65 世界防衛作戦②
「シルファ、こちらは片付いたよ」
魔導環で作戦本部に連絡を入れると、すぐにマップが表示された。
『ご苦労さまです。そのまま、西に三十キロほど先の山岳地帯に向かってください』
「了解。他のメンバーは大丈夫そう?」
『今、うちのスフィラが一体ぶっ飛ばしたところです。いよいよ、ここからが本番ですよ』
「わかってるよ」
巨獣をただ倒すだけなら、今の我々には造作もないこと。問題は、ヤツらに再生する時間を与えず、連続して倒していかなければならないことだ。
「二人とも、わたしに掴まって。術法で一気に飛ぶよ」
「大丈夫ですか? フェルさんに乗ったときみたいなことになりませんかね」
アラネスは及び腰になっている。
「大丈夫だよ。一瞬だから」
フェルと言えば、あの子もこっちに呼びたかったのだが、巨獣に分類される存在。万が一を考えて断念した。
この世界の歴史が変われば、あの子も生まれないのかも知れない。それだけは心残りだ。
『彼の者、真なる姿は小さき者。現し世に顕せるは真実のみ』
わたしは縮小の術法の呪文を唱え、アラネスたちの体を小さくした。これなら持ち運びも簡単だ。
二人に入ってもらおうとバッグを開けてぎょっとした。中から大量の髪の毛が出て来たからだ。こっちのバッグにはエレノアさんの髪の毛を入れているのを忘れていた。
「フカフカですよ。上質の絨毯のようで、案外気持ちいいです」
「エレノアさんはいつも髪の手入れを怠らない方ですものね」
二人は中に入って喜んでいる。本人たちがいいならそれで問題ないが。
「じゃあ、行くよ娘たち」
わたしは自分より年上の娘たちを落とさないようにバッグを支え、術法で目的地へと飛んだ。
吹けば飛ぶような、という表現がある。風が吹いただけで飛ばされてしまうようなか弱さを表現した言葉だ。
今、わたしたちの目の前に立ちふさがっているのは、どこかの映画で見たようなゴリラの巨獣だ。山の岩肌を殴って破壊し、巨大な岩を軽々と持ち上げてみせる。
リカに戦闘用の力の封印を解いてもらったわたしには、こんな屈強そうな巨獣でさえも、吹けば飛ぶような存在なのだ。強くなったのはいいのだが、改めて自分の鬼神っぷりにひいてしまう。
「二人とも、わたしに掴まってて」
アラネスたちに指示し、ゴリラに向かって破壊の意志を込めて息を吐く。術法の力が加わった巨大な竜巻が、周囲の木々も巻き込んで巨獣を包み込む。巨獣の体を構成していた力は、竜巻の中で分解され四散する。
二十個の幻魔石の力で極限まで高まったわたしの感覚は、思考能力にも影響を与えていた。わたしは、少し意識するだけで、離れた場所で戦っているシェリルたちの様子を把握出来ることに気づいた。意思伝達の術法の応用だ。
わたしは自分でも巨獣を撃破しながら、同時に他のメンバーにも意識を向けていた。
にじり寄ってくるワニの巨獣の姿が見える。相対しているのは、エレノアだ。彼女の意識と同調し、彼女が見ているものを知覚しているのだ。
『エレノアさん、お邪魔するよ』
「その声は、戦士様? どちらにいらっしゃるのです?」
エレノアに意識下で話しかけると、きちんと会話が成立した。簡易的な召喚状態と呼べばいいだろうか。
『わたしも絶賛戦闘中なんだけどね。みんなの様子を確認してるところだよ』
「ご心配には及びませんよ。わたしは世界中を旅していたので、こういうのは慣れていますから」
そう言うと、エレノアはワニに向かって構えをとった。
「おい、ワニ公!」
突然、彼女が叫んだ。普段のおしとやかな雰囲気とのギャップに面食らってしまう。
「今から諸事情によりぶっ飛ばさせてもらうが、悪く思うなよ」
彼女はドスの効いた声でそう言うと、素早い動きでワニに接近した。
「おりゃあ!」
エレノアは尻尾を掴んでジャイアントスイングをかけた。背中から岩に叩きつけられてのたうち回っている巨獣に、さらに拳の連打を浴びせかける。
「ぶっ飛びな!」
エレノアはワニの顎を蹴り上げた。巨獣の巨体が上空へと舞い上がる。
『大地に乞う。邪悪なる意志を滅す力を』
呪文を唱えると同時に、エレノアは上空のワニに向けて手を広げた。極太のビームみたいなものが放たれ、巨獣を消し飛ばしてしまった。もはやバトルものの主人公だ、この人。
「……えへ♡」
『いやいや、今さらかわい子ぶっても』
わたしが若干引いているのを察したらしいが、色々手遅れだ。




