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ヒカリの戦士と召喚術師  作者: 神楽一斗


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24 シルファの家

 街の東側から続く散歩道を行くと、穏やかな木漏れ日が差し込む森に辿り着く。空気も澄んでいて、ここにいるだけで心まで洗われるような、癒やしの空間だ。

 わたしたちは、絵本作家シルファが住むという家を探して歩いていた。ラフィスが現れないか、時折周囲を警戒するが、姿は見えない。

 しばらく歩くと、煙突屋根の小さな家が見えてきた。絵本から飛び出したような外見で、窓の形はハート形、入り口の扉も一見しただけではどう開けていいのかわからないデザインだ。白い木枠で囲まれた庭には、可愛らしい花が咲き乱れていた。

「あれです、間違いありません」

 リーネが先頭を切ってその家に駆け寄る。表札などは無いが、窓から見える部屋の机に、画用紙が置かれている。アトリエか何かだろうか。

「ごめんください、シルファ先生はご在宅でしょうか」

 リーネが扉をノックして声をかける。少し間を置いて、中から女性の声がした。

「開いていますよ。今、手が離せないので勝手に入ってください」

 リーネは言われるがまま、そっと扉を開けて中に入る。わたしとシェリルもそれに続く。

 中に入ってすぐ、わたしは思わず立ち止まった。壁や床、天井の一面にトリックアートが施されていて、平衡感覚が狂いそうになったのだ。

「先生、どちらにいらっしゃいますか」

 リーネが聞くと、奥の部屋から返事が返ってきた。

「隣の部屋です、どうぞ」

 位置関係からすると、声がしたのは外から見えた部屋のようだ。先に部屋に入ったリーネが、感嘆の声を漏らす。リーネは壁中に架けられた絵に目を奪われているようだった。大きなリンゴの木や、不思議な色の空など、幻想的な作風の絵が並んでいる。その中でも、中央にある双子の絵が一際異彩を放っていた。絵のタッチが精密で、まるで生きているかのように見える。あの双子の絵に間違いないが、わたしが気になったのは、その真下に立っている、ラフィスにそっくりな人形だった。

「よくいらっしゃいましたね、皆さん」

 奥の作業机で絵を描いていた彼女は、絵筆を置いてわたしたちを出迎えた。全身絵の具まみれになったツナギを着ていて、髪には寝癖がついている。何日も外に出ていないといった風貌だ。

「あなたがシルファ先生ですね。あのっ、握手して頂けますか」

 リーネが目をキラキラさせて彼女の顔を見上げた。

「もちろんです」

 リーネは差し出されたシルファの手を、両手でしっかり握りしめた。リーネのガチっぷりに若干引いていると、今度はシルファの様子がおかしくなってくる。目尻は下がり、ニヤつきながら、リーネを見つめている。

「お嬢ちゃん、よかったらここで暮らしませんか」

「……突然何を言い出すの」

 わたしは秒でツッコミつつ、二人の間に割って入った。

「だってかわいいんですもの」

「知ってるよ。……じゃなくて、この子はわたしの娘なんで」

『あの、わたしの娘なんですが』

 アラネスが訂正するが、聞かなかったことにする。

「では、本人に聞いてみましょう。わたしと一緒に芸術を極める気はありませんか?」

 リーネはわたしとシルファに挟まれて戸惑っていた。

「ここで暮らすと、新作絵本を誰よりも早く見せてあげますよ」

 リーネはオロオロしながら、わたしとシルファを交互に見ている。ちょっと可哀想になってきた。

「困ってるでしょ、うちの娘をたぶらかさないで」

 わたしはリーネを抱え上げると、背中の後ろに隠した。

「絵本の原画も見せてあげるのになー」

 シルファの甘言に、リーネがピクリと反応したのがわかる。

「……こら」

 ひと睨みしてやると、シルファは観念したように両手を上げた。

「冗談ですよ。それで、御用は何でしたっけ」

「あの双子のことを聞きに来たんだけど」

 わたしは壁の双子の絵を指さして言った。

「なるほど。では、お茶を飲みながらにしましょうか」

 シルファは部屋の一角のテーブルを指さした。


 シルファはわたしたちに紅茶とお菓子を出してくれた。テーブルも椅子も、紅茶の入ったカップまで、全部が手造りのように見える。この人はそっち方面にも長けているのだろうか。

「あなた方は、例の召喚術師様御一行ですよね。スフィラが失礼を働いたみたいで、すみませんでした」

 わたしはシェリルと視線を合わせた。どうやら、読みは当たったようだ。

「あの双子はなんなの? 普通の人間じゃないようだけど」

「わたしの分身です」

 シルファは席に着くなりさらっと言い放った。分身と聞くと、忍者的なやつを思い出すが、少なくともシルファと双子は似ていない。

「正確にはわたしの魂の一部と言うべきですね。彼らにはちゃんと意志がありますから、わたしの子供みたいなものです」

 さも当然のように言っているが、それってとんでもない術法なのでは。

『アラネス、どう思う?』

『魂の一部に作用する術法など、聞いたことがありません。彼女は世界でも屈指の術師かも知れませんね』

 見た目からはとてもそうは思えないが。わたしの疑いの眼を気にする様子もなく、シルファは双子の絵の方向を指差した。

「そこに、ラフィスの傀儡くぐつがあるでしょう」

 この部屋に入ったときから、ずっと気になっていた、やたらリアルなラフィスの人形。まつ毛の一本まで細かく作られていて、今すぐ動き出しても不思議ではないレベルだ。

「わたしが造った『機動傀儡』です。元々はあの子達用の身体として二体造ったんですが、スフィラの物は本人が壊してしまいました」

 確か、ラフィスが身体を無くしたと言っていた。こういう意味とは思わなかったが。

「『魔法伝記メルミル』の主人公の容姿を決めるために、いくつか傀儡を造っていたんです。どうせなら動いた方が想像しやすいかなと思いまして」

 スケールが大きすぎて話について行けない。わたしが半ば呆れていると、シルファはふっと笑みをこぼした。

「他にご質問はありますか?」

 シルファの問いかけに、リーネが真っ直ぐ手を挙げる。

「最近になって絵柄が大きく変わったのは何故ですか?」

「それは、先月『シルファ』は代替わりしたからです。わたしは五代目シルファです」

 それを聞いて、リーネが目を丸くしている。

「シルファって屋号みたいなものなの?」

「三百年続いた、由緒正しき名前なんですよ」

 リーネも知らなかったらしく、なんだか挙動不審になっている。

「で、では、先代の方はどちらに」

「お亡くなりになりました」

 リーネは両手で口を押さえた。相当ショックを受けているようだが、召喚術師って人の死を悲しまない死生観ではなかったっけ。

「もう、あの絵は見れないんですね」

 リーネはしみじみと壁の絵を眺めた。そっちか。確かに、向かい側の壁にタッチの違う絵が並んでいる。こちらが先代が描いたものらしい。

「四代目の世界観は独特でしたもんね。わたしにはちょっと出せない色ですよ」

「色彩は暗めなんですが、心の奥に響くというか、秘めた暖かさがあるんですよね」

 なんかディープな話が始まって、わたしとシェリルは置いてきぼりになった。

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