27 傀儡の戦士
わたしたちが家に戻ると、シルファが待ち構えていた。
「どうでしたか? 傀儡の具合は」
「悪くはないけど、やっぱり力の加減が難しいよ。ヘソはくすぐったいし」
あと、アラネスはわりと落ち着いた声だが、傀儡から出るのはアニメ声なので、小っ恥ずかしい。
「やはり出力が最大の課題ですよね。ちょっと出力系をいじってみましょう」
「いじるのはいいけど、わたしが出てからにしてね」
この人の近くにいると今すぐにでも改造しかねない。わたしはシルファから離れてアラネスの側に行く。さっきから手をもじもじさせながら、何か言いたそうにしていたのだ。
「変な感じだよね、こうやって話すの」
アラネスの身体に召喚されてからそれ程時間は経っていないが、自分と話しているような感覚になる。
「……あの、戦士様。出来れば早くお戻り頂きたいです。とても落ち着かなくて」
そういえば、アラネスは誰かを召喚していないと不安で叫びたくなるとか言っていたな。
「わかったわかった。じゃあ、早く戻して」
わたしが言うと、アラネスはキョトンとした顔でこちらを見た。
「……戻す?」
「ああ、ラフィスにお願いした方がいいのか」
と、ラフィスを見ると、ニコニコしたまま、首を傾げた。急に胸騒ぎがしてくる。
「まさか、戻せないとか言わないでしょうね」
「わたしは召喚術師ではないので、戻し方はわかりませんよ」
もう一度アラネスをうかがうと、こちらも眉をハの字にしている。
「アラネス、あなた本職でしょ」
「そう言われましても、既に戦士様を召喚している状態ですので、召喚術は使えませんし」
このままでは傀儡の姿で過ごす羽目になる。わたしはラフィスに詰め寄った。
「あなた、出し入れ自由って言ってたよね」
「はい、傀儡ならいくらでも。召喚術師さんだし、身体に戻すのなんてカンタンだと思っていたんですけど。ごめんなさい」
ラフィスは笑顔で舌をちろりと出した。こやつ、悪気があるのかないのか、つかめないにも程がある。
「そんなに困りますかねえ」
棚をゴソゴソしていたシルファが、割って入ってきた。
「自慢する訳じゃないですが、機動傀儡はかなり高性能ですし、お好みで見た目も変えることも出来ますよ」
そう言って、シルファはわたしに冊子を差し出した。パラパラとめくって見ると、傀儡の頭部や身体の各パーツのカタログのようだ。要するに、傀儡のカスタムメイドが出来るということらしい。
冷静になって考えてみると、傀儡の身体には確かに違和感はあるが、見た目はほとんど生身と変わらない。わざわざアラネスの身体を二人で共有する必要もないのだ。カタログにはちょっと可愛い頭のパーツもあったりして、興味が出てくる。
「ねえ、この三十二番の頭って実物ある?」
「ちょっと、戦士様っ」
アラネスが素早くわたしの手を引っ張ってきた。
「別に一緒の身体じゃなくても旅は出来るでしょ。あなたもたまには表に出た方がいいって」
「ひどいっ、わたしを見捨てるんですね」
なんか、わたしがアラネスを振ったみたいな空気を出してきた。
「戻れないんだから、しょうがないじゃない。そんなに一人が苦手なら、誰か他の人を呼ぶとか」
「さっきも言いましたけど、戦士様を召喚中は、他の召喚術は使えないんですっ。こんな貧相な身体のままひとりでいても、何も出来ないじゃないですか」
十分過ぎるほど可愛いくせに、何かというと自分の容姿を卑下するな、この人。わたしがため息をついていると、リーネがつかつかと歩いてきて、アラネスの前に仁王立ちした。
「お母様、召喚術師の長として、もう少ししっかりして頂かないと困ります。我々の行く末を決めるのはお母様なのですよ」
「はい、すみません……」
アラネスはみんなの前で娘に怒られて、すっかりしょげ返っている。ちょっと可愛そうに思えてきた。
「リーネ、元に戻す方法ってないの?」
わたしが聞くと、リーネは少し考えてから手を打った。
「一度、魂だけの状態になっていただければ、霊獣と同じ要領でなんとか出来るかも知れませんね」
霊獣というと、シェリルの祖先のテリオさんがなってたアレか。あまりイメージは良くないが。
「じゃあ、ラフィスにお願いして……」
と、再びラフィスの方を見ると、ラフィスは手を合わせて呪文を唱えるところだった。
『欠けたる魂よ、暫しの刻、我が写身に回帰せよ』
ラフィスの身体が虹色に輝き出す。ラフィスの姿が少しずつ大きくなっていき、スフィラに変わってしまった。
「お久しぶり、傀儡の戦士様」
スフィラがわたしにウインクした。やっぱりこっちはいけ好かない。
「なんで急に入れ替わったの」
「表に出ていられる時間が決まっているんだよ。時間内に入れ替わらないと大変な事になるからね」
一体どんな大変な事になるというのか。
「それより、事情は聞いてた? わたしを一旦、傀儡から出してもらいたいんだけど」
スフィラは笑顔のまま首を横に振った。
「僕は一般の術法が専門でね。ああいうのはラフィスの得意分野だよ」
「じゃあ、生みの親にお願いしようかな」
「子供が出来ることを、親も出来ると思うのは安直ですよ」
シルファがドヤ顔で言うので、若干イラッとする。それを逆撫でするように、スフィラがわたしの肩に手を置いた。
「そんなに慌てなくてもいいだろうに。ラフィスに入れ替わってから頼みなよ」
「それ、いつなのよ」
「丸一日後。明日の同じ時間だよ」
どうやら、わたしはあと一日は傀儡の身体で過ごすことになりそうだ。アラネスが心細そうに、わたしの服の裾を握っていた。




