68 最後の巨獣
もし鬼神というものが実在するとしたら、凶悪な鬼の姿をした怪物なのだろう。全世界の四分の三の巨獣がその力を合わせたとなれば、そういう姿形になると思っていた。
しかし、魔導環が反応したそれは、明らかに異質な姿をしていた。
金色の長い髪をたなびかせ、陽の光を浴びた肌は白く輝いている。水色のローブを身に纏った姿は、女のわたしから見てもかなりの美女だ。
しかし、彼女が普通の人間でないことは、対面した瞬間に肌で感じ取っていた。わたしが圧力を感じる程の力が、彼女の全身から溢れ出ている。
「ねえ、あなた。言葉はわかるの?」
「……ええ。あなたはヒカルさん、でしたよね」
彼女は貼り付いたような笑顔でわたしに答えた。
「わたしの事まで知ってるんだ」
「ヒカリの戦士の称号を授かった、異世界の時渡り。そうですよね?」
わたしはどきりとした。その目は、何もかもを見通すような、魔力を宿していた。
「あなたは、巨獣でいいのよね。この世界を滅ぼす存在だと聞いているんだけど」
「さて、どうかしら」
彼女は不敵に微笑むと、ふわりと上空に舞い上がる。わたしは咄嗟に結界の術法の呪文を唱えた。
『我、祈りを紡ぎて壁となす。招かれざる者を拒まん』
わたしと彼女を中心として、ドーム状の結界を張った。本来なら、結界内を守る術法だが、危険分子を内に閉じ込めることだって可能なはずだ。
「なるほど。では少しだけ、試させてもらいましょうか」
彼女は笑顔を貼り付けたまま、上空から光る槍を無数に降らせ始めた。
「マジすか」
わたしは具現化の術法で超硬度の傘を作り出し、槍を防いだ。
「へえ、面白い。これならどうかしら」
彼女が指揮者のように手を振ると、四方八方から触手のようなものが伸びてくる。
「そういうのはお断りするよっ」
わたしは右腕に宿した風を刃に変えて、体の周りをぐるりと薙いだ。襲い掛かる触手を細切れにすると、彼女に向けて指を差す。
『天地神明に我は乞う
星に仇なす厄災を挫き払え』
美女相手に放つような術法でもないが、目には目をだ。
『地導焔撃』
地より湧き出た黒炎が矢の形となって、彼女を襲う。今までの巨獣ならば、これだけで消し炭となるはず。
『ディレイ・エフェクト』
彼女の周囲に現れた光のフィールドに矢が飲み込まれ、動きを止めた。厳密には止まっていないのだが、矢の速度がとてつもなく遅くなっているのだ。
彼女は悠々と矢から逃れると、パチンと指を鳴らす。再び動き出した矢が、何もない空間を通り抜け、結界に当たって次々と弾けた。
流石にラスボス。一筋縄ではいかないようだ。というか、ここまで戦ってきた巨獣が弱すぎただけなのかも知れないが。
「お見事です。十分わかりましたよ」
彼女は手を叩きながら、ゆっくり降りてきた。
「わかったって、何がよ」
「あなたが鬼神と呼ばれるに相応しいということです」
「喧嘩売ってんの」
「いえいえ、褒めているんですよ」
彼女はわたしの前まで来ると、その身に纏っていた術法の力を解いた。
「ヒカルさん。実はお願いがあるんです」




