44 再訪
今から数万年以上前の超古代。この世界には今とは比べ物にならない程、高度な文明が栄えていた。高層ビルが立ち並ぶ大都市には、網の目のように高速道路が走っており、空には小型の飛行機が飛び交う。
地球でもお目にかからないような、近未来的な文明。歴史書によると、巨獣によって滅ぼされたということになっている。
文明が失われる程まで破壊された世界が、どのように復興したのか、なぜ今も巨獣は残っているのか。その辺りははっきりとしない。
わたしたちはリドスのシルファの家に舞い戻っていた。リカがシルファに会いたいと言うのだ。シルファがもてなすというので、わたしは本を読んで暇つぶしをしていた。
「いやぁ、こちらでリカさんに会えるとは」
シルファは意味深な事を言いながら、わたしたちにお茶を出した。
「お知り合い?」
「懇意にさせてもらっていますよ」
シルファとリカの取り合わせから、何か危険な香りがするのはわたしだけか。
『アラネス、前にもシルファに会ってたの?』
『いいえ、戦士様と一緒にお会いしたのが初めてですよ。……わたしの記憶が確かならば』
最後の一言で大いに信憑性が薄れたが、アラネスが会っていないのは本当だろう。
「シルファさん、賢者様がお話をされたいとのことです」
これはまだ、エレノアの方だ。どうやら、わたしの時と同じく二人だけの脳内会話をやるつもりらしい。
「ちょっと失礼しますよ」
シルファは腕を組んで、目を閉じた。エレノアの方はぼうっとした顔になって中空を見つめだす。傍から見ると、シュールな光景だ。
「……あれ、エレノアさんも会話に参加してるの?」
「いいえ、わたしには何も聞こえてませんけど」
「じゃあ、あなたまで固まらなくてもいいじゃないの」
「何となくですよ。ほら、隣の人が欠伸をすると、自分もしたくなるじゃないですか」
わかるような、わからないような理屈だが、やっぱりわからん。
わたしは二人の会話を待つ間、適当にアトリエを見せてもらうことにした。リーネが片っ端から美術品やら発明品を眺めては、目をキラキラさせている。
わたしは、水晶玉に似た球体に目を引かれた。金属製の台座に置かれたそれは、一見占いに使いそうな物体だが、よく見ると、内部に不思議な光が渦巻いているのだ。わたしの霊力が、特別な何かがあると察知している。
「さすがは戦士様。お目が高いね」
傍らにいたスフィラが、わたしの側にやってくる。
「……これ何?」
スフィラはわたしが聞くのを待っているようだったので癪にさわったが、仕方なく聞いた。
「それは、幻魔石の力を封じ込めた、一種の記憶装置だよ」
「何に使うの?」
スフィラは不敵な笑みを浮かべると、わたしの手を取った。
「ちょっと」
「いいから、それに手を当ててみてよ」
嫌な予感しかしないが、恐る恐る触れてみる。バチッと何かが弾けたような気がして、わたしは一瞬気が遠くなった。
* * *
気がついたとき、わたしはどこかの会議室のような場所にいた。地球のオフィスにあるようなシックな会議卓に、ホワイトボード。一瞬、元の世界に戻ったのかと思った。
「……では、十二号の討伐は失敗したのだな?」
わたしの向かい側に座る男性が顔をしかめて言った。
「失敗ではありません。今回の遠征は、あくまで弱点を調査するためのもので」
わたしが入り込んでいるらしい女性が答えた。どうやら、わたしはアラネスやリカと同じような状態にあるらしい。
「言い訳は結構。成果で挽回する事だ。これ以上被害を出す前にな」
「……はい」
女性が落ち込んでいるのがわかる。上司らしき男は構わずそのまま部屋を出ていった。
「大丈夫? 気にしすぎないほうがいいよ」
部屋にいた女性が声をかけてきた。その顔はリーネにそっくりだった。
「わたしはこの仕事には向いてないんですかね」
「この仕事に、向き不向きはないんじゃないかな」
そう言って、リーネのそっくりさんは、飲み物をこちらに差し出してきた。
「……レティカさんには召喚術があるじゃないですか。わたしには何もないですもん」
「あなたこそ、科学の知識では誰にも負けないでしょう」
「そうですかね。成果が出ない知識なんて、机上の空論と同じですよ」
見た目はオフィスっぽいが、会話の内容からすると、保安委員会の事務局に近い場所のようだ。
「ところで、移送計画の方は進んでいるの?」
「まだ進捗率は三割ぐらいですね。建設に思いの外、時間がかかっていて」
「そうでしょうね。力になれることがあったら、わたしに言ってね。……長には内緒で」
聞き慣れた単語が出てきたので、わたしが知る長さんを呼び出そうと思ったが、反応がない。今は精神がアラネスと分離した状態らしい。
「そうだ。新しく、巨獣の行動を捉える仕組みを作ったんです」
女性は、バッグの中から、見覚えのあるものを取り出した。幻魔石がはめ込まれた、濃い青色の腕輪。
「これは?」
「『術法魔導環』と名付けました。巨獣の力を取り込んだ水晶を、術法で制御することに成功したんです。付近にいる巨獣の位置を把握できます」
「なるほど、毒を以て毒を制すと」
レティカと呼ばれた女性は、少し眉をひそめた。
「何か?」
「いえ、毒が本当の毒にならなければいいけれど」
「やだなあ、持ち上げといて、不安になる事を言わないでくださいよ」
「そうよね、ごめんなさい」
レティカが苦笑したところで、不意に映像が途切れた。




