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「神の子」  作者: 新竹芳
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第2話 夕食会の惨劇

つたないこの作品を見に来ていただき、ありがとうございます。

何とか長くなりすぎないように頑張りますので、よかったら読んでください。

 この日の夕食はいつも通り、ただ広いだけの豪華な食堂で行われた。


 当主、アレキサンドルの右側にディッセンドルフは座っている。

 アレキサンドルの斜め左に正妻、そして子供たち。

 ディッセンドルフの斜め右に第二、第三の妻と子供たちの座る位置となる。


 まずはスープの給仕が始まった。


 異変はすぐに起こった。


 正妻の左に座るエドガーがあまり行儀のいいとは言えない音を立てスープを三口ばかりすすると、急に苦しみだし、椅子から転げ落ちた。

 綺麗に磨かれた床をのたうち回り、口から今食べたばかりのスープだけではなく、明らかに肉だと思われるものをところかまわず、吐き出した。


 驚いた母親である正妻がエドガーの名を叫びながら、抱き起そうとしていた。


 後ろに控えていたメイドたちはどうしていいかわからず、ただうろうろしている。


 当主、アレキサンドルの医者を呼ぶ声に、あわてて専属の医師オーガニック・アレルが駆け付け、症状を診た。


 持っているカバンからポーションとみられる液体を取り出し、暴れるエドガーを執事や騎士が押さえつけて飲ませた。


 一瞬エドガーが落ち着いたように静かになった。


「よかった。この魔導毒の特効薬が聞いて…。」


 アレル医師が呟くのを聞き、アレキサンドルが驚いたように聞いた。


「魔導毒だと。誰かがエドガーに飲ませたというのか!」


「いえ、そういうことでは…。」


 エドガーを抑え込んでいたエドガーの執事ネイチャーが真っ青な顔になった。


 アレキサンドルとその正妻であるアリューシャ、正妻の子供二人は慌てていたが、ほかの者たち、ディッセンドルフを含めた7名は椅子に着いたまま冷ややかにその光景を着ていた。


 皆、エドガー自身が魔導毒を熱心に調べていたことを知っているのである。


「では、お前が私の子供に毒を盛ったということか?」


「わ、私ではありません。エドガー様からの依頼で魔導を用いた毒物と、その解毒剤である魔導を用いて調整された解毒薬を入手しただけです。毒物に関しては、すべてエドガー様に渡してあります。」


 アレキサンドルは体を震わせながらエドガーからの依頼内容と、言い訳を織り交ぜて自己弁護に走る医師を冷ややかに見降ろした。


「エドガーは何のためにそんな毒物をお前に頼んだんだ。知ってることはすべて言え。少しでも疑わしければ、即座にその首をはねてやる。」


「も、申し訳ありません。エドガー様は、ご自分の気に入らないものを病の所為にして、痛めつけてやりたいと申しておりました。わたくしは、一度断ると家族もろともこの国から追放してやると、脅されまして…。」


 最後の言葉はかすれるような声になっていた。


 その横で静かになったエドガーのかすかな息遣いがアレキサンドルに聞こえてきた。


 アレキサンドル自身も、幼少から甘やかした結果が、今のエドガーの誇大な自尊心を作ってしまったことは知っていた。

 そのためセノビックを執事兼教育係として、エドガーにつけていたのだが、セノビックの厳しい教育から逃げ出してしまった。


 エドガーの憎む相手が誰かは、アレキサンドルも想像できた。


 当然ではあるが、継承権第一位の「神の子」ディッセンドルフは憎しみの対象大本命であろう。

 そして、現在そのディッセンドルフの執事長を担っているセノビックもまた、憎んでいたに違いない。


「誰に、その毒物を使ったか、そなたは知っているな。」


 アレキサンドルの強い視線がアレク医師に突き刺さる。

 だが、言葉を出すことが出来ない。


 エドガーが死んでいればまだしも、まだ生きているし、これから回復してくるだろう。

 こんなねじ曲がった心根を持つものを、神は求めはしていないのだから。


 憎まれっ子世に憚る。

 つまり、嫌われ者は神からも嫌われており、なかなか死んで神のもとには行けない。


「もう一度聞く。誰にその毒を使ったのだ!」


 ディッセンドルフはすでに目星がついていた。

 アンナは間違いない。

 そして、マハイル家の第一子のジェーンもまた、その毒牙にかかったのではないか?


「セノビック氏のお孫さんに当たる、ジェーン・マハイルとアンナ・マハイルです。」


 アレキサンドルの両目がカッと見開かれた。


 その話の中の二人のことはセノビックより聞いていた。

 3年前にはやり病で亡くなったというジェーン。

 現在、謎の病気で床に臥せっているアンナ。

 二人とも、自分の息子が殺そうとしているのか?

 でも、何故?


「セノビックをエドガーが恨んでいるのは心当たりがある。だが、何故孫を殺そうとするのか?」


 アレキサンドルの問いかけに、アレク医師は号泣しそうになるのを懸命に耐えて、当主の問いに答えた。


「恐れながら、推測になってしまいますが、私心を述べさせてもらいます。おそらくではありますが、セノビック殿の大切なものを傷つけることにより、セノビック殿の心を壊そうとする嗜虐の喜びではないかと…。」


「お前はエドガーを愚弄するか!」


 そう叱責を浴びせるものの、アレキサンドルはその言葉が真実であろうことは解っていた。


 わが息子、愛するエドガーは人を傷つけ、泣きわめく姿を見て笑うような子供であった。


 叱責し、興奮していたものの、アレキサンドルは自分の感情をうまくコントロールすることに成功し、大きく息を吐いた。


 そして、今突き付けられた真実に、顔を青ざめているディッセンドルフ付きの執事であるセノビックに視線を向けた。


 この家の当主に視線を向けられ何かを言おうとしたが、セノビックには言うべき言葉が見つからなかった。


 ディッセンドルフは、すでに真実を告げることで自分への責任を回避できたと思いこんでいるアレク医師に向かって、声を出した。


「今回、その毒物がエドガー兄さんのスープに入っていたのはなぜか、君は知っているのかい。」


 無邪気なふりをして、ディッセンドルフは尋ねた。


「わ、私は知りません。実際に毒を入れているのは執事のネイチャーです。」


 アレク医師は自分の身の可愛さに、仲間を売った形である。

 そのことには気づいていないようだが。


 名指しされたネイチャーはそのままこの食堂を逃げようとした。


 すぐに控える騎士たちに摑まり、抑え込まれた。

 2,3発顔を殴られたようだ。


 このネイチャーはエドガーと馬が合うことからもわかる通り、自分より下の者に対する態度はすこぶる悪い。

 下級の騎士たちに尊大な態度をとっていた。

 執事の長でもあったセノビックにかなりのきつい指導を受けていたが、自分の行いを直さず、セノビックを恨むようにもなっていた。


 この毒物に関する事件では嬉々として犯行に及んでいたようだ。


「お前が、ジェーンを、アンナを…。」


 セノビックの憎悪に満ちた声がこの食堂内にこだました。


 ディッセンドルフが静かに立ち上がり、セノビックを制する。


「アンナは、もう大丈夫ですよ。セノビック殿。」


 涙を浮かべているセノビックは、ディッセンドルフのその言葉に握りしめた拳をゆっくり開いた。


「で、お前は私のスープに毒を入れたわけだ。」


 食堂の扉近くで取り押さえられてるネイチャーに歩み寄り、ディッセンドルフは上から見下ろしながら言った。

 この言い方がネイチャーにとって屈辱的なことをディッセンドルフは充分理解していた。

 たとえ身長が150㎝しかない11歳の子供だとしても、床にはいつくばっている男よりは高い位置である。


「間違いなく、お前の皿に入れたはずなのに、なんでエドガー様のスープに…。」


 上流階級の者は、様々な会食の機会がある。

 しかし彼らは基本、我儘である。

 その為、招待したものは、来るゲストの嗜好を入念に調べ、給仕する。

 それは、己が家においては絶対である。

 その為、各皿に小さくその本人が気に入っているシンボルが刻まれている。


「私のシンボルがこれだという事は知っているわけだ。」


 ディッセンドルフは自分のフォークの柄に刻まれた目のマークを見せた。

 別にディッセンドルフが気に入っているマークという訳ではない。

 この家に来た時にアレキサンドル・ルードヴィッヒ伯爵が勝手に決めたものだ。


 エドガーのシンボルは羽の生えた馬、ペガサスが描かれている。

 当主の皿は代々土地の豊饒の女神が模されている物を使うことが習わしである。


「私は目が描かれている皿に入れたのに!」


 勝手に自供してくれると助かるな、とディッセンドルフは思った。


「エドガー様こそが次期ルードヴィヒ家を継ぐのにふさわしい方だ。それ以外には考えられない。お前なんか、田舎の百姓がお似合いなんだ!」


「それを否定する気は私にはないよ。別に私が望んだことではない。全て神の思し召しだ。その神が選んだ私を殺そうとしたこと、どういうことか分かっているのだな。ネイチャー、オーガニック、そして、エドガー。」


 ディッセンドルフは静かに、そして凛とした声音で死刑の宣告をした。


「ま、待て、ディッセンドルフ!エドガー様はこの事に関係ない。私の独断で、エドガー様のコレクションを盗み、勝手にやったことだ。」


 ここまで来て、まだ主人を庇う事は褒めてもよいのかな、とディッセンドルフは考えた。

 だが、その話は無理がある。


「ネイチャー、では聞くが、私のシンボルがこの目のマークだという事は誰から聞いた?」


 豊穣の女神のマークがこの家の当主が使うものという事は、この家で働くものであれば知られているが、個々のマークについては、基本として従者の者しか知られてはいない。

 これはこのような暗殺から身を守るためである。

 不定期にそのシンボルは変えられているのだ。

 ただし、家族の者が知っていることは不思議ではない。

 自分の物を間違えられることを嫌うため、似たようなシンボルを作らないように目を光らせている。

 といっても、このように何らかの策略を考えていなければ、他の家族のシンボルは忘れることが普通ではあるのだが…。


 ディッセンドルフはこの家の当主、アレキサンドル・オスマン・フォン・ルードヴィッヒ伯爵を見た。

 苦渋に満ちた顔が微かに頷くのが見えた。


「ふむ。お前が主犯という事であれば、この伯爵家の次期当主暗殺、並びに継承権2位のエドガー暗殺未遂と二重の罪を犯したことになる。お前の死罪は揺るがないが、お前の一族も赤子に至るまで生きたままの火あぶりとなるが、いいのだな。」


 ネイチャーの家系も代々ルードヴィッヒ伯爵家に仕えた家柄である。

 ほぼすべての一族はこの伯爵家の敷地内に居を構えている。

 ディッセンドルフの言った意味が、この馬鹿な男にもやっとわかったようだ。


「それは、それは違う。私は実行犯であって、この計画の首謀者ではない。家族は関係ない。」


 この国にも法律はある。

 裁判所もあり、公正と思われるさばきもあるにはあるが、このような貴族を手にかけるとき、特にその貴族の領地内の反逆行為は、その領主の判断で刑が決まることが多い。

 領主たるその地域の貴族は、王様なのだ。


「先ほどの私の言葉は間違いだ。ディッセンドルフの暗殺を計画した張本人はエドガー様だ!私とオーガニックは命令に従っただけだ。」


 分かっていたことだが、アレキサンドルは、がっくりと肩を落とした。


「そのものと医師のオーガニックを地下牢に連れて行け!」


 伯爵家の騎士団団長スワン・シャープレスがそう言った時だ。


 静かに横たわっていたエドガーがこの世の物とは思えない絶叫を上げた。

 一瞬遅れて大量の血反吐が噴水のようにエドガーの口元から沸き上がった。

 静かになった時、エドガーは自分の血の海の中で絶命していた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

もし、この作品を気に入っていただけましたら、ブックマークをお願いします。作者の書いていこうという気持ちを高めるのに、非常に効果的です。よろしくお願いします。

またいい点、悪い点を感じたところがあれば、是非是非感想をお願いします。

この作品が、少しでも皆様の心に残ることを、切に希望していおります。

よろしければ、次回も呼んでくれると嬉しいです。


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