64 世界防衛作戦①
ミレイには申し訳ないが、しばらくの間は女神の入れ物としてそのままでいてもらう。体に危害を加えられないように、アヤカさんが術法で体の自由を制限した。
シルファは、ナクリアの保安委員会の一室に、巨獣殲滅作戦用の司令室を作り上げた。フルーナの協力の元、全世界の巨獣の位置を把握出来るシステムも構築済みだ。
フルーナはかなり優秀で、シルファの教えをすぐに理解したようだ。リーネもわたしの側で前線に出ると宣言したので、フルーナにシルファの助手をお願いする。
全世界に存在する巨獣の数は全部で七十五体。アラネスとリーネは戦力として数えないとしても、一人あたり七体と少し。思ったより少なかった。
とは言え、十分以内に二体以上を倒すという縛りがあるので、そう簡単にはいかない。巨獣の再生は、付近に他の個体が一体でも残っていると発生する。これはレシュタノットの殲滅作戦の時に実証済みだ。つまり、大陸単位に殲滅していくのが最も効率的な方法だ。
「巨獣の分布を考えると、五月雨式に倒していくのが最も効率的なようです」
シルファの作戦はこうだ。
まず現時点での巨獣の分布に従って、均等に人員を配置する。後は五分間隔で順に倒していき、倒した者からすぐに次の巨獣の討伐に向かう。
次に、人員の配置。
わたしはマイに加えて、アラネスとリーネも一緒に行動する。シェリルはアリーとのペア、アヤカさん、ラフィス、スフィラの三名は単独でも大丈夫だろう。残るは二人。
「呼んでおいてなんだけど、カスミは戦えるの?」
「ご心配には及びませんわ。この姿でも全ての兵器を使用可能なのですわ」
そう言って、カスミは腕のパーツを外してみせた。戦えるのなら有り難いが、召喚体とは。
「エレノアさんは?」
「あの子なら大丈夫です。一族でも随一の武道の達人ですので」
「そこは召喚術じゃないのね」
アラネスが代わりに答えると、エレノアはなぜか頬を赤らめた。
ということで、若干バランスが悪い七組の戦士たちによる、世界を救う作戦が始まったのだ。
「あの、戦士様。今回はわたしもお役に立てるかと」
わたしの隣で、アラネスが自信有りげに胸を張った。
「え、アラネスなのに?」
「なんです、その疑いの眼は」
わたしの脳裏に、これまでのアラネスの数々の失態が浮かぶ。彼女はわたしの中ではドジっ子に分類されている。それも結構、はた迷惑なやつ。むしろ、身体を持ったことで、よりその傾向が現れないか心配なくらいだ。
「もうっ、わたしはこれでも召喚術師の長なんですからねっ」
腕をバタバタさせて抗議する様が、子供のようですらある。
「そこまで言うなら、証拠を見せてもらいましょうか」
わたしたちの目の前では、既にザリガニ型の巨獣がハサミを振り上げていた。
「お任せくださいっ」
アラネスは巨獣の前に立ちはだかって、両手を合わせた。
この子が巨獣と戦闘するとは。リーネならまだしも、この子で大丈夫か。わたしは出来の悪い子を持つ親の心境になっていた。
『此の地に眠る古の精霊よ。力を解き放ち、眼前の敵を滅せよ』
アラネスが精霊召喚の呪文を唱えた。そう言えば、自分でも身体があれば使える風な事を言っていた。
呪文に反応して、アラネスの足元に、小さな双葉がにょきっと生えた。少しずつ地面が盛り上がり、土を破って精霊が姿を表す。
「……ちっさ」
思わずつぶやいた。頭に双葉の生えた、白く丸っこい姿。頭でっかちの雪だるまと表現すればいいだろうか。サイズは子猫にも満たない。
「精霊召喚はハズレがあるってシェリルが言ってたもんね」
シェリルは当たりを引き続けていたのに、流石はアラネス。
「なんですか、ハズレが決まったみたいな言い方は」
「いや、どう見ても弱そうだよ。どっちかというとゆるキャラ枠だよ」
「ゆるキャラ?」
アラネスが首を傾げる。久しぶりだな、このやりとり。などと余裕をかましているわけにはいかない。作戦は既に始まっているのだ。
「さあ、精霊よ。今こそ力を解き放つのです」
「ぴきゅ」
可愛らしい鳴き声を上げて、精霊がザリガニ目掛けて突っ込んでいく。迎え撃つザリガニは、ハサミを精霊の頭めがけて振り下ろした。
ガチンと派手な金属音がして、わたしは思わず耳を押さえた。巨大なハサミにやられたのかと思った精霊は、微動だにせずに地面に立っている。その代わりに、ザリガニのハサミが粉々に砕け散っていた。
とんでもない強度に驚いていると、精霊はザリガニに向かって頭を傾けた。頭部の双葉が激しく回転を始める。
「ぴきゅっ」
精霊が一声泣いたかと思うと、ミサイルのようにその身体ごと体当たりし、ザリガニを貫いた。
たちまち青い炎を上げ、ザリガニの巨獣は灰となって燃え尽きてしまった。
「あらら、こんなにお強いなんて」
何故か呼び出したアラネスが驚いている。
「見た目で判断するなという良い例だね」
「ぴきゅ」
精霊は挨拶するかのように泣くと、そのまま地面の下へと消えてしまった。




