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「神の子」  作者: 新竹芳
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第1話 ディッセンドルフ

明けましておめでとうございます。

はじめまして、新竹芳と申します。

このなろうというダンジョンの奥深い場所の脇のくぼみ辺りに生息して、自己満足の小説もどきをしたためております。家族にも読んでもらえません(涙)

そんな私ですが、性懲りもなく、また新しい作品に手を付けてしまいました。他にまだ完結していない作品が2つもあるのに…(汗)

少しでも楽しんで頂けると、作者冥利に尽きます。

宜しくお願いします!

今年が本当にいい年でありますように‼

 マルヌク村の、その男の子が10歳の誕生日に、神のお告げがあった。


 これは他の国では【祝福】、またほかの国では【運命】などと呼ばれているようだが、この国では【言霊】と呼ばれていた。


 その【言霊】はこの村だけでなく隣の大きな町、国王の親戚筋に当たるルードヴィッヒ伯爵の領地、アンデルセン市にまで響き渡った。


「この子、ディッセンドルフ・アンダストンは我が、神の子である。」


 神の声は絶対であり、その宣言はこの都市の人に限らず、この国の人にとっては祝福すべき言葉であった。


 ディッセンドルフの両親はその神の声にたいそう喜んだ。


 また、その村の中心である教会の司教もまたその神の声に、アンダストン家に赴き、祝福の言葉をかけ、そのお祝いとして純金でできたネックレスを置いていった。


 その知らせを聞いた、この州の「聖女」と呼ばれる銀髪碧眼の美しい娘、アンドリュー・ビューテリウムは神の口づけをするために、この田舎の村まで豪華な馬車で駆け付けた。


 様々な地区の代表者、政治家、騎士団団長、魔法師団団長などがお祝いに駆けつけ、皆それぞれの言葉でお祝いを述べていった。


 ルードヴィッヒ伯爵は、お祭り騒ぎのようなマルヌク村にお付きの者と訪れたのは、神の啓示があってから1週間を過ぎていた。

 これは、同じ頃に神より重大な言葉をいただいていたからである。


「ルードヴィッヒよ、そなたは、われの代わりにこの「神の子」を18まで育てよ。そして、18の年になったなら、この子を一人で旅立たせよ。」


 その言葉に従い、マルヌク村のアンダストン家にディッセンドルフを迎えに来たのだ。


 この1週間で、両親は今まで見たこともない宝物の数々を手に入れ、神のお告げを述べるルードヴィッヒ伯爵に、多額の金銀と引き換えに実の息子を売ったのである。


 ルードヴィッヒは内心金銭に目がくらむこの親を軽蔑していたものの、この親に「神の子」を全うに育てることなど出来なかったことを確信していたので、微笑とともにその場を後にした。


 ディッセンドルフはディッセンドルフ・フォン・ルードヴィッヒと名前が変わった。


 この時のディッセンドルフはただ優しかった両親の変貌ぶりに、涙を堪えて耐え忍んだ。


 ディッセンドルフはすでに自分の中で大きな力が渦巻いているのを自覚していたが、それを誰にも言うことはできなかった。


 周りはすべて自分を目の敵にしていることを知ってしまったから。


 マルヌク村の人々は基本的に心根の優しい親切な人であった。


 自分を見て皆、笑顔を向け、あいさつされ、ディッセンドルフも拙いながら、あいさつを返すと褒めてくれたような、いい人たちだった。


 神のお告げ、【言霊】が舞い降りた日、ディッセンドルフの世界は暗転した。

 巨大な力が自分の中から湧き上がるのと同時に、周りの大人は、ディッセンドルフに暗い目を向けるようになった。


 妬み、嫉み、羨望、憎しみ…。


 人の負の感情をダイレクトにぶつけられた。

 それは今まで育ててくれた両親でさえも例外ではなかった。


 その日から、様々な人が、このマルヌク村のアンダストン家に来訪し、祝辞を述べ、祝いの物品を献上していった。

 それはルードヴィッヒ伯爵がこの哀れなディッセンドルフを迎えに来るまで続いた。


 これは、周囲の負の感情をさらに高め、それとは逆にディッセンドルフの両親は積みあがっていく宝物に、歓喜の涙を流していた。


 ディッセンドルフは思う。

 「神の子」と【言霊】を贈った存在は、邪神なのだろうと。


 ディッセンドルフはその名字が変わり、豪華なルードヴィッヒ伯爵家の邸宅に一室を与えられ、過ごすことになった。


 その部屋は、自分の生まれた家屋と鶏を飼っていた庭を合わせたものより広かった。


 天蓋付きのベッドは親子3人で寝ていた部屋よりも広いものだった。


 自分は「神の子」である。

 自らがそう思わなくとも、周りはそう信じていたし、その「神の子」に似合う部屋は、この国で一番でなければならなかった。

 ルードヴィッヒ伯爵はそう考えていたようだ。


 ルードヴィッヒ伯爵、フルネームをアレキサンドル・オスマン・フォン・ルードヴィッヒと言い、正妻がアリューシャ、妾にマリアンヌ、ナタリーの二人がいた。それぞれに子供がいてアリューシャに3人、マリアンヌに2人、ナタリーに2人、全部で7人を数える。ここにディッセンドルフが8番目の子供として、養子となった。


 普通の爵位持ちの子供は序列が決まっていて、正妻の子、つまり嫡子の長男が爵位継承1番目になる。

 だが、「神の子」たるディッセンドルフが養子として籍に入った以上、1番目がディッセンドルフとなったのだ。


「別に俺が望んだわけではない。」


 11歳になって、正当に継承権を得た時のディッセンドルフの言葉である。


 とても11歳の子供の言葉だとは思えなかったとは、当時のディッセンドルフの執事長を務めたセノビック・マハイル氏の言葉である。


 正当に継承権1位となったディッセンドルフは、執事を3名、家政婦を5名、身辺護衛の騎士を3名従えていた。


 だが、この時点まで「神の子」たる奇跡を周りに見せることはなかった。


 ルードヴィッヒ伯爵をはじめ、ディッセンドルフのことを疑い始めたのは、たぶんこのころであろう。




 11歳を迎えたディッセンドルフがセノビックとともに、ルードヴィッヒ家の敷地内にある乗馬場で馬を走らせていた。


 ディッセンドルフがあまり子供の様な表情を出さない11歳であったが、セノビックもルードヴィッヒ伯爵家の人々には、決して表情を崩すことはなかった。


 二人で同じ馬、エターナル号に乗り、空を飛ぶ鳥を眺めている時だった。


「鳥も何か悩むことがあるのでしょうか?」


 めったに雑談もしないセノビックが、そう、ポツリと呟いたのをディッセンドルフは聞き逃さなかった。


「どうかしたのか、セノビック殿。」


 いまだ自分の祖父ほどの年齢にあるセノビックをどう呼んでいいか迷うディッセンドルフは、今はこのような呼び方をしている。

 当初は継承など付けず、呼びつけるようにセノビックに懇願されたが、とてもそのようなことは出来なかった。


 他のルードヴィッヒの子供たちは年上の者に対して、平然と敬称を付けない呼び方に慣れているセノビックは、新鮮な驚きに包まれたものだ。


 「神の子」と【言霊】に運命づけられた幼い子は、その態度がいかに大人びて見えても、節度を持って我々従者に接してくれている。

 ここにきて「神の子」として、次期当主になろうお方は、きっと下々より愛されることになると確信するセノビックであった。


 今の、セノビックの悩みは、基本的にマハイル家の問題であった。


 マハイル家の当主たる息子、ミハイロフ・マハイルの12歳になる長女アンナが、ここ数日病床に臥せっている。

 15の年を迎えたときにはこのルードヴィッヒ伯爵家に奉公に来ることが決まっているのだが、今の病気の原因が分からず、ルードヴィヒ家専属の医師も既に治療を諦めた状態であった。


 食事もわずかの粥を飲み込むのが精一杯で、日に日に弱っているのが見た目にもわかり、セノビックは見るに堪えなくなっていた。

 既に息子ミハイロフの1番目の子供、ジェーンは3年前の流行病ですでに鬼籍に入っている。

 ここでアンナを失うことになれば、息子の心が絶望に満たされることは間違いなかった。

 下手をすれば、気がふれてしまうかもしれない。


 セノビックはどうしようもない気持ちが、職務中には表に出さないようにしていたのについ気が緩んだのか、ディッセンドルフと共にいることに喜びを見出してしまったのか、そんな言葉を幼い主人の前で零してしまった。


「いえ、大したことではございません。ディッセンドルフ様。私事の小さな悩みです。」


 セノビックは馬を操り、広大な敷地を疾走させながら、主人に心配をさせてしまったことを、申し訳なく思ってしまっていた。


「私はまだ11歳になったばかりで、何もできない身であることは解っている。それでも、ここにきてから、少なくない時間をセノビック殿とは共にしてきた、いわば家族のようなものだと思っている。この時間はわが父、ルードヴィッヒ伯爵よりも長い時間だ。そんな家族であるセノビックに悩みがあるのであれば、聞くことしかできぬが、話してはくれないか?」


 その言葉はこの年若い子供に、セノビックは不思議な安心感を抱かせた。


 セノビックは馬の速度を落とし、軽く歩くテンポに整える。


「ディッセンドルフ様のお耳汚しになってしまうかもしれませんが、聞いていただけますか。」


「話を聞くことしかできぬが、いいか?」


 エターナル号を降り、まだ馬の前またいでいるセノビックに目線を合わせ、こちらに顔を向ける幼い少年に深く頭を下げた。


 3年前に亡くなった1番目の孫の話をしたのちに、今12になるアンナの病状を語った。


 聞き終わり、暫くディッセンドルフは身じろぎもしなかった。


 数分程度経過した時にディッセンドルフはその力強い漆黒の瞳をセノビックに向けた。


「アンナの臥せている家はここから遠いのか?」


「いえ、ルードヴィッヒ伯爵様の邸宅の敷地内に居を構えさせて頂いておりますので、さほどの距離ではございません。」


 ディッセンドルフの質問の真意が分からぬまま、聞かれたことに答えた。


「では、参ろうか。」


「えっ、まさかアンナに会ってくださるのですか?」


「会わなければ、私に出来ることが分からぬではないか。違うか?」


 さすがにセノビックには返す言葉が出なかった。

 まさかディッセンドルフ様が、私の家族のために何かしようとしていただけるとは…。


「できれば、セノビックの笑顔を一度は見てみたいと思っているのだ。」


 我が主のその言葉は、セノビックには「聖女」アンドリュー・ビューテリウムのいかなる慈愛の言葉よりも己が心を揺さぶったことを感じた。


「では、みすぼらしいところではございますが、ご案内させていただきます。」


「そうであれば、私が【言霊】を受ける前に住んでいたところなぞ、ここでは物置小屋のようなものだ。」


 その言葉にどう対応していいか分からず、セノビックは息子の家を目指し、馬を走らせた。




 息子のミハイロフ・マハイルの家はごく標準的な平屋であった。

 玄関から家の中まで綺麗な石畳が並び、調理場の奥に家族の寝室があった。

 その端のベッドに一人の少女が横になっている。


 上掛けから出ている手足にはもう皮と骨しかないような状態で、まともに歩けるとはディッセンドルフには思えなかった。


 ディッセンドルフを見るその瞳には、もう輝きが失われており、しゃべることもままならないようだった。


「我が主君のディッセンドルフ様が見えられたよ、アンナ。「神の子」を一度拝見されたいと言っていたよね。」


 セノビックの問いかけに微かに口元が動いた。

 もしかしたら微笑んでいるのかもしれない。


「魔導士には見せたことはあるのか、セノビック殿。」


「ルードヴィッヒ伯爵家の専属の医師であらせられるオーガニック・アレル先生は魔導の心得もあるお方です。その方にも原因が分からず、治療ができないと我が息子ミハイロフに告げたと聞いております。」


 すでにディッセンドルフはこの病態の原因と治療法が分かっていた。


 もし本当にその医師が魔導の心得があって、病名が分からないというなら、ただのやぶ医者である。

 だが、分かっていてそう言ったとすると…。


「時に、セノビック殿は、私の執事を務める前は父のルードヴィッヒ伯爵に付き従っていたのか。」


「旦那様の身の回りのお世話をさせて頂いたこともありましたが、ディッセンドルフ様の前ですと、旦那様の嫡男にあたるエドガー様についておりました。」


 ディッセンドルフの前の第一継承者である、正妻アリューシャの第一子、エドガー・フォン・ルードヴィッヒのことである。


 ミハイロフの息子が亡くなったのが3年前のことだとすると、自分とは関係ないところで、セノヴィックは誰かの不興を買った可能性がある。


「セノビック殿は、エドガー兄さんに私に対するような接し方をしたのか?」


 ディッセンドルフのエドガーを兄さんというときの顔は苦渋に満ちていた。


 その表情に少し安心したようにセノビックはディッセンドルフにエドガーに対する接し方を話した。


「ディッセンドルフ様がこちらに来るまではエドガー様が伯爵家を継承する予定でしたので、多少しっかりと仕えさせていただきました。18になる時に成人扱いとなりました。私には教育もその仕事になっておりましたが、成人になって他の者に代わっております。わたくしがディッセンドルフ様に仕える間は、奥様に仕えるメイドの教育を行っておりました。」


「一つ確認したいんだが、エドガー兄さんの性格は今とおんなじ感じだった、と考えて差支えはないのだな。」


「ええ、まあ。端的にいえば、もっと悪かったと言ってもよろしいかと。」


 エドガーは自分がこの伯爵家を継ぐ気でいた。

 その為、この伯爵家に仕える人々を軽んじる傾向があった。

 有体(アリテイ)に言えば自分の所有物だとでも思ったのだろう。

 この伯爵家に従事する人々は雇用されたモノであり、奴隷ではなかった。だが、エドガーにとって、従者は奴隷だと思っていた感さえある。


 確かに、爵位領の多くで奴隷を使っていることは事実である。特に辺境の荒れた土地では、その土地の改良に多大な予算を必要とするため、よく奴隷が使用されていた。

 だが、このルードヴィッヒ領においては、奴隷は存在しない。にもかかわらず、伯爵に仕えるこの地の人々を、エドガーは奴隷扱いしていたのである。


 現在、第一継承権がディッセンドルフに移ったことに反感を覚えていることをディッセンドルフは充分理解している。

 だが、直接自分にその殺意を向けることが出来ないため、その周りに対しての嫌がらせ的な殺意を向けているのだ。

 それがアンナに向いた。


 アンナの症状は、魔導を使った毒物であることにディッセンドルフは気付いていた。

 そして、自分にはそれを治すことが出来ることも解っていた。


 もし、その専属の医師だというオーガニック・アレルなる人物が的確な診断ができるなら、すぐに気づくはずだった。

 これはその医師がエドガーの手先と考えた方がいいわけだ。


 ただ、そうであるとすれば、3年前のアンナの兄の死の説明ができない。


 そこで、セノビック自身に対するエドガーの恨みがないかをさりげなく聞いてみたのだ。


 結果的にはあの横暴なエドガーを次期当主として教育していたとするなら、当然反発を買っていたわけだ。

 どのような手段かは不明だが、セノビックの孫に魔導の毒を摂取させていたと思われる。

 

アンナの様態が悪くなる前に症状を軽減させることは可能だが、下手を打てばもっとひどいことをしてくるに違いない。


「セノビック殿の息子家族は、いつも食事はどのようにしているんだ?」


「この伯爵家に仕える者は、ルードヴィッヒ様の料理人の食事を提供していただいています。それを執事やメイドが各家庭に届けるようになっておりますが…。」


 少し不安そうにセノビックが説明してくれた。


「配達する者はいつも決まっているという事でいいのか?」


「ええ、この家には、エドガー様付きのネイチャーが届けてくださいます。」


 ディッセンドルフは少し考えた後、やはりこれしかないか、と小さくつぶやいた。


「セノビック殿、これから私がアンナ嬢にある施術を行う。ただこれは、公にしてほしくない。セノビック殿もアンナ嬢もそれだけは守って欲しい。いいね。」


 とても11歳の子供には見えない雰囲気で二人に語り、ディッセンドルフは静かにアンナの胸に両手をかざした。


読んでいただいてありがとうございます。

もし、先が気になる、面白いなあと、少しでも感じてもらえたら、ブックマークをよろしくお願いします。

さらにいいなと思えるところがあれば、感想を頂ければ、この上もない幸せです。続きを書くモチベーションにもなります。

20回くらいを目安に続けるつもりですので、今後ともよろしくお願いします!

あ、それと誤字脱字が異常に多いと思います。面倒でなければ報告していただけると、大変助かります。よろしくお願いします!

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