第5話 決闘
つたないこの作品を見に来ていただき、ありがとうございます。
何とか長くなりすぎないように頑張りますので、よかったら読んでください。
「これはどういうことか説明できるものはいるか。」
あえて、全員に対してプロミネンスは尋ねた。
プロミネンスは長年にわたり、この学校で教鞭をとってきた。
ゆえに、いくら優秀でも、いや、優秀だからこそというべきだろうか、いじめというものが発生する。
ただし、それは精神的に弱いものが被害に遭うことが多い。
今回の様に席次の上の者に対して入学の日からいじめが起こったことは、プロミネンスの記憶になかった。
さらに言えば、このディッセンドルフに至っては、自分に害をなす人間に対して容赦というものがない、という見識であった。
たとえ公式の記録に乗っていなかったとしても…。
ディッセンドルフは「神の子」なのだから。
手を挙げた者がいた。
しかしそれはディッセンドルフでも、アマガでもなかった。
神経質そうに眼鏡をいじる、席次33位のヤーマン・ヴァネッサというもので、アマガに近い者だった。
「君はヤーマン・ヴァネッサだな。では、説明してもらおう。」
「はい。本来首席はアマガ・サー・バーミリオン君が座るべき席です。これは知能、才能、人格全てにおいて秀でていることからも当然であります。しかし、愚かにもそれに気づかずに本来座るべきアマガ君を蔑ろにしたことを教えましたら、自主的に席を譲ってくれたのです。」
胸を張って答えているヤーマンにディッセンドルフは失笑してしまいそうになった。
本人は大まじめに言っているのだろう。
冗談でも、喜劇を演じているわけでもなく。
そして、それを当然と受け入れている愛すべきアマガ君の悦に入った顔と言ったらなかった。
この後起こることを全く想像していないのが愚かすぎて、微笑ましくさえある。
「よろしい、まず状況は分かったが…。どうすればいいと思うか、バーニング君?」
この教官はえげつないな、とディッセンドルフは思った。
当然この状況なら、プロミネンス教官が激昂し、即座にこの事件の関係者を注意するべきだろう。
そうすることにより、この場で納めることが出来るわけだが。
それを、こともあろうに学生に尋ねるとは。
当のアマガ君をはじめとしたほか3人も、何故教官がそんなことを口にしているのかわからないのだろう。
いままで、侯爵家の看板で我儘を押し通してきたのだろうが、ここは貴族学院ではない。
ほとんどが平民の能力の高い者の集まるところだ。
貴族臭をまき散らして、反感を煽るだけなのに。
だが、3位という事は兄エドガーよりは余程、才能に恵まれたようだ。
「はい、教官。この学校を愚弄するものの、即刻退学に処することがよろしいかと愚考する次第であります。」
この会長は、また過激だな。
この学校で一番厳しい罰を最初に提示するとは、な。
ディッセンドルフはこの会長がこの罰を提示する意味について考え始めた時だった。
「それで、バーニング君は何故そう言う結論に至ったか、説明してもらえるか。」
教官はすぐにその意味を説明させた。
どうやら、面接の試験でもしているらしい。
「今発現したヤーマン学生をはじめ、それにかかわった、バーミリオン学生、ルードヴィッヒ学生はこの学校を愚弄しました。あろうことか、神聖なる入学試験で不正があったとの発言に受け取れました。そのようなことはこの学校には一切あり得ないにもかかわらず。そのような発言をすることも、考える事すら、この学校においては不遜極まる態度です。よって、この学校に席を置く資格が皆無であると判断した次第であります。プロミネンス教官。」
これは…、何と言うか、完全な思想統制だな。
もしこれがこの学校という事なら、よろしい、喜んでやめよう。
ディッセンドルフにはもともとこの学校に対して多くは求めていなかったが、ここまでの洗脳を自分に施す気であれば、一旦ルードヴィッヒ家に戻って、今後のことを検討することにしよう、と清々しいほどの決断を内心していた。
が、隣のアマガ君、並びに眼鏡のヤーマン君一3人組は真っ青になっていた。
今すぐにでもディッセンドルフと席を交代したそうな雰囲気だ。
だが、貴族の矜持なのか、アマガからは唇を噛みしめるようにして、何かに耐えているようだ。
そう言えば、とディッセンドルフは考えた。
この席の交代は、自分から言ったことになっているのか、と。
「相変わらず、君の考えは極端だな。特に「考えもするな」という意見は否定しておくよ。この学校の自主独立の気風を損ねる。まず、自ら考え、行動すること。もし疑問があれば自分が納得するまでしっかりと調べること。これは常日頃、君たち学生に言ってある筈だな。」
「申し訳ありません、プロミネンス教官!先のヤーマン学生の暴言に我を忘れ、失念しておりました。重ねて謝罪いたします。申し訳ありません!」
バーニング会長はそう言い、プロミネンス教官に深々と頭を下げた。
これは、二人の域の合った寸劇とみるべきだろう、とディッセンドルフは結論付けた。
つまり、会長が鞭を、教官が飴を使うという訳だ。
ディッセンドルフは少し面白いな、と思った。
友人を作る気は全くなかったが、今後の流れ次第ではあり、かもしれない。
「さて、今回のこの件に関わったものは立ちなさい。」
プロミネンス教官がしっかりとした低い声でそう命令した。
ヤーマンはそのままで、アマガが立ち上がった。
後ろで27位ののっぽと、53位のチビが立ち上がる。
教官はその者たちを見ながら、ディッセンドルフに視線を固定した。
ディッセンドルフは座ったままであった。
「なるほど、君はこの件に関わっていないというのだね、ディッセンドルフ君。」
声音は優しいが、その眼は厳しくディッセンドルフを見ている。
「私がこの部屋に来て、自分が座る席に彼が既に座り、その周りに彼らが立っていました。私はこの席は自分が座る席でどいてくれるように頼みましたが、彼と彼の取り巻きたちにこの席はアマガ君の座る席だから他の席に座れと言われました。私はその言葉に従っただけです。ここで騒ぎを起こしても誰も得をしないと判断し、従いました。」
「君もこの学校で不正があったと思っているのかね。」
「いいえ。そのようなことが行われるはずはないと思います。ただ、私以外が首席であれば、そう疑ったかもしれません。」
人によってはこの言葉は傲慢な態度と思われることは知っている。
だが、これが事実であることを自分がよく知っている。
それを誇張するわけでなく、淡々とディッセンドルフは語った。
「全く面白い男だな。いまだ、私の周りでは君が「神の子」という【言霊】を受けたかどうかを疑問視するものもいるが、事実のようだ。確かに、君の騎士・魔導士特性は、本校始まって以来の高い数値を記録した。筆記試験も最後の問題以外は満点だ。」
まわりから、「ええ~」という驚きの声が出た。
そう、これは満点近い得点への驚きではなかった。
「最後の問題」が点を取れていないことへの驚きだった。
「全く持って、面白い男だな。解答は確かにされていたが、言語が統一言語でもなければ、ジョパンニュ語でもなかった。その為その問題は零点としなければならなかったが、あれは古代語の類だな、ディッセンドルフ君。」
「まさかあの言語を知っている方がいるとは思いませんでした。教官のおっしゃる通り、古代神言語で書かせていただきました。私にとっての神という事で、言語もそれに相応しいものと思ったので。」
深いため息をつき、プロミネンス教官は呆れた顔をディッセンドルフに見せた。
バーニング会長は笑うのを懸命に堪えている。
どこに笑われる要素があったのか、ディッセンドルフにはわからなかった。
「では、君には責を問うまい。ただしアマガ君と席を交代して正規の席に座りなさい。」
言われた二人は席を交代する。
「今回のこの件の首謀者はアマガ・アル・バーミリリオン君という事でいいかね?」
穏やかに、だが冷徹にアマガにプロミネンス教官が尋ねた。
「はい。他の者は私のためにしてくれたことで、すべて私に罪はあります。が、しかし、教官。」
「なんだね?」
「剣技、騎士特性で彼が1位という事は納得がいきません。」
「剣技については、何の試験もしていない。それは承知しているだろう、アマガ君。」
「はい。ですが騎士特性が高いという事は、剣技が優秀と同義ではないのですか?」
「必ずしも同義ではない。騎士特性に剣の扱いもあるが、戦闘能力はそれだけではないからね。ただし魔導士特性は魔導力の潜在性だから、そのまま魔法そのものだが。」
「ではここで、わたくし、アマガ・アル・バーミリオンはディッセンドルフに剣による決闘を申し込みます。よろしいですね、教官。」
その言葉に、二人のやり取りに興味なさそうにしていたディッセンドルフが、あまり人に見せない驚きの顔を二人に向けた。
いまだかつて正面切って「神の子」に喧嘩を売ってきたものはいなかった。
「ディッセンドルフ君が受けるのであれば、認めよう。どうするかね、首席のディッセンドルフ君。」
こちらの許可を求めているが、この教官は暗に決闘を受けろと言っている。
この学校の首席の実力を示せと。
そして「神の子」の力を明らかな形で表わせと。
「わかりました。この決闘お受けいたします。」
そう答えるしかなかった。
「では、この講義終了後、わが校の純粋剣技場が使えるよう手配しよう。見届け人は、バーニング君、お願いできるかね。」
「喜んで、見届け人、お受けいたします。」
「では、講義終了後に、よろしく頼む。君たちの所為でかなり遅れてしまったな。今回の罰はアマガ君に受けてもらうよ。前期の試験で結果が出るまでの間、講師が来た時の号令は君が出すように!わかったね。」
「謹んでお受けいたします。」
突然決まった決闘という予定に、ディッセンドルフは困惑していた。
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