49 レシュタノット掃討作戦②
賢者様は、自分を見つめるオーディエンスの視線を一身に浴び、そして意識していた。
それはすなわち、リカによる魅せるバトル劇場の始まりである。
敵の巨獣は首が三本ある、オロチ的な何か。なんか今までのとテイストが違うんですけど。
向かって右側の巨獣の頭が天を仰いで、口から大きな火球を吐いた。リカはそれを平然と左手で受け止めると、そのまま呪文を唱えた。
『エルサーエルタ ウォルタ ボルツ
クルエイ シカヅテ シティキ ウォーテ』
リカが例の呪文を唱えると、それに呼応して火球の色が赤から黒に変わっていく。
『デイ・ヴォランタス』
黒い炎がいくつもの矢のように変化して、巨獣を貫いていく。
『神に唾するものよ、消え去るがいい』
無数の矢を受けた巨獣は、もはや原型を留めていなかった。
リーネの目がハートになっている。リカの思惑通り、心を鷲掴みというわけだ。
「流石、リカちゃん。ツボがわかってるね。ただ、アングルがイマイチだったかなぁ。もうワンテイクいってみようか」
『よかろう』
「どこの監督だ、あんた」
これは遊びではない。しかし、この人たちがいれば、遊び半分で世界を救える気がするのは気のせいだろうか。
リカが次の巨獣の出没地点へ向かう間、他のメンバーの様子をモニターする。
スフィラはやる気がなさそうに荒野を歩いている。シェリルはアリーに乗って空を移動中。カスミは、ちょうど巨獣と遭遇したばかりのようで、地面から生える何かと対峙していた。
『なんの巨獣ですかね』
長い爪が生えた両手で体を支え、地面の穴から頭部を出している。小さい目が赤く凶悪に光り、突き出た鼻には細かい髭が生えている。
「モグラ、かな」
カスミは腰に手を当てたまま、様子をうかがっている。
「楽勝じゃない? モグラは地上の光が苦手なんだよね」
「いやいや、それは間違った知識ですよ。彼らは単に地面の下で生きるように身体が進化しているだけで、光に当たってもどうということはないんです」
シルファにドヤ顔で訂正されて、ちょっと面白くない。
「でも、どっちにしろ地上戦には向いてないんでしょ」
「相手は巨獣ですからね。モグラの形をとっているだけで、本物ではないですから」
そんな話をしているうちに、動きがあった。モグラの巨獣が地面の下に消えたのだ。
「ほら、潜ったじゃん」
「穴から出てきたんですから、潜りもするでしょう」
シルファめ、今日はちょっと調子に乗っている気がする。なんかムカつく。
カスミは、地下に消えたモグラの気配を探ぐっている。巨獣のセンサーみたいなものを備えているので、隠れても無駄だろう。
案の定、カスミの背後から飛び出してきた巨獣は、カスミの振り返りざまのハイキックを顔面に食らって吹っ飛んだ。
カスミは倒れる巨獣に向けて右手を開く。これは例の凄惨な兵器の構えでは。わたしは目を逸らそうと構えていたが、一向に何も起こらない。そのうち、巨獣が起き上がってカスミに襲いかかる。
今度は体当たりされたカスミが宙を飛んだ。
「ちょっ、カスミ!」
一瞬ひやりとしたが、カスミは体勢を整えて着地した。
『ご主人様、ご心配なくですわ。今日はキレイナカンジの兵器にしようと思ったのですわ』
「……ああ、そう言えば前にそんなこと言ったっけ」
それで攻撃を止めたのか。律儀な子だ。
カスミはどこからともなくハート型の宝石が付いたスティックを取り出した。
『魔法少女属性に変更ですわ』
「……なんだそれ」
『幻魔石から学習したのですわ。地球ではこういう武器を振るう少女たちが活躍していると』
「いや、活躍しているというか……まあ、一部で人気ではあるけども」
なんで幻魔石にサブカル的な知識が含まれているのか。やはり、巨獣周りには、地球由来の何かが絡んでいる気配がある。
カスミはスティックをバトンのようにくるくる回しながら、巨獣の攻撃を華麗に避けている。
攻めあぐねた巨獣が疲れて動きを止めたところで、カスミはスティックを振りかざした。
『究極超新星爆発』
スティックから極太のビームが放たれて、直撃を受けた巨獣は蒸発してしまった。自然に頭の中で漢字をあてがってしまったことに気付いて、ちょっと赤面してしまう。
『いかがでしたか、ご主人様』
カスミはスティックを腰に差すと、スカートの裾をつまんで見せた。
「うん、まあ、見た目はかわいいんじゃない。技は凶悪だったけど」
「カスミさん、素敵ですっ。後で握手して頂けますか」
『合点承知ですわ』
リーネが目を輝かせている。この子がこういうのを好むのは、娯楽が少なかった召喚術師の街に籠もっていた反動かも知れない。




