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ヒカリの戦士と召喚術師  作者: 神楽一斗


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55 良性

「女神様ぁ、僕は悲しいです」

「……なんだい、シェリル」

 すっかり酔っ払ったシェリルが、わたしに絡んできた。

「聞けば、女神様は巨獣を一体も倒していないって言うじゃないですかぁ」

「みんな出来る子達だから、わたしの出番が無かったんだよ」

「またまたぁ、女神様ったらいっつも僕に押し付けてくるでしょ。もっと真面目にやらなきゃ駄目ですよ。保安官なんですから」

 シェリルはとろんとした目でわたしを見つめる。この子、酔うとこんな感じなのか。

『戦士様はわたしに意地悪して、ヘビを出しただけですものね』

『あれは必要な手順だったでしょうが』

 アラネスまで絡んできた。術法でヘビを出させたことをまだ根に持っているらしい。

「まあ、僕としては女神様のお役に立てれば、それでいいんですけど……」

 妙に殊勝なことを言ったかと思うと、シェリルはそのままわたしの膝枕で眠ってしまった。幼い見た目だが、この子、タメだったよな。

 確かに、シェリルの言う通り、あまり働いていない点はちょっとだけ反省しよう。もう少し頑張ろうかとも思うが、ついさっき、この大陸には巨獣がいなくなった訳で。

 ふと、部屋の隅でゴロゴロと喉を鳴らして肉を食べるフェルを見て、嫌な予感がした。忘れていたが、あの子も巨獣の一種なのだ。


「シルファ、ちょっと聞きたいんだけど」

「……フェル(あのこ)の事ですよね」

 わたしはシルファの隣に座って、声を落とした。魔導環にも反応するということは、巨獣とも反応があっても不思議ではない。

「フェルは気のいいやつで、悪い巨獣じゃないんだよ」

「ご心配なく。あの子は、分類としてはマイさんたちと同類です」

「じゃあ、巨獣を生み出す心配はないんだね?」

 シルファがうなずくのを見て、わたしは胸を撫で下ろした。フェルまで退治するなんて話にならなくてよかった。

「戦士さんもなんとなくおわかりでしょうが、巨獣には〝良性〟と〝悪性〟があります。端的に言えば、人類に被害をもたらすかどうかという分類です」

 襲ってくる巨獣は、みんな目が赤く光っている。一方のフェルは、大きさ以外は普通の三毛猫そのものだ。

「討伐対象の巨獣の力が〝悪性〟。フェル(あのこ)たち〝良性〟の巨獣が持つエネルギーは、わたしたちが利用している魔導環と同質のものです。そして、幻魔石は、そのどちらにもなり得る存在」

「幻魔石と言えば、さっき倒した巨獣の分はどうしたの? あまり一箇所に集めると良くないんでしょ」

「その件で、戦士さんにご協力頂きたい事があります」

 いつの間にかリカも隣に来ていて、二人揃って何やら真剣な顔をしていた。


「幻魔石の力を良性のエネルギーとして手っ取り早く抽出する方法は、召喚術が最適なんです」

「それはわかるよ」

「そこで、無尽蔵に力を受け入れられるという、戦士さんの出番な訳です」

「つまり、わたしに幻魔石の力を注ぎ込むと」

 二人は同時にうなずく。二十個を超える幻魔石の力を受け入れるとなると、アラネス(わたし)の身体はどうなるだろう。筋肉モリモリになったり、巨獣よろしく巨大化したりしないだろうな。

「お考えはわかりますよ。でも理論上、肉体への影響はないはずです。……多分」

「多分て」

「何しろ、前例がないですからねぇ。不確定要素がないとは言い切れませんので」

 流石にこれは、わたしの一存では決められない。アラネスの許可を取らねばなるまい。

『わたしは構いませんよ』

『軽いな』

『いよいよ、鬼神になられるわけですよね。なんというか、甘味料です』

『感無量でしょ。ていうか、わたし、鬼神になるつもりはないんだけど』

 ちらりとシルファを見ると、マッドな笑みを浮かべていた。


 テーブルの上に、透き通る幻魔石がズラリと並べられた。色を失っているのは、封印状態にされているからだ。

「共鳴反応が起こらないように、ひとつずつ封印を解いて、抽出していきましょう」

「それなら、わたしがやりますね」

 颯爽とやって来たリーネが石を手に取り、呪文を唱えた。


『今ここに、(かせ)を解き放たん。彼方に封じられしものよ、(しるべ)のもとに再び還れ』


 石が輝きを取り戻し、リーネの手のひらに収まる。

「沢山ありますし、戦士様の能力を全面的に強化する方向でよろしいですよね」

「いや、だから……」

 リーネは若干興奮状態で、テキパキと作業を進め始めた。


『悠久の時と共に紡がれし、尊き命脈の記憶よ。我が意に応え、今ここに顕現(けんげん)せよ』


 幻魔石から放たれた閃光が、わたしの中に吸収されていく。全身が熱くなっていくのを感じた。


 力を抽出する幻魔石の数が十を超えたあたりから、わたしは意識が少し飛びかけていた。

 周りの景色がスローモーションのように、ゆっくりに見える。時間の流れを精神の認知が上回っている、というやつか。


『アラネス、聞こえる?』

『はい。ですが、少し聞こえにくいような』

 アラネスの声にノイズが混じっている。これは視覚と聴覚の強化と同じで、意識的に集中を解けば元の状態に戻るはずだ。

 大きく深呼吸して冷静さを保つように意識する。


「戦士様、次で最後です」

 リーネが最後の幻魔石の力をわたしに注ぎ込む。瞬間、わたしの中で何かが弾けた。

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