第3話 騎士魔導士学校
つたないこの作品を見に来ていただき、ありがとうございます。
何とか長くなりすぎないように頑張りますので、よかったら読んでください。
ディッセンドルフ暗殺未遂事件から1年が過ぎた。
暗殺の首謀者とみられるエドガーが死んでいるため、事件の詳細は完全には解っていない。
が、共犯の執事のネイチャー、医師のオーガニックによって概要は判明している。
エドガーは自分の思うようにならない人間の弱いところを巧みに見つけ出し、そこをついて標的の人物の苦しむ姿、自分に縋ってくるところをさらに追い込むことを至上の喜びとする性格破綻者であった。
にもかかわらず、アレキサンドルは自分の初めての子であるエドガーを寵愛しており、その非行を見て見ぬふりをしていた。
実際に従者たちを痛めつける場面を見たのも一度や二度ではない。それでも、時にはもみ消し、また別の時にはエドガーの被害者を加害者に仕立て上げ、自害させたこともあった。
だが今回はそうはいかなかった。
それは、アレキサンドルの守るべきエドガーは死んだのである。
そして今回死ぬはずだったのは、ディッセンドルフであった。
このルードヴィッヒ伯爵家の第一継承者を暗殺しようとしたのだ。
いくら寵愛するエドガーでもこの重罪の主犯としての責を逃れることは出来なかった。
ネイチャーに対してこの犯罪の責がいかに重いか語ったのは、紛れもないアレキサンドル自身であった。
ではあるが、アレキサンドルの実子という事を考慮されて、エドガーを産んだ母親、つまりアレキサンドルの正妻アリュ-シャ、並びにその子供達はルードヴィヒの姓を剝奪し、アンデルセン市のはずれ、魔物たちが多く住むと言われるエンビの森に重罪人を監禁する「死の塔」への終身刑に減刑された。
本来であれば、アレキサンドルの言った通りの生きたままの火あぶりが規定であることを思えば、かなりの減刑である。
このアレキサンドルの決定にディッセンドルフは一切不服を述べずに、領主の決定を是とした。
エドガーはこれ以外にも多くの殺人、婦女暴行、自殺示唆等、多くの罪が判明し、その被害者にアレキサンドルは多額の慰謝料を支払うという形で、この事件の幕引きをしたのである。
だが、このディッセンドルフ暗殺未遂事件の一番のなぞの解明には至っていない。
何故、ネイチャーは毒を入れる皿を間違えたのか?
そして、オーガニックの処置で一命を取り止めたはずのエドガーが何故死んだのか?
この事実に関してディッセンドルフは正確に答えを言うことが出来る立場にいた。
それは、そのことを行った張本人であったからだ。
ネイチャーが毒を入れる実行犯であることは間違いなかった。
それはアンナの件で明らかである。
ディッセンドルフはネイチャーに自分のマークとエドガーのマークが入れ代わって見えるように他の魔導士にはわからないように魔法を使った。
また、オーガニックの持っていた魔導の掛かったポーションにさらに魔法をかけ、一瞬治癒したのちに、再度さらに強力になった毒が全身を蝕むようにしたのである。
この手法はすでに神の領域であり、一般の魔導士では検知すら不可能だった。
アレキサンドルは、この事件の首謀者が息子のエドガーであることに疑いはもう抱いていなかった。
だが、一連の事件にディッセンドルフが絡んでいることも、確信していた。
でなければ、ネイチャーが毒を入れるスープを間違えるとは思えなかったからだ。
「神の子」としての奇跡は、ディッセンドルフは一切起こしていない。
だが、もし「神の子」に危害を加える者がいたら、神の罰を受けるのではないか?
アレキサンドルは、そう考え始めていた。
もっとも「神の子」の奇跡は、ほんの少し示されていた。
セノビックの孫娘は、ディッセンドルフの神秘的な治療により、アンナは信じられないほどの回復を見せ、アレキサンドルからの多大な慰謝料により、アンデルセン市立の教育学校に通えるようになっていたのだ。
セノビックはディッセンドルフに感謝し、自分にも昔「神のお告げ」があったことを告白した。
それは「正義の目」というものであったが、誰を自分の主君にするかによって、その正義の基本が決まるという。
今回アレキサンドルを主君としたために、完全に「正義の目」が曇ってしまったと後悔していたのだ。
「わたくし、セノビックはディッセンドルフ様にどのようなことが起きたとしても、あなたを唯一の主君として服従いたします。」
セノビックはディッセンドルフにそう宣言し、ディッセンドルフもそれを受け入れた。
12歳になると、貴族の子息はこの市の貴族学院に進学するのが通例であった。
だが、ディッセンドルフはその選択を早々に捨てた。
ディッセンドルフは基本的に運命の流れるまま、生きるつもりであった。
自分がもし殺されるならそれはそれで良しとする、ある意味世捨て人的な考えを持っていた。
なぜなら、あの【言霊】、神のお告げを受けたときに、そのあまりの内容に、10歳のディッセンドルフはその運命とやらのまま生き、出来れば死んでいきたいと思ったのである。
だが、セノビックの哀しみに触れ、人として懸命に生きているものに称賛を、その生を弄ぶものに憎しみを抱いた。
「神の子」のお告げを聞いた日に決めた生き方に変更を加えた。
生き続けられるなら生き続ける選択をしよう、自分の感情を信じてみよう、と思ったのである。
貴族学院はその名の通り、貴族の子息令嬢が通う学校である。
だが、貴族のものだけが通っているわけではない。
その貴族の身の回りの世話をするものも同様に教育を受けることが出来る。
さらに、その貴族が推薦する者、この国の代表者たる議員達の子息令嬢も通うことが出来る。
そうなれば、その学院内に立派な階層主義、カースト制度が出来上がる。
当然そのトップはこの国の王族の血筋のものになる。
仮に、どのようにその知力、性格が劣っていても、誰も異を唱えられない。
ディッセンドルフは伯爵家の子息となる。
ルードヴィッヒ伯爵家はこの国の王族の血筋ではあるが、末端に位置する。
必ずしもこの貴族学院での地位は高くない。
王族だけではなく、公爵家、侯爵家の子息令嬢も多く在籍していた。
既に「神の子」ディッセンドルフのことは、この国の大部分の知ることである。
そして、いくら伯爵家内部での事件であっても、エドガー死亡の真相はその情報の真偽はさておき、噂となって流れている。
ルードヴィッヒ伯爵家の正当な後継者ではあるが、その高貴なる血脈(と信じられている)ではない養子であるディッセンドルフにどのような仕打ちがかかるか、貴族学院にいる限り、その不安は付き纏う。
ディッセンドルフは自らに降りかかるそれら悪意を恐れているわけではない。
この「神の子」に触れたものがどのような末路を辿るのか、という事実が広まるまでにどのくらいの屍を作らねばならないかを思い、うんざりしたのである。
当初、ディッセンドルフはこの運命の流れに乗ることにしていた。
どのみち自分が生きることを選んでしまったのだから、自分以外の死は甘んじて受けねばならないと思った。
だが、その死が、自分が既に愛着を持ってしまった数少ない人々に及ぶことに思い当り、それを極力避ける方法に思考は向けられた。
結果、貴族学院への入学を拒否した。
とはいえ、この領地に四六時中いるのも息が詰まる。
自分の父にあたるアレキサンドルはあの事件から、よりいっそう、自分を恐れ、自分から近づいてくることはなかった。
そして、ディッセンドルフを恐れているのはアレキサンドルだけではなかった。
他の妾の家族たちも恐れている。
解毒用のポーションを与えられたはずのエドガーが何故死んだのか?
ネイチャーが何故毒を入れるスープを間違え、しかもその間違えた相手がエドガーだったのか?
当然のことながら、その真相はディッセンドルフにしか分からない。
だが、「神の子」たる者に害悪を加えればどうなるか?
それよりも、気に入られなければ「神の子」は、「神」はその者にどのような罰を与えるのか?
ディッセンドルフはこのルードヴィッヒ伯爵家の正統な後継者でありながら、この家で「触れ得ざる者」となったのである。
しかしながら、その称号は、ディッセンドルフにとって都合のいいものであった。
セノビックの家の者と、この家に来てすぐにつき従っている、従者と騎士だけでディッセンドルフにとって十分だったからである。
ディッセンドルフは貴族学院への入学を取りやめ、国立の騎士魔導士学校への入学を決めた。
この学校はその名の通り、騎士や魔導士を育成する学校である。
平民のものが多いが、貴族も若干名在籍している。
この学校は貴族学院とは異なり、授業料などの負担が一切ない。
ただし卒業後は一定期間、国の公的な機関での従属が求められている。
それだけに入学選抜の試験は難関を極めている。
募集定員60名に対して、毎年百倍以上の申し込みがある。
しかも求められるのは、知力・体力の優秀さだけではない。
この時点での騎士特性・魔導士特性の見極めもある。
この特性は、18歳くらいまで伸びることが分かっているが、12歳でその特性がなければ、そこから発現するのは難しいとされていた。
これとは反対に、貴族学院には選抜試験はなく、面接試験のみである。
そして、授業料から寄付金迄、かなりの経済的な負担を強いる学校であった。
ディッセンドルフはこの入学選抜試験において、ほぼ満点で通過している。
この減点項目は、倫理学で出された最後の問題である。
問 「神」とは何か。あなたの考えを記しなさい。
以上のような問いに対して、ディッセンドルフはこの国の、いやこの世界で現在使用されていない言語で記入したのである。
通常、この問題は全く答えられなかった受験生に対しての恩情のような問題であり、毎年出題されることでも知られている。
ディッセンドルフの書いた言語は、「神言語」と呼ばれるもので、古代の遺跡にみられる言語形態である。
この世界の言語の母体となった言語でもあるのだが、採点者の中にそのような知識を持ち合わせている人物はいなかった。
もっとも、読める人間がいたら「神」への愚痴が延々と続いてることに辟易するに違いない。
さらに騎士特性、並びに魔導士特性ともに過去最高の潜在能力を示した。
「神の子」としての特性の一端を示す形になった。
こうしてディッセンドルフは騎士魔導士学校に入学した。
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