自分と死にたい彼女(死ぬ)
共感できないかも。
「うわっ、びっくりした。」
放課後に、授業の疲れをいやすため、夕日を眺めようとドアを開けると
よくある学校の鉄柵の外がわに一人、女子が立っていた。
「だれ?」
語気を強くして彼女は自分に問う。
「ああ、いや、僕、同じクラスの天塚聡。たしか、田中さんだったよね。」
彼女は、田中希望。美人でクラスの中でもかなり人気な人なはずだ。
「そうだけど、なにか用」
そう言って、自分を睨め付ける。
残念ながら、自分を敵対視しているようだ。
「その、死のうとしてるの?」
「そうだけど。で、もしそうだったら何、関係ないでしょ。」
「えっ?ああ、まあそうだね。」
確かにそうだ。彼女が死ぬことは自分となにも関係がない。
「そっか、そうだな。うん、うん、死んでもいいよ。」
そういうと、彼女は驚きに目を見開く。
「とめないの?」
「まあね。僕は他人の自由をできるだけ奪わない主義なんだ。」
「それに君が死んでも、この学校が一瞬だけ揺れるだけだろうし。」
「だから、あまり頭が良い行動じゃないとは僕は思うけどね。」
そう、ほとんど何も変わらない。彼女に何があったか興味はあるけれど、どうでもいい。
誰にとっても一番大切なのは自分だから。巻き込まれなければそれでいい。
もちろん、出来れば助けたいけどね。
自殺した人と最期に関わってるとなると、めんどくさいことになるから、
転校しなくちゃいけなくなるし。
「・・・」
黙ってしまった。
まあそうだろう。自分だったら、初対面のやつに死んでもいいよ。とか、阿保。なんて遠回しに言われたら、イラついたり、呆れたり、そう良い感情は持たないよなあ。
「それ、止めようとして言ってるの?」
「はぁぁ。何で死のうとしてるか聞いたりしないの?どうでもいい?」
「どうなんだろう。君が死んだら面白いけど、いやだ。死ななかったらつまらないけど、普通で良い。
だから結論としては、どっちでもいい、になるのかな。」
自分たちは他人がいないと生きていけないけど、そんな「他人」は腐るほどいる。
そのうちの一人くらい消えたって、自分の人生にほとんど影響を及ぼさない。
むしろ、未来に「こういうことがあったんだ。」なーんて笑い話にすらできてしまう。
そう考えると他人を理由にして自殺するほど、無駄なことはないのかな。
「まあ、そうだとしても、何で死ぬのか、理由は気になるね。ねえ、なんでしぬの?」
おっと、ちょっと良くない言い方になってしまったかもしれない。
「・・、別に、ただもう疲れたってだけよ。」
ほっ、すこし気になりはしたけどそれよりも自分の境遇を語りたかったみたいだ。
ちょっと安心した。
それもそっか、さっきと同じで誰もが自分が一番大切で自分を知って欲しいんだから。
今から死のうとしている人が、いちいち気にしなさそうだし。
それでも不安要素は消した方がいいから、一応気を付けた方がいいかな。
「へー、そうなんだー。大変なんだね。」
「ッ、ふざけないで!やっぱり、私のことをどうでもいいと思ってるんでしょ!」
「うん、そうだね。その通りだよ。流石だね。」
うーん、なんだか面倒くさい人だなあ。
まあそうでもないと死のうとしないと思うけど。
「あーもう、君と話してると本当にイライラするなぁ。」
ちょっとびっくり。意外だ。
負の感情を表に出さない人だったから。
まあ、当たり前だけどこの人も人間だ、ということなんだろう。
「おーびっくり。そんなことを言うなんてひどい人だね。」
「でも君のことは理解できるよ。そうだよね。イライラするよね。」
「チッ、本当にあなたは何をしたいの?」
「うーん、そう言われるとやっぱりただの暇つぶしに近いかな。僕は君が死なないと思っているから。だから何でも言えるし、言ってるんだよ。」
彼女はどうせ死にやしない。自分も昔、死にたいと思っていた。
そんな時代にある時、胸を包丁で突かれたことがある。
そうすると
恐ろしくて
怖くて
つらくて
泣いてしまった。
その時にはっと気付いた。(ああ、なんだ。自分は本当は死にたいだなんて思ってないんだな)と。
だから彼女は、その時の自分はきっと同じだから、自分は彼女が死なないと思っている。
「っつ、死なないってどういう意味よ。私は本当に死んでやるつもりなんだから!」
激情してるなぁ。
まったく、愚か者だ。
自分に怒ったっていいことなんて何もないのに。
「じゃあ、どうぞ。」
「ああ、死んでやる!」
そう言って彼女は駆けだす。
そして
彼女は
地面へ、
落 ち て い っ た 。
「あーあ。また死んじゃった。勿体ないなあ。せっかくみんなから認められる存在だったのに。」
「何でこうなっちゃうんだろうなあ。結局、全員が最後には自殺しちゃうんだから。」
「また転校しなくてはいけないじゃないか。はぁあ。」
人生は難しいなぁ;: