48 レシュタノット掃討作戦①
わたしとマイの目の前には、凶悪な顔をしたカエルの巨獣がいた。
確かに担当分けを決めたのはわたしだが、こんなのが相手だとは聞いていない。
「マイ、あとよろで」
「アトヨロとは何です?」
マイが負けることはまず考えられないので、わたしはそそくさと後方へ引いた。
『戦士様は苦手な生き物が多いですね』
「ああいう、粘膜系の生き物は生理的に受け付けないんだよ」
というか、戦士なんかやっているが、本来わたしは普通の人間の女ですので。
「アラネスは苦手なものはないの?」
『わたしは大自然と共に生きる、召喚術師の長ですよ。そんなものがあるわけ……』
言葉とは裏腹に、わたしの脳内にシルエットが浮かび上がってくる。とぐろを巻いた、細長い生き物。
「なるほど、蛇ね」
『べっ、別に苦手だとは言ってないじゃないですか』
この世界にも、地球と同じような生き物がいる。蛇もそのうちの一つだ。以前、シェリルが蛇の巨獣を倒したが、わたしが相手にしていたらアラネスはどうしていたのやら。
雑談をしていると、いつの間にかカエルが吐いた粘着質の物質にマイが捕らえられていた。
「主っ、お手を借りてもよろしいですか」
「貸せって言われても、どうすりゃいいの」
あたふたしているうちに、マイは巨大な透明の球体の中に閉じ込められる格好になった。さながら、カエルの卵のようだが、これでは息が出来ない。
「しょうがない、アラネス、術法お願い」
わたしは粘膜に向けて、久しぶりに炎を飛ばした。熱すればなんとかなるのではという、安直な発想だったが。
「あっつい!」
熱で変質した球体から、マイが勢いよく飛び出した。少々熱そうにしているが、助けられたので良しとする。
「でも、あの粘液は厄介だな」
マイの格闘術では、また粘液で向かい撃たれてしまう。
『ここは戦士様の出番では?』
「……まあ、そうですよね」
飛び道具を使うにしても、粘液が飛んでくるのは嫌だ。よって、動きを封じることにする。
「アラネス、術法を……」
『お断りします』
アラネスが被り気味に拒否した。カエルの動きを止めるならば、アレしかあるまい。アラネスが嫌がる事は予想済みだ。
『戦士様、ヒドイですっ。そもそも、生き物は具現化出来ないって言いましたよね』
「これは縫いぐるみだから大丈夫だよ。……君は、巨獣を倒すのを拒否すると言うのかい、長さん」
『……わかりましたよう』
アラネスはかなり渋りながら、術法を発動した。
「ディス・イズ・レッドスネーク!」
巨大な赤蛇の縫いぐるみ。ディテールはそれなりにリアル志向なので、見て気持ちのいいものではない。
案の定、巨獣は、蛇に睨まれて硬直した。倒すなら、今だ。
「マイ、今だよ。やっておしまいっ」
「……御意」
マイが鬼の形相で返事して、空高くジャンプした。粘液攻撃がマイの怒りを買っていたらしく、カエルは天空からのかかと落としを食らってノックアウトされた。もしかしたら、怒りの原因は、わたしがちょっと炙ったからかも知れない。
『戦士様、聞こえますか?』
カエルの幻魔石を回収していると、リーネから魔導環に通信が入った。
「ん、リーネ? 聞こえるよ」
『巨獣の残り、二十体です。次の反応はそこからだと距離があるので、一度戻られた方がいいですね』
「了解だよ」
かわいい指揮官に従って、魔導環でシルファの家に戻る。
モニターの前に椅子を並べて、リーネとシルファが座っている。
「ご苦労さまです。ヒカル保安官」
「……なんて格好してんの」
敬礼するシルファに思わずツッコんだのは、二人してどこぞの戦艦の乗組員が着ていそうな、黒い軍服を着ていたからだ。
「こういうのは、形から入る質でして」
「娘まで巻き込まないでくれる?」
「戦士様、お疲れ様ですっ」
リーネまでノリノリで敬礼をしてきた。シルファにいいようにされている気がして面白くない。
「お、シェリル保安官がトドメを刺す模様ですぞ」
二人が見ているモニターは、大掃除作戦に参加している全員をフォローしている。あまりにも自然に存在しているのでスルーしていたが、どういう仕組みで動いているのやら。
シェリルはいつものように、精霊を呼び出していた。白銀の巨大な狼の精霊に相対するのは、こちらも黒い狼の巨獣。
両者はしばしの睨み合いの後、同時に地を蹴る。
空中で交差する二匹。同時に着地するかと思われたが、地に足をつける事が出来たのは、精霊の狼のみ。倒れた巨獣は、青白い炎を上げて消えていった。
「いやあ、美しい勝ちっぷり」
「巨獣、あと十九体ですね」
喜ぶ二人の前には、いつの間にか飲み物とお菓子が用意されていた。映画館かここは。




