第4話 入学式
つたないこの作品を見に来ていただき、ありがとうございます。
何とか長くなりすぎないように頑張りますので、よかったら読んでください。
12歳とはいえ、競争率百倍を超えて入学を許されたものは、本人もそして親、親戚にとっても名誉なことに違いない。
既にエリートコースを約束されたものたちなのだから。
入学式は厳かながらも、錚々たるメンバーが顔を揃える。
ジョバンニュ・クリミアン国王:マーベル・レジェ・ルツベル・クリミアンⅢ世、第3王女:ナスターシャ・ウント・ルツベル・クリミアン、ジョバンニュ・クリミアン連合王国首相:ヘンナベルク・アントロング、最高裁判所長官:シダヌル・サー・ミルトウェイなどである。その為、警備も厳重を極めている。
もしこの日、この場所が爆破でもされようものなら、この連合王国は指導者を一瞬のうちに失い、無秩序状態に陥る。
これは近隣諸国からの侵略の危険性が大きくなるのである。
だが、ディッセンドルフにとってはどうでもよいことであった。
既に「神の子」入学の噂でもちきりだったのである。
そこに、アンドリュー・ビューテリウムがいなければ、その素性がバレるにはもう少し後になったに違いない。
彼女はこの世界の一大宗教である「神の言葉]教のこの国の責任者にあたる聖長でもあり、この入学式に出席していたのだ。
2年あればこのころの子供はかなりの成長を見せるものの、見た目で間違うのは難しい。
しかも直接「神の子」の【言霊】の祝福に訪れた彼女である。
例え見た目や名前が変わっていても、その本質たる魂まで見間違えるはずがなかった。
「貴方様は「神の子」ディッセンドルフ様でいらっしゃいますね。」
入学会場である講堂で、壇上から疾走するがごとく、入場したばかりのディッセンドルフの足元に跪き、聖女アンドリュー・ビューテリウムはその美しくはめ込まれた聖衣帽を外し、首を垂れたのだ。
「神の言葉教」。
そのまま、この世界で降りて来る「神の言葉」を崇める宗教団体である。
【祝福】、【運命】、【真の命】等、各国・各地域で様々に呼ばれる概ね生後10年前後で、天の光と共に告げられる「神の言葉」。
この国、ジョバンニュ・クリミアン連合王国においては【言霊】と呼ばれるそのお告げは、絶対的な「神」そのままである。
現実的に魔法が使われており、様々奇跡を見ている人々にとって、「神の言葉」は事実そのものであった。
それ故、その「神の言葉」を崇め奉る宗教「神の言葉教」は、「神」そのものであった。
聖女アンドリュー・ビューテリウムは、ディッセンドルフが【言霊】を受けたときにはまだ州の聖女に過ぎなかったが、2年前のディッセンドルフへの神の口づけと言われる手の甲への祝福のキスをした時より、とてつもない速さで出世し、今ではこの国の「神の言葉教」の代表にまで上り詰めていた。
彼女もまた【言霊】を受けた身である。
「神の巫女」。
それが彼女、アンドリュー・ビューテリウムが賜った【言霊】である。
その直後に「神の言葉教」教会の修道院に入り、25歳の身でこの国の教会の代表にして聖女の称号を持つにいたる。
彼女にとってディッセンドルフはまさに「神」の化身に映っていた。
聖女たる彼女が聖衣帽を脱ぎ、その美しい銀髪の頭を垂れる姿に、入学式に訪れた者は驚き、そして「神の子」ディッセンドルフの顔と名は全校の生徒、教職員、保護者、列席した関係者の知ることとなった。
そして、ビューテリウムのように挨拶を行おうと、ディッセンドルフのもとに集まるものが増えた。
ことが事だけに、入学式の進行を行うこの学校の主席教官、バスク・エリザクト国家騎士団教導部部長は「神の子」に群がる来賓に対しての指導が出来ずにいた。
壇上で立派な騎士団の礼服に勲章を光らせた初老の男性の困った顔に気付いたディッセンドルフは、たぶん自分も同じような顔をしているのだろうなと思った。
「皆様の祝辞は若輩の私には畏れ多いものです。また、私のようなもののために厳かに執り行われるこの入学式を遅滞させるわけにもいきません。申し訳なく思いますが、この場は一度皆様のために設けられたお席に着かれてはもらえませんか?挨拶は後程、お願いいたします。」
ディッセンドルフの申し出に、不承不承、皆自分の席に戻った。
が、先に跪き挨拶を済ませたはずのビューテリウムはディッセンドルフの横から動かずに微笑んでいた。
「ビューテリウム様も、お席にお着きください。」
「いえ、わたくしはディッセンドルフ様のお傍におります。それが、わたくしのあるべき姿ですので。」
「ですが、貴女は教会の代表でもあります。その立場をお忘れなきように。」
「それも十分承知しております。では。」
聖女が片手を挙げると聖女付きの侍女がすぐにその横に駆け付け、その侍女に聖女が耳打ちをする。
侍女は軽く頭を下げると、すぐに学校の関係者のもとに行き、何かを協議しているようだ。
元々ディッセンドルフは首席でこの学校に入学したため、入学宣誓のために席は特別に中央最前列に設えてあったのだが、急遽来賓席側に変更され、その横に教会代表、すなわちビューテリウムの席が設置された。
「神の子」。
その肩書が、この国の上層階級にとっていかに大きいかをディッセンドルフに思い知らせる結果になった。
ビューテリウムにとっての自分は優先順位がかなりの上位にいることははっきりしたが、他の者にとってはルードヴィッヒ伯爵家での怪異の噂によって、神罰を恐れる結果であることは間違いなかった。
入学式は順調に終わったが、先の件もあり、講堂を退室した後の挨拶を求める者たちには辟易してしまった。
しかもその横にビューテリウムは離れずに微笑んでいることから、いまだ12歳にもかかわらず、その仲を怪しむ噂が流れ始めていて、ディッセンドルフは内心、ビューテリウムは聖女ではなく悪女に違いないと本気で考え始めていた。
そう、自分に「神の子」と告げた神が、邪神だと思ったように…。
この人気とはまったく正反対に同期の入学生はディッセンドルフから距離を取っているようであった。
「神の子」とは別に、「触れ得ざる者」という噂もしっかりと貴族だけでなく平民まで行き届いているらしい。
ディッセンドルフとしては、それは非常に喜ばしい限りであった。
さすがに入学式後の各配属教室まではついてこなかったものの、ビューテリウムについて、今後は公式の場以外は接触しないように頼んだのだが、怪しいものだ。
この学校は4年時に騎士専科と魔導士専科に分かれる都合上、1学年に2クラスが設けられている。
初年度は入学選抜試験の席次で決まるようだ。
席次奇数が1-1、偶数が1-2である。
ディッセンドルフは1-1である。
首席のため、奇数組である。
さらにクラス内の席も席次で決定されているので、自分が何番目かがすぐばれるわけだ。
ディッセンドルフは自分の席、入り口からすぐの席に座ろうとした。
既に誰かが座っている。
その周りに3人の男子生徒が立って、何かを話している。
何が起きたのか、ディッセンドルフには理解が出来た。
が、自分に対して、皆距離を置くはずと思っていたのは間違いであったようだ。
さて、どうするか?
一番はすぐに神罰なるものを与えることだろう。
が、初日からそうなってしまっては、各方面に敵を作ってしまう。
出来れば、それは避けたい。
他の者に迷惑がかかるのは本意ではない。
ただし、こいつらが、ディッセンドルフに喧嘩を売っているのは間違いない。
まあ、どうでもいい。
ディッセンドルフには、もともと自尊心というものがなかった。
10歳の【言霊】を受けてからは、基本的に受け身で生きてきた。
自分が関わりを持ってもいいと考える僅かな人に不幸が降りかからない限り、ディッセンドルフは自ら動く気はなかった。
が、さすがにあからさまに悪意を叩きつけられるようなら、排除する必要がある。
降りかかる火の粉は払わなければならない。
「申し訳ないが、そこは私が座る席だ。君たちは自分の席に行ってくれないか。」
ディッセンドルフの柔らかなもの言いは、しかしというか、やはりというか、悪意の笑い声んで迎えられた。
「ここは俺、アマガ・アル・バーミリオンの正当な席だ。小賢しく俺の席を奪おうとしたどこぞの田舎伯爵が座っていい席ではない!」
くだらない。
ディッセンドルフは全く感情を表に出さず、そう思った。
「全く、たかが伯爵位でアマガ様に態度がでかいですね。」
席の前に立っていた12歳にしても背丈の低い男が言う。
「アマガ様の家は侯爵位を賜った名家です。言葉にはくれぐれもご注意を。」
席の右横の眼鏡をかけた男が丁寧にそう言った。
「剣技の天才!アマガ様が、首席でないどころか3位という事はあり得ませんね。」
ご丁寧に自分が座るべき位置を、他人に言わせている。
そう言った左隣の背の高い男は、自然に自分の仕える王の批判を口にしたことを自覚していないようだ。
では隣の席に座らせてもらおう。
そう考え、何も言わずに隣の席に腰かけた。
4人の目がにやにやと笑い、ディッセンドルフを蔑むように見ている。
上の者が下の者を蔑むのは解るが、首席どころか、次席にもならない時点で自分の能力を客観的に見直す必要があることに気付かない。
いかに剣技の天才か知らないが、ただの馬鹿で間抜けな侯爵家子息でしかないという事だ。
ディッセンドルフ自身は学校側の評価などまったく気にしていないのだが、愛すべきボンボン、アマガ・サー・バーミリオン君は、こんなことで学校に逆らったら、評価が下がるということに気付いてもいないようだ。
重厚なパイプオルガンの音色が響く。
どうやらこの音楽が講義の始まる合図のようだった。
この講義室のドアが開き、壮年の目つきの鋭い長身の男性が入ってきた。
この学校の礼服を着ていることから、教官であることは間違いない。
礼服に隠れているが、その下の筋肉の付き方が、実戦向きに鍛えられていることをディッセンドルフは理解した。
「起立!」
教官の入室と同時に、その後ろから現れたこの学校の制服を着た少年が号令をかけた。
講義室に着席した新入生が、一斉に立ち上がる。
「礼!」
全員が頭を下げる。
あのバカ息子は尊大に誰にも頭を下げないかと思って横を見たら、綺麗に頭を下げていた。
権力を盾にする奴は自分より権力を持っている相手には簡単に従属するようだ。
ディッセンドルフはそう結論付けた。
「着席!」
皆が座る。
さすがに倍率の高い学校に入学しただけのことはある。
自分のすべきことを分かってるという事だろう。
あくまで公式の席上では、という条件付きだが。
そして、間違った価値観を持つ奴が、弱者に陰湿な攻撃をする。
義理の兄であったエドガーのように。
「私が、このクラスを受け持つバスター・プロミネンスだ。この学年の主席教官でもある。担当教授科目は剣技の実践指導と、戦術・戦略論である。今回、新入生の支援のために手伝ってくれたこの少年は、6年次生でこの学校の学生議会会長を務める、イザナギ・バーニング君だ。」
紹介された学生が一歩前に出た。
「私は、騎士専科6年、学生議会の代表を務めるイザナギ・バーニングだ。今日、君たちを新入生として向かい入れることが出来て、大変うれしく思っている。この学校の鍛錬は厳しいことで有名ではあるが、是非その鍛錬を自らの力として吸収し、この国に仕えることが出来る立派な人間として成長することを切に望む。以上。」
「相変わらず堅苦しいあいさつだが、バーニング会長の言葉は、私の言葉でもある。諸君の成長を期待する。今回、手伝ってもらったが、講義の開始、および終了時の号令は当分の間、首席の…、うん?」
首席の座るべき席に視線を移したプロミネンス教官の表情が曇った。
そこにいるべき人間が隣の席に座っていたためであることは、この講義室にいる学生の誰もが瞬時に理解した。
「これはどういうことか説明できるものはいるか。」
あえて、全員に対してプロミネンスは尋ねた。
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