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ヒカリの戦士と召喚術師  作者: 神楽一斗


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23 陰陽の双子

 天空の街エルシエルに住む召喚術師一族は、魂に問いかけて助力を求める能力を与えられた者たち。古代より、彼らは有事の際に力を奮い、危機を救ってきたとされる。


 宿に置いてあった『召喚術師の歴史』という冊子の一節だ。わたしが知る召喚術師といえば、アラネスにリーネ、シェリルの三人。彼女たちには、ある程度共通項がある。まずは、召喚術を操れること。三人共女性で、実年齢よりはるかに若く見えること。あと、これはアラネスの一族だけかも知れないが、とにかく顔がかわいい。

 ラフィスの見た目は十代後半ぐらい。もし召喚術師の類なら、実年齢は不詳ということだ。召喚術を使えるかはわからないが、リーネたちと同じく見た目はかわいい。ただし、召喚体に近い存在らしいので、作り物の可能性が高い。


 そのラフィスは、宿のロビーの窓から外を眺めながら鼻歌を歌っていた。どさくさに紛れてわたしたちについてきたのだ。その横でマイが仁王立ちして睨んでいても、気にする様子はない。

『あの者、何が目的なのでしょう』

『こっちが聞きたいよ。わたしがいた世界を知ってるみたいだから、それでつきまとって来てるのかもね』

 アラネスにわからなければ、正体を知る由もない。そう思っていると、ラフィスを観察していたリーネが口を開いた。

「あの人、どこかで見たことがあるんです」

「会ったことがあるの?」

「いえ、何かの書物で見たような……」

 この世界には映像や写真のようなメディアは存在しない。書物に載っているとしたら、手書きの絵ということになる。

「もしかして、『魔法伝記メルミル』ですか」

 シェリルが割って入ってきた。アリーの元ネタの子供向け絵本のことだ。

「何度も蒸し返さないでくださいよっ」

 リーネはほっぺたを膨らませたが、途中何かに気づいた様子で中空を見つめた。

「……確かにメルリアとミルシェも双子の魔法使いです。陰を司るメルリアと光を司るミルシェ。二人は同時に世界に存在することを許されていないんです」

 段々とリーネの説明に熱が入っていく。

「最初の方は少し暗い感じの絵だったんですが、最新作の『最果ての迷宮』から絵柄ががらりと変わったんです。つい最近入手したばかりで、まだもったいなくて表紙しか見ていなくて……」

 わたしたちは早口でまくし立てるリーネを、生暖かく見守っていた。空気を察したリーネが我に返って口を押さえる。

「要するに、ラフィスたちが、その双子にそっくりってことかな」

「……はい」

 リーネの顔が例のごとく真っ赤になっていた。

「ちなみに、その最新作が発売されたのはいつぐらいなの?」

「先週の初めです」

 つまり、どういう経緯か、ラフィスたちは絵本の主人公の姿をとっていて、絵本が発売されたばかりならば、今の姿になったのもつい最近ということになる。

 シェリルが本棚から絵本を取ってきてパラパラとめくった。

「なるほど、スフィラが陰で、ラフィスが光ってところですかね。言われてみると、設定までそっくりですよ」

 宿にあったのは古い方の絵本なので、顔や姿は違うようだ。ラフィスが全身に巻きつけている、鎖状のアクセサリーだけは共通している。

「リーネ、この鎖には何か意味があるの?」

「封印の鎖です。双子の片割れを封じ込めておくためのものです」

「もし鎖が切れたら?」

「封印が解けて双子が鉢合わせになります。相反する力が空間の繋がりをほどき、世界が壊れてしまうと言われています」

 自然とラフィスが身に着けている鎖に目をやってしまう。まさかとは思うが、触らぬ神に祟りなしだ。わたしたちは明日にはこの街を出るつもりだが、ついてくる可能性は高い。


 翌朝、ラフィスの姿が見えないことを確認して、わたしたちは早々にアリーの背に乗って北を目指した。北方にはリドスという大きめの街があり、アラネスによると賢者さんが封印した石があるらしい。事務局からもいくつか依頼が出ているようだ。アリーのスピードは全速力のフェルよりも速いが、それでも二時間近くかかってしまった。

 街が見えてきた頃合で地上に降りる。今のところはラフィスの気配はない。リドスはミラクレム程ではないが、洗練された街並みの都市だ。レンガや木で作られたビル群が並んでいて、洒落たビジネス街という印象だ。

「ここが、リドスなのですね。一度来てみたかったんです」

 リーネが目を輝かせている。

「この街、有名なの?」

「世界のほとんどの書物は、ここで作られているんですよ」

「じゃあ、あの絵本も」

「そうなんです。作家のシルファ様もこちらに住まわれています。この街の東の森に自身で小屋を建てて、書斎を構えてらっしゃるんですよ。そもそもシルファというのは筆名で、森の妖精の……」

 そこまで言いかけて、リーネは慌てて口をつぐむ。かわいいな、我が娘。

「せっかくだから、行ってみる? 何か手掛かりがあるかも知れないし」

 ラフィスの気配はなさそうだし、動くなら今だろう。

「あの方の手掛かりがシルファ様のお家にあるのですか?」

「結構、可能性高いと思うけど」

 作者の名前がシルファと聞いて、ピンときた。ラフィスやスフィラと語感が似ている。あの二人の召喚体が例の絵本をモチーフとしていて、その作者が近くにいる。わたしの霊力が、何かあることを予知していた。

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