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ヒカリの戦士と召喚術師  作者: 神楽一斗


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26 対巨獣用機動傀儡

 わたしは部屋に置いてあった鏡を見つけて、自分の姿を確認した。ラフィスの傀儡。自由に手足も動くし、表情も変わるが、視覚と聴覚以外の感覚がない。VR系のアトラクションをやっている気分だ。

 わたしの魂が抜けたことで、アラネスも身体を動かせる状態になっているようだ。

「戦士様、改めましてアラネスです」

「今更改めなくていいから」

 アラネスがわたしに頭を下げるが、違和感しかない。ゲームでいうと、自キャラを他人に使われているような感じだ。

『面白いでしょう』

 頭の中からラフィスの声がする。

『これ、ちゃんと元の身体に戻せるんでしょうね』

『ご心配なく。出し入れ自由ですよ』

 少しだけ頭の中が軽くなったような感覚がした。ラフィスが傀儡から抜け出て召喚体に戻ってみせたかららしい。

「お望みでしたら、ヒカルさんの傀儡も作りましょうか」

 シルファが怪しげな道具を片手に申し出るが、傀儡の身体はどうにもしっくりこなかった。ゲームとは訳が違う。

「生身で活動するのに、肌の感覚がないのはちょっと不便かな」

「その身体、スフィラの希望でわざと触覚を外してあるんですよ。戦闘時に痛みを感じて、出力に制限がかからないように」

 スフィラの傀儡が壊れた理由がなんとなくわかった。派手な術法でもぶっ放したのだろう。

「それだと、繊細な動きをするのには向いてないね」

 指先の感覚がないので、物を掴むのにも苦労しそうだ。わたしが言うと、シルファが何度もうなずいた。

「よろしければ、傀儡の使用感のご意見を伺いたいんですが、ご協力頂けませんか? もちろん、タダでとは言いませんよ」

「あなた自身も傀儡なんでしょ? 自分で確かめればいいじゃない」

「わたしのは、人間基準で調整しているので」

 じゃあ、わたしが入っている傀儡は何基準なのか。何にしろ、面倒臭い事になりそうな予感がして、わたしは答えあぐねていた。すると、シルファは不敵な笑みを浮かべて、リーネの方にすり寄った。

「お礼ですが、例えば、『メルミル』の第一巻の初版本とかいかがですか」

 それを聞いて、リーネの表情が変わった。

「あとは、どこにも発表していない、先代シルファの画集とか」

 リーネの目が泳いでいる。本当は欲しくて仕方ないが、わたしに遠慮して言い出せずにいる模様だ。

「わかったよ、可愛い娘の為なら仕方ない」

「あの、リーネはわたしの」

 例のごとくアラネスが訂正してくるが、聞こえないふりをした。


 わたしはラフィスの傀儡に入ったまま、手術台を思わせるテーブルに寝かされていた。シルファに触覚機能を付けてもらうためだが、いじられる度にくすぐったくて仕方がなかった。

「ちょっと、くすぐったいんだけど」

「触覚の調整は加減が難しいんです。我慢出来なくなったら教えてくださいね」

「はいっ、我慢できない」

「ちょっと我慢してください」

 歯医者じゃあるまいし、と突っ込む間もなく、今度は全身に電気ショックが走った。

「ねえっ、壊れないでしょうね」

「大丈夫ですよ、わたしの作った神経回路は完璧ですから」

 これは信じていいやつだろうか。だんだんシルファがマッドサイエンティストに見えてきた。

 それから責め苦を受け続け、二、三十分ほどで、ようやく開放された。わたしはヘロヘロの状態で身体を起こした。生身の身体だったら色々と漏れているところだ。

「どうです? ヒカルさんは神経系の適応値が飛び抜けて高かったので、かなりの出力が期待出来ると思いますが」

 シルファが鼻息を荒くして説明する。ロボットアニメ的なアレか。わたしは全身の感覚を確かめながら、ゆっくりとテーブルから降りたつもりだったが、その足で、床を踏み抜いてしまった。力の加減を誤ったらしい。

「いやあ、ここまでとは」

 シルファはカラカラと笑っているが、わたしは動くに動けなくなった。

「これ、危ないんじゃないの」

「大丈夫ですよ、床ならすぐ張り替えられるんで」

「そうじゃなくて、こんな状態じゃ、人を怪我させかねないでしょう」

「……仕方ないですね、制限をかけておきましょうか」

 シルファはつまらなそうに口を尖らせて、わたしのヘソに指を突っ込んだ。

「ちょっと、何やってんの」

「出力の制御ツマミをいじるんですよ」

 なぜヘソにしたのか。感覚は普通にあるので、恥ずかしくてしかたない。この人はマッドというか、ちょっと変人なのかも知れない。

 シルファの調整によって、ある程度は力をセーブ出来るようになった。それでも、指先で石を粉砕出来るぐらいのパワーはあるようだ。

「……それで、わたしはどうすればいいの?」

 わたしが聞くと、シルファはオレンジ色の魔導環を持ち出して、近くの巨獣の位置を地図に表示させた。

「その傀儡は、対巨獣用に調整している最新型でして。ぜひ、実戦でどこまで運用出来るのか、確かめていただきたいんです。その上で感想をお聞かせいただければと」

 そんなことだろうとは思っていたが。シルファの危ない実験に巻き込まれているだけのような気がしてきた。


 シルファの家からもう少し森の奥に入った先に、それはいた。なぜ、森で出くわす巨獣は虫の姿を取るのだろう。出くわしたのは、よりにもよって、蜘蛛の巨獣だった。

 今はアラネスが頭の中にいないので、いつもの戦い方は出来ない。今日は傀儡のパワーだけで何とかするしかないのだ。

あるじ、我もお助け致しますので、ご安心を」

 マイがわたしの傍らで親指を立てて見せた。

「頼りにしてるよ」

 マイがいてくれるのは心強いが、あのおぞましい姿と向き合うだけで、身の毛もよだつ思いだ。今は髪の毛以外に身の毛はないが。余計な事を考えていると、巨獣が口から糸を吐いてきたので慌てて飛び退く。

「主、触りたくない相手であれば、地形を利用するのです」

 と、マイは小石を拾って巨獣に向かって思い切り投げつけた。ぐしゃっと嫌な音がして、巨獣の腹に石がめり込んだ。やめてください、マイさん。

「もう少し、キレイに退治したいんだけど。出来れば一撃でやっつける感じで」

「それなら、頭部を速やかに切断しましょう」

 マイはさらっと言い放つが、それはトラウマになるやつ。とはいえ、出来るだけ早く退治しつつ傀儡のパワーを試すには、派手な方法を取るしかない。わたしは背後にいたアラネスに目配せをした。

「アラネス、術法で岩を作り出せない? 出来るだけ大きいのを」

「作り出すだけならわたしでも出来ますが、巨獣にぶつけるのは難しいですよ」

「岩さえ作ってくれれば、こっちでやるから」

 アラネスはうなずくと、両手を合わせて、念じ始めた。アラネスの前に小さな石が生まれて、少しずつ大きくなっていく。巨獣を超える大きさになったところでわたしは手で制した。

 対巨獣用機動傀儡のリミッター解除方法。ヘソの中に指を入れて、三回押した後、反時計回りにぐるぐると十回回す。自分でやってもくすぐったい上に、リーネの視線が少し痛い。

「みんな、退いて」

 わたしは半ばやけっぱちで、岩を両腕で抱えて力を込めた。容易く持ち上がった岩は、指先の力だけで風船のように飛んで行き、巨獣を押し潰していた。

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