47 大掃除
シルファのアトリエに戻り、リカは傀儡のメンテナンスを受けていた。
「リカさんは術法で戦った方が良さそうですね。その方が格好いいし」
格好いいかどうかは知らないが、格闘戦でのあの動きを見る限り、心許ないのは確かだ。
「それでは、わたしはまた旅に戻りますね。夫も待っていますので」
「うむ、世話になった」
旅支度を整えたエレノアがリカに頭を下げた。なんでも、旅の途中にリカに入り込まれたらしいが、傍迷惑な話だ。
魔導環でエレノアのいたウォズヘット大陸の街まで彼女を送る。
「ママなら大丈夫だと思うけど、巨獣には気をつけてよ」
「うん、大丈夫よ」
シェリルが手を振ると、エレノアはこちらに一礼して、ものすごいスピードで走り去ってしまった。
「エレノアさんの旅って、徒歩なのね」
「世界中を自分の足で回るのが目的みたいです」
「体力お化けか」
どうやら、シェリルの素のフィジカルの強さは、両親からの遺伝のようだ。
「時に戦士殿。巨獣討伐はどの程度進んでいる?」
アトリエのテーブルに世界地図を広げて、リカが聞いてきた。
「さあ、数えてないけど、直接倒したのは二十体ぐらいかな」
「ふむ、まだまだ残っているわけか」
リカは腕を組むと、地図の北東の大陸を指差した。
「まずは、今我々がいるここ、レシュタノットの巨獣を掃除してしまおう」
「全滅させるってこと?」
魔導環で巨獣の位置を確認する。今いる大陸には、少なくとも二十数体の反応がある。
「最終的には世界中の巨獣をだ」
「元々そのつもりだったから、反対はしないけど」
「うむ。では、レシュタノットは四日で終わらせるぞ」
「はい?」
わたしは耳を疑った。リカの表情を見るに、彼女はいたって本気のようだ。
四日で二十体ちょっとを倒すとなると、中々に骨が折れる。一箇所に集まっているならまだしも、敵さんは大陸中に散らばって徘徊しているわけで。
「どうして四日なの? そんなに慌てて倒さなくたって」
「それは、アレがアレだから……だ」
リカはそこまで言うと、何度も頷いた。何故かその表情は満足気だ。しばらく待ってみたが、リカは黙ったままだ。
「……まさか、説明終わり?」
そう言えばこの子、口下手かつ説明下手だった。リカが書いた独特過ぎる術法の解説を思い出す。
「実は、巨獣の発生には、法則性があることがわかったんですよ」
見かねたシルファが助け舟を出してきた。
「まず、巨獣は一定の範囲内の個体数が減ると、新しい個体を生み出す性質があること」
しれっと重要な新情報が飛び出した。
「そして、新しい個体が生まれるには、最後に巨獣が倒されてから五日ほどかかる」
「ふーん、つまり、短期間のうちに全滅させてしまえば、この大陸で新しい巨獣が生まれることは無くなると」
「そう、それだ」
リカがわたしに向けてパチンと指を鳴らした。
「そうなると、手分けした方が良さそうだね」
シェリル、リカ、カスミに、わたしを入れた四人でやれば一人頭五、六体か。マイたちもいるので、もう少し効率は上がりそうだ。戦闘要員と言えば、あともう一人。
「一応聞くけど、あなたはどうする?」
素知らぬ顔で部屋の隅にいたスフィラに声をかけてみる。あからさまに嫌そうな顔をされた。
「そういうの面倒くさいんだよね」
「スフィラ、仕事も適度にこなした方がいいと思いますよ。魔導環を剥奪されたくなかったら」
「……母さんがそう言うなら」
スフィラでも、シルファの言葉なら素直に聞くらしい。
「戦士様、わたしはどうしたらいいでしょうか」
名前が挙がらなかったからか、遠慮がちにリーネが聞いてきた。正直言って、娘にはこういう危険な仕事はさせたくない。
「あなたは元々は戦闘要員じゃないから、お留守番かな」
「わたしも、何かお役に立ちたいです」
リーネは澄んだ瞳で、真っ直ぐにこちらを見てくる。娘よ、そんな目でわたしを見ないでおくれ。
『毎回言っていますが、リーネは……』
『言わなくて結構』
アラネスにツッコんでいると、シルファが傀儡を調整するパネルのスイッチを操作した。機械音がして、床から大きな薄型モニターがせり上がってくる。
「リーネちゃんは、ここで指揮官をやってみたらいかがです?」
モニターに世界地図と巨獣の位置が表示されている。要は魔導環を大型化したもののようだ。
「皆さんの状況もこちらで逐一確認出来ますので、巨獣の位置などを教えてあげるといいでしょう」
「わかりましたっ」
リーネが妙にやる気を見せているが、今日はもう遅いので、作戦は明日決行だ。




