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ヒカリの戦士と召喚術師  作者: 神楽一斗


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57 過去と未来と

「あなたは一体何者ですかっ」

 めちゃくちゃ離れた木陰からこちらをうかがいながら、レティカが叫んだ。

「さっきも言ったけど」

 わたしは地面を軽く蹴って、レティカの背後を取った。

「ひっ」

「わたしは保安官のヒカルです。ただし、保安官と言っても遠い未来のね」

「未来の? どういうこと?」

「幻魔石の力をこの身に注がれ過ぎてね。副作用的な感じで時空を超えたんだけど」

「……確かに、あなたからとてつもない力を感じます。でも、そんな事が可能なの」

 レティカは驚いた顔をして、わたしを凝視してくる。すると、頭の中でリカがつぶやいた。

『……戦士殿、少し代わってもらえるか』

『表に出てくるの? いいけど、リカちゃん、説明とか出来る?』

 この子を戦闘以外で表に出して大丈夫だろうか。若干の不安を感じつつ、わたしはリカに身体を預けた。

 一瞬だけ視界が暗転し、操作権がリカに切り替わる。


「レティカ、久しぶり。わたしだ。リカだ」

「……リカさん?」

 リカの言葉を聞いて、レティカの表情が変わる。

『もしかして、知り合いなの?』

『一時期、レティカに召喚されていたのだ』

 何それ、初耳なんですけど。


「今更帰ってきて、何の用ですか。わたし、ずっと待っていたのに」

「……すまん、どうしても行かなければならなかったのだ」


 なんか昼ドラが始まった。


「あなたがいなくなってから、わたしがどれだけ辛かったか」

「許せ、レティカ。だが、もう心配はいらない」

『お取り込み中のところ、申し訳ないんだけど、お二人はどういう関係なの?』

 今にも抱き合いそうな雰囲気なので、わたしはたまらず割って入った。

『先程言った通り、わたしはレティカに召喚されていただけだが』

 リカと話していると、レティカがリカ(わたし)の眼前に迫ってきた。

「聞いているの? もしかして、あのヒカルとかいう人と話しているのね? わたしというものがありながら、どこの馬の骨ともわからない人を召喚するなんて」

 レティカの目がすわっている。アラネスも似たような事を言っていたが、この人のはそれ以上に重たい。

『ちょっと、リカちゃん。ややこしくなる前に説明してよ』

「……戦士殿は馬の骨ではない」

 リカはそれだけ言うと腕を組んだ。レティカがきょとんとしてこちらを見ている。

『……いやいや、間違いじゃないけども』

 リカに期待したのが間違いだったようだ。わたしは意思疎通の術法で、会話に加わることにした。


「それでは、本当に未来からここへ来たと言うんですか」

 改めて事情を説明すると、レティカは大きな目を丸くして驚いた。

『わたしもまだ半信半疑だけどね』

「……あなたが腕に着けているこの装置、保安官の装備なのですよね」

 レティカは先程から魔導環が気になる様子だ。

『巨獣の位置を把握したり、転送機能とか地図も表示出来る優れものだよ』

 わたしが作ったわけではないが、なんとなく威張ってしまった。

「今、これに近いものを開発中なのです。よければ、事務局までご足労いただけますか? 参考にさせていただきたいので」


 レティカに案内され、わたしたちは高層ビル前に立っていた。

『リカちゃん、ちょっと見上げてみてよ』

 リカに上を見るようにお願いする。建物の最上階が見えない。とんでもない高さだ。

『ねえ、ここが保安委員会の事務局なの? 随分と大きい建物だけど』

「そうです。ナクリアは全ての保安委員会を統括していますから、規模が大きくなるのは当然です」

『ん? 今、ナクリアって言った?』

「それが何か?」

 わたしがいた時代のナクリアは、お世辞にも大きいとは呼べない、田舎町だった。数万年の間にこの大都市に何があったというのだろう。


 どこぞのオフィスビルを思わせる建物の中を進み、エレベーターに乗り込む。改めて、これがアラネスたちの世界の過去かと疑いたくなる。


「こちらです」


 レティカに案内されたのは、コンピュータや機材が雑多に並ぶ部屋だった。白衣を着た研究員たちが画面をにらみ、キーボードを叩いている。嫌でも地球(あちら)での仕事を思い出してしまう。


 レティカは研究員の内のひとりに声をかけ、リカ(わたし)の前に連れてきた。

「ここの開発室の責任者、フルーナです」


 フルーナと呼ばれた彼女は、オドオドしながら頭を下げた。

 長い金髪を後ろで纏め、銀縁のメガネを掛けた、かなりの美人さん。なのだが、眉をハの字にして、いかにも気が弱そうな雰囲気を醸し出している。


「は、はじめまして。わたしはここの開発室の統括を仰せつかっています、フルーナと申します。このたびは、遠いところをわざわざお越しいただいて、誠に恐縮至極でございます」

「……うむ」


 フルーナのやたら長ったらしい挨拶を、リカは二文字で片付けた。


『ちょっと、リカちゃん。名前ぐらい名乗ろうよ』

「……リカだ」


 促しても一文字しか増えない始末。この子に任せると、会話になりそうにない。仕方がないので、わたしがフォローに入る。


『わたしは今、術法であなたの頭の中に直接語りかけています』


 このセリフ、ちょっと言ってみたかったやつ。わたしが意思疎通の術法で答えると、フルーナは頭を押さえて怯えだした。


『ええと、怖がらなくて大丈夫。訳あって、未来の世界からきた、ヒカルと言うものです。今、あなたの目の前にいるリカちゃんの中に召喚されている者です』


 フルーナはようやく落ち着いたようで、今度はこちらをじっと見つめてきた。

「……レティカさんにそっくり」


 挨拶しておきながら、フルーナはろくにこちらの顔も見ていなかったようだ。

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