58 超古代にて
わたしが未来から来たと聞いても、フルーナはさして驚いた様子はなかった。むしろ、魔導環の方に興味津々で、リカの腕ごと掴んで鼻息荒く観察していた。
「どう? フルーナ。あなたが開発しているものに近いと思うのだけど」
「これはものすごい技術です。しばらくお借りしたいのですが」
と、フルーナは上目遣いでこちらを見てくる。
『いいけど、壊さないでよ』
わたしはマッドな科学者しか知らないので、見境なしに分解されそうで怖い。
「もちろん。是非お話も伺いたいです」
「わたしからも聞きたいことがたくさんあります。しばらく協力していただけますか」
フルーナとレティカに詰め寄られる。特に拒む理由はないが、これって未来に影響が出たりするのだろうか。
「幻魔石二十個分の力……ですか」
わたしは応接室に通され、この時代に飛ばされるまでの事情をレティカに説明した。彼女はまだわたしを怖がっている様子で、部屋の端っこで距離を取っている。
「それは、人間なのですか」
『失礼だな』
「未だかつて、それほどの力を受け入れたという話は聞いたことがありません」
『そんなこと言われてもね。間違いないよね、リカちゃん』
「うむ。鬼神そのものだな」
『そっちを肯定するんかい』
確かに、息ひとつで巨獣を消し飛ばす力は、我ながら怖くはある。少し間違えただけで街ごと破壊しかねない。
「あなたのその力、我々に危険はありませんか」
やはりレティカも心配しているらしく、怯えながらも警戒の視線をこちらに向けてくる。
「心配は無用だ。戦闘時のみに力を開放するように術法で封印をかけた」
しれっとリカがそう答えた。
「あなたがそう言うのなら、ひとまず安心ですね」
レティカは本当に安心した様子で、わたしの横の椅子に座り直した。リカは随分と信頼されているらしい。
「リカさん。こちらに来た理由をお聞かせ頂きましょうか」
「うむ、そのことなのだが」
リカは言い淀むと、腕を組んだ。そもそもこの子に説明なんか出来るのだろうか。
「実は、〝カクカクシカジカ〟だ」
「……え?」
レティカがキョトンとしてこちらを見つめる。
紛らわしいが、これは文字通り〝カクカクシカジカ〟と言っている。この子の場合、どこまで本気なのかわからない。どう突っ込むか迷っていると、レティカが深刻な顔をして口を開いた。
「いくらあなたの言葉でも、流石ににわかには信じられません」
「事実だ」
突然、謎の会話が始まっている。
『……もしかして、今ので伝わったの?』
「今作った、わたしのオリジナルの伝達の術法だ」
さっきの〝カクカクシカジカ〟は呪文だったか。リカ用の術法としては最適な気はするが。術法を即席で作ってしまうあたり、賢者様も化け物じみているな。
「リカさん。その話、長には秘密にして頂けますか」
「そうだな」
長とは、やはりアラネスのような召喚術師をまとめる立場の者の事だろう。
『この時代の長って、あなたのお母さんなのよね』
わたしが聞くと、レティカはうなずいた。
「ええ。今ちょうど、女神様の神託を受けられるために最上階にいらっしゃいます」
『最上階ってここの? 召喚術師の街じゃないんだ』
「エルシエルとはなんですか?」
数万年前にはまだあの街はないのか。ナクリアの変わりっぷりを考えれば不思議ではないが。
「神託か、丁度いい。乗り込むとしよう。あわよくば、ここで決着をつけてくれる」
リカが天井を見上げてつぶやいた。
「ちょっと待って。秘密にしてくれるって言ったじゃない」
レティカが慌てて詰め寄ってくる。
「案ずるな。長にはバレないようにやる」
「そうだとしても、神託の儀式を邪魔するのは……」
そこまで言って、レティカはこちらをおびえたような目で見た。
「これは、世界にとって大きな意味を持つのだ。召喚術師の掟がどうとか、そんなことは関係ない」
リカは凄んだ声でそう言った。いつになく真剣なリカを見るに、これは、例の調べ物の核心に迫ることなのだろう。
「いいか? 君が邪魔しようと、わたしは行くぞ」
「わたしも……行きます」
リカはレティカの手を取ると、呪文を唱えた。
『我、今よりすべての光の関知を拒む』
目の前にいるレティカの身体が消えていく。どうやら、リカの体も含めて、術法で姿を消したらしい。
『紡がれし記憶の糸、我らが身を彼方へ導かん』
周りの景色が縦に流れる。転送の術法だ。
たどり着いたのは、見覚えのある部屋だった。正面に祭壇、左右の壁に振り子時計が掛かっている。アラネスの記憶で見た、儀式の間そのものだ。
「戦士殿。場合によっては力をお借りしたく。よろしいか」
『それは構わないけど、何をしようって言うの?』
「女神を捕らえる」
『……マジ?』
なんだこの急なシリアスな展開は。わたしだけ二人と温度差がある気がするのは気のせいか。




