて、上に弾かれた。
と、同時にディッセンドルフの身体が低く前方に飛び出し、アマガの左横を駆け抜ける。
その刹那、アマガの胴のプロテクタに剣をぶつけた。
「1本!」
教官の声が響く。
またもその声に歓声が上がった。
ディッセンドルフはどうやら自分の勝ちに賭けている人間がいることを知った。
試合前、耳のいいディッセンドルフには、剣技の優秀さを認められているアマガの勝ちに賭けているものが大多数であることを知っていたのだ。
少し息をついて、ディッセンドルフは立ち上がった。
アマガは茫然と自分の胴のプロテクタを見ていた。
強固のはずのプロテクタにディッセンドルフの打撃の後を示すようにひびが入っていた。
さらに腹部に痛みがあった。
プロテクタがあったにもかかわらず。
アマガはプロテクタを外し下着をめくった。
腹部に真横に赤い筋が浮かび上がっている。
アマガは剣技の大会に幾度か出場し、優勝を含む賞を取っている。
ここ純粋剣技場のような場所ではないので、魔法を使える剣士も少なからず出場していての成績である。
だがその中に「神の子」はいなかったはずだ。
プロテクタを付けた大会でこんな傷をつけられた覚えはない。
自分が先ほどのディッセンドルフプロテクタを外すことに関して、頭に血が上っていたのが事実だ。
だが、それを差し引いても、プロテクタ越しの傷などどうすればできるんだ?
頭に上っていた血が冷めてくる。
自分の取り巻きの3人が何か言ってきているが、すでにその話は耳には入ってこない。
ディッセンドルフは強い。
それもかなりの手練れだ。
甘く見ていた。「神の子」などとは戯言だと思っていた。
アマガの闘争本能が警戒すべき相手への思考にチェンジした。
そして、奴がプロテクタを外した真の意味も理解できた。
自分を怒らせるためではない。
実戦の剣技を使っているため、邪魔になっただけだった。
魔導力を無効化するこの空間で、アマガの闘志は痛いほど自分に向けられていることがディッセンドルフにはわかった。
ただの侯爵家のボンボンではないという事か。
「素晴らしい剣技です、ディッセンドルフ様。くれぐれもお怪我無きように。」
「ああ、大丈夫だ。勝利を持ってくるよ。」
ディッセンドルフには珍しく軽口を言い、中央に向かう。
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