39 意思伝達
シェリルとは合流出来たが、リーネとカスミの居場所がわからない。魔導環でカスミの反応を探すが、近くにはいないのか、見つけられない。
「アラネス、リーネの居場所の方は、見当もつかないの?」
『召喚術師同士でわかるのは、現世にいるということだけです』
リーネはしっかりしているし、変なことにはなっていないと思うが、心配だ。
『意思伝達の術法ならば、連絡が取れるかもしれません』
「それ、居場所がわからなくても使えるの?」
『簡単ですよ。魂の波動を探れば』
「どこが簡単なのか、簡単に説明して」
霊感を身につけたとはいえ、何億もいるであろう人の魂の中から、リーネを探り当てられるわけがない。
『ふふん、やはり本物の親子のようにはいきませんか』
アラネスめ、いっちょ前に煽ってやがる。
「よーし、やってやろうじゃないの」
わたしは賢者さんのノートを開いて、意思伝達の術法に関する記述を見つけた。
『我が意志は言霊となりて、万象を超える』
呪文を唱えて、賢者さんによる解説に從う。
『まず、固定観念を捨てましょう。あなたが求めるその方の顔を思い浮かべてください。その方は糸電話を握っていて、あなたの電話に赤い糸で繋がっています』
なぜ赤い糸なのかは置いておいて、リーネの顔を思い浮かべて問いかけてみる。
『リーネ、聞こえる?』
『その声は、戦士様ですか?』
すぐに返事が返ってきて、ひとまず安心する。
『今どこにいるの?』
『ええと、戦士様の目の前に』
『目の前ってどういう……』
と、聞き返そうとして、エレノアと目が合う。
「……もしかして、今の、エレノアさん?」
彼女はぽっと頬を赤らめて目を伏せた。
「なぜ照れる」
「姪っ子のリーネと間違えられるなんて、わたしもまだまだ若いんだなあと」
二人の顔がよく似ているせいで、リーネをうまくイメージ仕切れなかったようだ。目を閉じて、もう一度チャレンジしてみる。
『もしもし、リーネ?』
『キャ♡』
「キャ♡じゃないっ」
わたしの近くにいるエレノアの方に、どうしてもイメージが引っ張られてしまうようだ。段々もどかしくなってくる。
「そういうときの対処法が、次の頁に書いてあるそうですよ」
エレノアが言った。
「次の頁? ノートの?」
わたしは賢者さんのノートを開いて、意思伝達の術法の頁をもう一度開いた。解説の頁の裏に、但し書きがある。
『うまく相手のイメージが出来ない場合、相手との出会いから、今日までの記憶を辿ってみましょう。その延長線上に、魂の残り香があるはずです』
リーネと最初に出会ったのは、召喚術師の街だ。見た目の可愛らしさとは裏腹に、凛とした空気をまとっていて、ちょっとビビったのを覚えている。一緒に旅をしていくうち、娘のように思えてきて、今では実の娘だ。
『違いますからね。わたしの娘ですからね』
『盗み聞きしないでよね』
アラネスの意見は横に置いておいて、リーネへのイメージを膨らませたところで、改めて術法を試みる。
『リーネ、聞こえる? お母さんだよ』
『お母……様?』
今度は間違いない。この声はリーネだ。
『ああ、戦士様ですね? ご無事でなりよりです。どちらにいらっしゃるんですか?』
言い直さなくていいのに。真面目な子だ。
『大分遠くに飛ばされちゃったみたい。魔導環の地図だと、ウォズヘット大陸の南、らしいよ。あと、シェリルも一緒』
『ウォズヘット大陸ですか。書物で読んだことはあります』
『怪我とかしてない?』
『わたしは大丈夫です。カスミさんが少し故障したみたいですが』
『カスミもいるのね? 合流するから場所を教えて』
『それが、その……迷子になってしまいまして』
リーネは急に困った声を出した。
『森の中にいるんですが、西も東もわからない有様で』
『わかった、迎えに行くから、じっとしてて』
リーネと伝心を終えて、エレノアの顔をうかがう。もちろん、さっきの転送の術法を期待してのことだ。
「エレノアさん、娘が迷子になったみたいなんだけど、なんとかできる? 場所も見当がつかないんだけど」
「わかりました。では、術法をお願いしてみます」
そう言えば、さっきからエレノアはどうやって術法を発動しているんだろう。
『そのことなんですが、エレノアは誰かを召喚しているようです』
アラネスは妙に神妙な声で話した。
「彼女も召喚術師なのなら、別に不思議でもないでしょ」
『そうなんですが、召喚している相手がわたしの予想通りだった場合、ちょっと困ったことになりまして』
アラネスは何やら不穏な空気を出してきた。




