63 決断
面談の締めくくり、十人目と十一人目はアラネスとリーネだ。
二人に女神の正体に関する話はしていたが、歴史が変わることの意味はまだ伝えていなかった。
「つまり、この世界を救えば、わたしたちの知る歴史も大きく変わるということですね」
アラネスは神妙な顔をしてわたしを見つめた。
「そういうことになるね。そして、もしあなたたちの先祖にあたる誰かが、アラネスに繋がる血を残さなかったら。その時点であなたたちの存在が無かったことになる」
二人はお互いに顔を見合わせ、やがて不思議そうに首を傾げた。
「それが何か問題なのですか?」
わたしは一瞬、聞き間違えたのかと思ったが、アラネスは至って真面目に言ったようだ。
「問題って、存在が無くなるんだよ? ある意味、死ぬのより辛いかも知れない……」
わたしはもうひとつ忘れていた。召喚術師は死を特別なものとは考えない。魂は常に普遍なものとし、生に対して固執していないのだ。歴史が変わって生まれてこなかったとしても、大きな魂の一部として存在している。恐らくそういう考え方だ。
「じゃあ、二人は自分たちが生まれてこなくても構わないと言うんだね?」
「ひとつ、よろしいですか」
わたしが質問すると、リーネが手を挙げた。
「戦士様が先程から気にされているのは、肉体的な〝個〟の事だと思うのですが」
「そうだよ。わたしはアラネスやリーネという人間の話をしているの」
「召喚術師は、この世界を一族全体で護ることが存在意義なのです。ですから、個人がどうとか、そういう部分にはあまり関心がありません」
「……うん、知ってるよ」
思った通りだった。この子たちは自分たちそのものに価値を見出していない。
「わたしは戦士様や皆さんと旅をして、色々な事を学びました。今、戦士様のお顔を見て、わたしは正直戸惑っているのです」
「わたしの、顔?」
反射的に自分の頬を触る。
「いつも楽しそうにわたしたちを引っ張って来られたのに、今日はとても寂しそうなお顔です。それが別れの寂しさなのですよね」
顔に出ていても当然だろう。実際、この二人と会えなくなる事を想像したら、身を切るぐらいに寂しいし、辛い。
「わたしも、少しその気持ちがわかるようになったのです。自分が生きた証や、出会った人たちとの繋がりを無くしたくない。出来ることなら、ずっとこのままでいたいという気持ちですよね」
「リーネ、まさかあなたは、この星が壊れてもいいと言うの?」
アラネスが少し厳しい顔をして、リーネに聞いた。
「違います。この選択に対しての答えは初めから決まっています。ですが、全てが終わった後、何もなかったように消えてしまうのは、少し寂しいと」
そこでリーネの大きな目から涙がこぼれた。
「その気持ちは少しも間違ってないよ。それが、あなたやアラネスがこの世界に生きているって事だもの。寂しくないわけないじゃない」
リーネがわたしに抱きついてきた。この子にしては珍しい事だ。一方のアラネスも、そんなリーネを見ながら、悲しげな顔をしている。
「アラネスはどう? わたしと旅をした記憶、無くしてもいいと思う?」
「……戦士様、意地悪です」
そう言うと、アラネスは背中を向けてしまった。彼女もまた、泣いているのだろう。
「皆さんの意見をまとめた結果、全員一致で世界を救う作戦を決行します」
わたしは十一人の仲間たちの前で宣言した。
「たった十人足らずで何が出来ると言うんだ」
背後で女神が悪態をつくが、明らかに動揺しているのがわかる。
「召喚術師四名、召喚体二名、術師三名、マッドサイエンティスト一名、人工生命体一名、鬼神兼戦士兼賢者一名の我がパーティに、何か不足でも?」
「……フン」
女神は苦虫を噛み潰したような顔をして、目を逸らした。
「戦士さん、わたしの二つ名だけ、ちょっと悪意が混じってません?」
シルファがニヤニヤしながら言う。
「いいじゃない、ドスが利いてて。指揮はあなたに任せたからね」
「了解です」
わたしは彼女とハイタッチした。




