40 召喚術師の秘術
エレノアが召喚している相手。薄々は感じていたが、やはりあの人なのだろうか。
『その人を召喚すると、何が問題なの?』
わたしは念の為に頭の中でアラネスに聞いた。
『戦士様、わたしが召喚術師の長を務めていることはご存知ですよね』
『それは存じ上げませんでした』
『戦士様、ヒドイ』
『冗談だよ。それで?』
『長にしか、使うことを許されていない召喚術がありまして』
少し前にスフィラがそんなことを言っていたような。
『わたしをこっちに呼んだ召喚術のことよね? 一子相伝の召喚術なんでしょ』
わたしが聞くと、アラネスは少し言い淀んだ。
『……確かに、わたしの家系に代々伝わる秘術なんですが、お母様が雑な方で。よく、奥義書を机の上に出しっぱなしにされていたんです』
なんか、そのエピソードだけでアラネスの母親っぽい。
『気づいた時に、わたしが本棚に戻していたんですが』
『本棚かよ。そこからもうダメじゃん』
雑な親子だ。血は争えないということか。
『妹の性格からして、興味本位で読んだことがあると思うんです』
『本棚にしまっとく人が悪いんでしょ』
『だって、読んだらキチンと元の場所に戻すのは礼儀じゃないですか』
『そういうことじゃない』
アラネスの家系の天然の血が、娘に遺伝しなくてよかった。
『で、エレノアさんがその秘術を使っちゃうと、何がいけないの?』
『秘術の無断使用は、掟で厳しく禁じられています。これに背いたものは、女神様に背いたものとみなされます』
また掟か。この流れだと、エレノアはいよいよ丸坊主か。
『向こう百年、牢獄で過ごしてもらうことになります』
罰が急にハードになった。今度のは止めないとまずそうだ。我々がそんな話をしているとも知らず、エレノアがこちらを向いてにこやかに笑った。
「リーネのところまで行けそうですよ」
「それは有難いんだけど、どうやって術法を使ってるの? やっぱり誰かを召喚してたりとか」
「召喚? ああ、賢者様のことですね」
わたしが託されたノートに、日本語で術法の知識を書き連ねた賢者さん。彼女はわたしと同じ日本人で、こちらに召喚するには次元を越える秘術を用いなければならない。
本当にエレノアが賢者さんをその身に召喚しているのなら、彼女は牢獄で暮らすことになってしまう。
「戦士様?」
エレノアが首を傾げてわたしを見る。もしかしたら、違う賢者様である可能性も残っているのでは。
「エレノアさん、その賢者様の名前、聞いてもいい?」
「リカ様ですよ」
「……ですよね」
エレノアさん、ピンチだ。
わたしが召喚される前に、アラネスがその身を預けていた、アラネス仲間のリカさん。こんな形で会うことになるとは思わなかった。
しかし、今、表に出てきているのはエレノアさんの方だ。少なくとも、アラネスの秘術とは効果が異なるようだが。
「つまり、あなたは賢者さんを召喚しているんだよね」
「とんでもない。お姉様以外が異次元召喚を使ったら、厳しく罰せられてしまいますから」
エレノアがその辺りを心得ていてほっとしたが、そうなると今のエレノアはどういう状態なのだろう。
「召喚というより、賢者様と意識を共有している感じですかねぇ」
エレノアは当然のように説明しているが、いまいちイメージが掴めない。
「召喚とどう違うの」
「賢者様はご自分の方から、わたしの魂に潜り込まれたんですよ」
つまり、召喚とは逆に、他人に入り込む術法があるのだろうか。それだと、地球に帰ったリカさんが、エレノアを見つけて乗り移ったことになるが。
『なるほど、賢者様ならやりかねませんね』
アラネスは納得しているようだ。
『そういうもの?』
『冷静に魂の色を観察すれば、エレノアの言う通りだとわかります。……賢者様にまたお会い出来ようとは』
アラネスは泣きそうな声を出している。そう言えば、リカさんがなぜ元の世界に帰ったのかは、まだ聞いていない。リーネを迎えに行ったら、リカさんとちょっと話せるだろうか。




