51 アラネスの記憶①
わたしの名前はアラネス。現代の召喚術師の長。それは、女神様のお言葉を賜ることを許された、唯一の者。身に余るほどの光栄である。
わたしが生まれたのは、今から八百十八年前の事。産婆に取り上げられても、すぐに泣かなかったわたしは、身体をピシャリと叩かれて、ようやく産声を上げたという。
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『待て待て、何が始まるんだい』
わたしは頭の中で急に始まったドラマにツッコミを入れた。テレビにツッコむ人みたいでちょっと恥ずかしい。
『何って、わたしの身の上話ですけれど』
『描写が細かすぎる。というか、本当に誕生から始められても困るのよ。巻きでお願い』
『巻き?』
『掻い摘んで、総集編でお願いしますよ』
『わかりました』
アラネスはしぶしぶ返事をした。脳内伝達なので、ドラマでいうと何百倍速もの再生速度だが、精神的に辛すぎる。
* * *
わたしが十八歳の誕生日を迎えた日。わたしは、先代の長のお母様より『儀式の間』に呼び出された。
お母様は祭壇の前に座し、わたしにも座るように命じると、真剣な顔で切り出した。
「アラネス。あなたに話しておかなければならないことがあるのです」
普段は優しいお母様が、ほとんど見せたことのない表情。わたしは、とても大事な話なのだと直感した。お母様はわたしと目が合うと、少し言いづらそうに唇を噛んだ。
わざわざ誕生日を選んで、人払いまでするほどの話。それは、わたしの出生に関わることでは。わたしはそう直感した。
「……お母様。わたしは覚悟は出来ています。どうぞ、本当の事を仰って下さい」
わたしが言うと、お母様は驚いた顔をして、わたしを見つめた。
「アラネス、あなたも成長したのですね」
お母様は大きく息を吐くと、ひとつゆっくりとうなずいた。
「真実を知っても、わたしのお母様はお母様だけですから」
「……何を言っているのです?」
「いいんです。わたしはこの家の子供ではないのでしょう?」
「……鏡を見てご覧なさい。こんなに瓜二つの他人がいるわけがないでしょう」
「あらいやだ」
* * *
『あらいやだ、じゃないよ。なんでわたしは寸劇を見せられているの』
またしてもツッコミを我慢出来なかった。この調子だと結構時間がかかりそうだ。巨獣討伐の方はしばらくシェリルたちに任せ、わたしは少し休憩させてもらうことにした。
* * *
「あなたは召喚術師一族の長となるべくしてこの世に生を受けました」
お母様は、改めて真剣な眼差しでわたしに告げた。
「今日、十八歳となったあなたに、いよいよその役目を受け継ぐ事になるのですが」
そこまで言うと、お母様は誰もいないはずの部屋の中を見回した。
「……女神様の神託を受けるとき、一つだけ守って欲しいことがあります」
それはやはり、女神様に敬意を払うことなのだろうと、わたしは考えた。
「決して、女神様に質問をしてはなりません」
予想と少し違う答えに、わたしは戸惑った。そもそも、お母様が仰る意味がよくわからなかった。
「それは何故です?」
「ご機嫌を損ねることになるからです」
「女神様は質問をされることがお嫌いなのですか?」
「我々はお言葉を賜る側であって、意見を述べる立場にはありません。そこをわきまえるべきということです」
「もし、神託の意味がわからなかったらどうすれば」
「アラネス、質問が多いです。今からその調子では先が思いやられます」
「ですが、自慢ではないですが、物分かりの悪さにはちょっと自信がありまして」
「知っていますとも。だからこそ、わざわざ釘を刺しているのです。……あと、自慢しないように」
お母様が呆れた顔をされている。わたしはまだまだ若輩者。果たして長などという大役が務まるのだろうか。




